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「ハイ・ライズ」”High-Rise”(2015)

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映画レビュー
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「ハイ・ライズ」(2015)

  • 監督:ベン・ウィートリー
  • 脚本:エイミー・ジャンプ
  • 原作:J・G・バラード 「ハイ・ライズ」
  • 製作:ジェレミー・トーマス
  • 製作総指揮:ピーター・ワトソン、トーステン・シュマッカー、リジー・フランク、サム・ラベンダー、アンナ・ヒッグス、ガブリエラ・マルチネリ、クリストファー・サイモン、ジュヌビエーブ・ルマル
  • 音楽:クリント・マンセル
  • 撮影:ローリー・ローズ
  • 編集:エイミー・ジャンプ、ベン・ウィートリー
  • 美術:マーク・ティルデスリー
  • 衣装:オディール・ディックス=ミロー
  • 出演:トム・ヒドルストン、ジェレミー・アイアンズ、ルーク・エヴァンス、シエナ・ミラー、エリザベス・モス 他

SF作家のJ・G・バラードによる同名小説の映画化。バラードは「太陽の帝国」や「クラッシュ」などの作者ですね。

監督にはベン・ウィートリー、主演はトム・ヒドルストン。

実は私、原作も読んでないですし、監督作品も観たことないんですが、映画の方はあらすじで興味があったので観てみました。ちょっと小説も読んでみたい気がします。

客層はけっこう女性多め・・・って、なるほどトム・ヒドルストン人気ですか。公開規模は大きくないですが、都内で観れますね。

おお・・・いい体・・・

超高層マンション、ハイ・ライズ。そこの住人である医師のロバート・ラングは、彼が入居してからの3か月に起きたことを振り返る。

独身でここに引っ越してきた彼は、この高層マンションでの生活を満喫しようとしていた。建物内にジム、プール、スーパーマーケットまで管理され、夜になれば各階層で優雅なパーティが開かれている、夢のような娯楽に満ちた生活。

ある日バルコニーで日光浴をしていたラングは、1つ上の階の女性と知り合うことになる。彼女に招待されたパーティで、このマンションの構造に関する奇妙なことを知っていく。

原作が出されたのは1975年。もう40年以上前ということです。

そして今回の映画化に関し、脚本のエイミー・ジャンプまた監督のウィートリーは大きく現代にアップデートすることはしていません。

今作はおそらく(小説未読のため)原作をそのまま映像に落とし込むという姿勢のもと作られたのだと思います。出てくる車や服などがちょい70’sなんです。

ここがまず個人的には楽しかった部分で、70年代に考えられた未来とその生活というか、画面内の世界に時代と思想が錯綜し存在しているのがとても面白かった。

現代的に見えつつも、やはり70年代から実際に続いてきた私たちの今とは違う。しかし高層マンションと設定なんかはかなり通じるところもあるんです。

ここを小説のまま映像化しているところ、かなり好印象。バラードが見た人間の顛末を映像に落とし込んで観客へと届けていると思います。

ヒドルストンもジェレミー・アイアンズも良いですけど、ルーク・エヴァンスかな。観てて面白い人物でしょう。何かをやらかそうって奴なので、彼の狂気的な演技も良く楽しめました。

さて、小説の中身と同じにはなるものの、このマンション構造=社会構造という作り。

貧困と富裕もありまた、階級という越えられないものまで内包し佇むこの建物。

今作では台詞の中にこそ外界というものがあるんですが、それらが画面に出てくることはなく、見えるのはほとんどこの建物内部とその外の、別のマンション工事風景。

この見せ方によって嫌でも閉塞感を感じます。

マンションはその中で生活できるように完備され、いわゆる外の世界と同じく社会構造を持っています。そしてちょっと外へ出たとしても別の閉鎖社会の準備が見えるだけ。

人々は何でもそろったこのマンションで遊びまわり、そこには何もない。豊かになることを望み邁進していった結果、この社会は虚無と狂乱に包まれて崩壊していきますね。皮肉です。

不便をなくしたくて開発を進め、完璧を作り上げた結果が、人間の野生化。

この崩壊はじわりじわりと起きていて、停電や食べ物の腐敗にももちろん現れています。

あのゲバラのポスターを貼っているルーク・エヴァンス演じるワイルダーは革命児かもしれません。

ただとんでもなくスローモーションで見せられる投身自殺に、この堕落が急激な変化ではなく、もっと時間をかけながらも着実に起きていたものだという意味が見て取れました。

2度ある、下層と上層の狂ったパーティシーン。画面に向かって狂ったように踊る人間を見つつ、醒めている観客が想像できます。

同じように、ラングも醒めている。ラングはこの階層社会のあらゆる要素から、何かしらの役割を期待されている存在ですが、そのどれにもなろうとはしません。

ラングと観客を結びつけることもできると思うのです。だからこそ、性と暴力が蔓延しても一人でいることを優先します。

ペンキを塗りたくり、必死に自分の空間を保持しようとするんですが、あそこでヒドルストンの顔に、片目だけにペンキが付きますね。

あれがなんか仮面舞踏会とかのマスクっぽくも見えまして、ラングが一人だけの宴に興じているようにも見えました。

このハイ・ライズというマンション自体が魔物なのかもと思えるような、その中に完結してしまった社会で、その中だけで統制だ改革だと騒ぐバカどもの崩壊を見る。

結局自分の居場所にこもるラングと共に、観客はバラードの考えた未来の人間像をみていく。その世界観が楽しめ、その狂宴に疲労する映画でした。

人間の性悪説的ディストピアを楽しめるか、そもそもその手の救いの無さが嫌いかで好みが分かれそうです。

まあ綺麗なうわべしてても、皮膚をずるっと向けばその下にはただの骸骨があるってこと。ラングさんの言うとおりの人間どものお話。

感想はこんな感じですね。バラードの考えは75年にしてこう人間を観ているものだったんですね。ホント、小説の方も読んでみたいです。それでは、また。

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