「未来を乗り換えた男」(2018)

  • 監督:クリスティアン・ペツォールト
  • 脚本:クリスティアン・ペツォールト
  • 原作:アンナ・セーガース
  • 製作:ミヒャエル・ベバー、フロリアン・コールナー・フォン・グストルフ
  • 音楽:シュテファン・ビル
  • 撮影:ハンス・フロム
  • 編集:ベッティナ・ベーラー
  • 出演:フランツ・ロゴフスキ、パウラ・ベーア、ゴーデハート・ギーズ 他

「東ベルリンから来た女」のクリスティアン・ペツォールト監督が、ドイツ軍による侵攻が迫るマルセイユを舞台に、脱出と愛に揺れ動く男女を描く作品。

実際にナチスの侵攻から逃れた経験のあるアンナ・セーガースによる小説を原作としています。

主演はハネケの「ハッピーエンド」等に出演のフランツ・ロゴフスキ。また彼が恋に落ちる女性マリーを、「婚約者の友人」などのパウラ・ベーアが演じています。

公開規模自体はけっこう小さい作品だと思いますが、スチルやあらすじからおもしろそうで楽しみにしていた作品です。公開週に有楽町HTCで鑑賞。感想はちょっと遅くなりました。

割と人の入りはいい感じでしたけど、よくわかんないとか眠いという声が上映終了後にはチラホラ。

ドイツ軍による侵攻が広がるヨーロッパ。著名な作家であるヴァイデルの国外脱出のための通行証を届けようとするギオルゲであったが、ヴァイデルは宿泊先のホテルで自殺していた。

その後、ギオルゲは大使館にてヴァイデル本人に間違われたことから、彼に成りすまして国外へ脱出しようと決意、船の出港を待つべくマルセイユに移動した。

しかし、そのマルセイユでヴァイデルの妻マリーと出逢ったことで、ギオルゲの中で決意が揺らぎ始める。

クリスティアン・ペツォールト監督の作品を観るのは初めてでしたが、静かで力強い作品でした。

舞台設定的には、戦争ロマンスでしょうけども、監督はメロドラマの哀しさをその背景にはおかず、むしろロマンスだけでみればより普遍的なところに切なさがあると思いました。

まず、プロダクションデザインの完成度という点で素晴らしい世界を作り上げていると思います。

明確な時代設定がされないのですが、どう考えても歴史の事実たるナチスドイツの侵攻が背景にあります。

しかし、一方でその衣装や車などをみるには現代のようです。それでもスマホとかは出てこないんですが。

過去と現在が同時に存在する不思議なマルセイユがあり、観客はそこにギオルゲたちと一緒に入り込みます。とても不思議な感覚でした。

現代と過去の融合は、そのままゲオルゲのような移民、生きるために祖国を逃れる人々の状況を描写することに大きく働いています。

移動する乗り物の中で死んでいく者。通報に怯え隠れるように暮らす。そして全てに絶望し自ら命を絶つことも。

ナチス侵攻に追い詰めれていく70年以上前の避難民の状況と、現代の欧州に溢れる移民・難民の状況。

何も変わっていないのです。だから、年代という時間を取り払っても、非常に悲しいですが何の違和感もなく理解できる。

そのなかには、生き残ることの難しさがもちろん描かれるんですが、今作はサバイバルスリラーではなく、より人間的な理由での難しい問題に向き合っていると思います。

それは、過去との決別、未來つまりは前に進もうとしたときに、後ろに残すものへの未練です。

ギオルゲには幾度となく自由への道が開かれます。マルセイユから脱出し未来を生きる道が。

しかし彼には、少年やマリーという存在がある。普通にこの迫害を生き延びる事だけを考えれば、ギオルゲはすぐにでも通行証を使って船に乗り込むべきですが、非常に難しい。

大切な人を残すということの過酷さ。

愛する人を残して、キャリアのため遠くへ行ったり、自分の未來のため家族を離れたり、そして究極は今現在の移民たちが向き合っている事でしょう。

国境を越えたり、長い航海に耐えられない家族を置いて、生きるため自分だけ去ることは、想像するだけ辛い。

今作の人物は過去に囚われています。過去を切り離せない。

マリーはずっと、一度は生きるため去った元夫のヴァイデルを忘れられず、そしてギオルゲは愛してしまったマリーを残して先に歩むことはできない。

二人の主演といっていい、フランツ・ロゴフスキとパウラ・ベーアの繊細な演技は、目線や所作だけでドラマを深いものにしていると思いますね。想いを伝えられず、また想うからこそ距離を置いたりもする。その眼差しだけにそっと気持ちを込めて。

原題は”Transit”「乗り換え」。

それはつまり、こちらでもあちらでもない中間点。出発点は出てしまったけれど、到着点に着いたわけではないところ。

その宙吊りのマルセイユで、戻れずかつ進めない苦しい状況にずっといる。その瞬間の長さは人によって違うでしょうけども、しかし、その苦しさは誰しも一度くらい経験のあるものだと思います。

ペツォールト監督は時間の失われた残酷な過去と今の融合世界を見せ、私たちの現実を見せつつも、さらに時代にとらわれない、人の生が動いていくときの哀しい瞬間を切り取って見せていると思います。

何か選択するときの気持ちをこんな風に静かにかつ力強く伝えてくるなんて、とても不思議な映画でした。語るのがギオルゲ本人ではないところから想起される結末など苦い部分もありますね。

万人受けする映画ではないと思うんですが、個人的には好きです。

感想はこのくらいで。それではまた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です