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「RAW~少女のめざめ~」”Raw” aka “Grave”(2016)

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映画レビュー
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「RAW~少女のめざめ~」(2016)

作品概要

  • 監督:ジュリア・デュクルノー
  • 脚本:ジュリア・デュクルノー
  • 製作:ジャン・デ・フォレ、ジュリー・ガイエ、ナディア・トリンチェフ、ジャン=イブ・ルバン、カッサンドル・ワルノー
  • 音楽:ジム・ウィリアムズ
  • 撮影:ルーベン・インペンス
  • 編集:ジャン=クリストフ・ブージィ
  • 美術:ローリー・コールソン
  • 衣装:エリーズ・アンション
  • 出演:ガランス・マリリエール、エラ・ルンプフ、ラバ・ナイト・ウフェラ、ローラン・リュカ 他

フランス人監督ジュリア・デュクルノーによる初の長編監督作品。

この作品はカンヌ国際映画祭において批評家連盟賞を受賞、その他数々のインディペンデント系映画賞にノミネートされています。

主演には、監督のシュートフィルム「Junior」でも主演を務めたガランス・マリリエール。

各批評筋での評判の高さ、失神者がでたという噂も聞こえるエクストリーム描写。

私もかなり楽しみに待っていた作品です。日本ではフランス映画祭にて少し先に見れたのですが、時間的に余裕がなく、今回の一般公開まで待つことに。

休みの日ではありましたけど、ほぼ満員でした。年齢層は広めで、若い人が多く見えたのも印象的。で、隣のおばさんが色々辛そうでしたw

まあ、確かに結構真正面からの身体描写がありますので、もともと結構苦手な人はご注意を。

~あらすじ~

厳格なベジタリアンの家庭に育った少女ジュスティーヌ。彼女は両親、そして現在は姉も通っている獣医学校へと進学する。

そこでは上級生からの”新入生の通過儀礼”が用意されており、ジュスティーヌはそこで生の羊の肝臓を食べることに。

ベジタリアンであることを伝え、姉にも助けを求めたが、学校で仲間外れにされたくない思いが勝り、彼女は人生で初めて肉を口にしたのだった。

それまでとは違う環境に加えて、血肉の味が彼女の中で何かを目覚めさせていく。

感想/レビュー

ジュリア・デュクルノー監督、これが初長編とは。ジョーダン・ピールといい、最近の初監督ヤバくないですかw

作品はもちろんホラーとして宣伝され、やはりカニバリズムが目立つところかもしれません。

そして、よく言われるように、少女から大人の女性への変貌、それが性と肉への目覚めと重なった物語と言うのも確かではあります。

しかし、少女の不可逆的成長記以上のものがこの作品には込められていました。

カニバリズムをアイデンティティとして描く

人体の極限的な描写によって描かれるカニバリズムですが、まずは今作が持っているカニバリズムの捉え方が私は非常に好きでした。

カニバリズムと言えば、食人鬼、食人族、狂気的殺人鬼やサイコパスなど、何かしら現実離れした異常者の行為として描かれることがふつうであると思います。

しかし、この作品はカニバリズムをそういった異常なものとは描いていないように思いました。良いとか悪いとかいう概念を取り払い、むしろ一つ何か変えられない本質として提示しています。

何しろ主人公のジュスティーヌが、本当によく描写された普通の少女なんですよね。

ちょっと優等生過ぎる部分があったり、姉との喧嘩や仲良くじゃれ合うところなどは、ほのぼのして可愛らしいものでした。

そんな彼女が、保護された世界からより大きな世界に放り込まれていく中で、自我に目覚めていく。

始まってすぐの学生たちのオールナイトの喧騒の見事さ。

グルグルとまわりカオスな状況をワンカットでみせていく。ライティングの色彩異常感も映画の各所に出ていて好物でした。

嫌悪と悲哀のバランス

そしてそれ以上にエクストリームな身体表現が繰り出されていくのですが、あの中指シーンなど含めて、絶妙なバランスだったと思います。

もう少し行き過ぎると、おそらくスプラッタになってしまい映画の軸とずれるでしょうし、控えてしまうとそもそも作品が見せたい少女の本質が薄らいでしまうと思います。

少なくとも彼女の行為自体には、嫌悪感を抱かせる必要があるからです。このバランスは本当に見事でした。

ここぞで流れるポップミュージックの選曲も、ジム・ウィリアムズによるスコアもすごく良いですね。

世界から拒絶される、ありのままの自分

少女の本質としてのカニバリズム。

大きな世界に飛び込んで、初体験を経て気付いた自分という存在。その根底にある部分が、人肉への渇望でした。

悪いともわかっているし、世界には絶対に認めてもらえないことも知っている。それでも、彼女にとってカニバリズムはありのままの自分なのです。

これが本当に辛かった。

自分自身でいることを抑制し、苦しみ悶えて生きていくかないんだと気付いてしまう、その絶望。

ルームメイトがゲイであることも巧いところです。

彼自身が、好きな相手に絶対に受け入れられない可能性を知りながら生きるしかない人ですし、そして彼がゲイであるゆえに、ジュスティーヌも絶対に彼と愛し合うことはできないのです。

ただみんなに馴染みたかった。”普通”になりなたかった

新入生歓迎会で肉を口にしたことが始まりですが、それもただ純粋に学校という世界に溶け込みたかったからしたことです。

自分のそれまでのベジタリアンという本質を破ってまで。

どうしても変えられない”自分”を知ってしまって、世界との折り合いを付けようと必死になる少女。

彼女の拠り所が、まさに血肉を分けた姉しかいないことの寂しさと、ほんの少しの癒し。

OPとEDでの赤と黒の反転に見えてしまう、世界との交わりの無さ。

カニバリズムという絶対に受け入れがたい要素を押し出すことで、そこから見えた世界に認められない辛さを見事に描いたジュリア・デュクルノー監督。

人を喰う少女にここまで切なく、哀しいまなざしを向けようとは。

この共感こそ私が本当に感謝したい今作からの贈り物です。

誰だって溶け込みたいし、認めてほしい。仲間外れは怖い。

でももしも自分そのものが世界に拒絶されてしまったら?

潜在的な恐怖を少女の成長記と重ねた絶妙なバランスの本作。怖いよりも、ただただ切ない物語でした。間違いなく傑作です。

最後に一言。姉のアレックスを演じたエラ・ルンプフ。めっちゃ美人でカッコいい。ステキ。

そんなわけで、今回のレビューは終わりです。みなさんキツメの描写はありますが是非観に行ってくださいね。

ではまた。

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