「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016)
作品解説
- 監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
- 脚本:クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー
- 原案:マーク・ミラー、スティーブ・マクニーブン 「シビル・ウォー」
- 原作:ジャック・カービー、ジョー・サイモン
- 製作:ケビン・ファイギ
- 製作総指揮:ヴィクトリア・アロンソ、ルイス・デスポジート、アラン・ファイン、スタン・リー、ネイト・ムーア、パトリシア・ウィッチャー
- 音楽:ヘンリー・ジャックマン
- 撮影:トレント・オパロック
- 編集:ジェフリー・フォード、マシュー・シュミット
- プロダクションデザイン:オーウェン・パターソン
- 衣装:ジュディアンナ・マコフスキー
- 出演:クリス・エヴァンス、ロバート・ダウニー・Jr、セバスチャン・スタン、アンソニー・マッキー、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、ドン・チードル、ポール・ベタニー、エリザベス・オルセン、ポール・ラッド、チャドウィック・ボーズマン、トム・ホランド、ダニエル・ブリュール 他
ついに来ました、シビル・ウォー!マーベルコミック内における一大イベントであり、かなり重要な戦い。
ヒーロー同士が信念のためにぶつかり合うという映画。こちらは実写キャプテン・アメリカシリーズの3作目にして完結編。監督は「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」(2014)のアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟。そのほかMCU経験またはWSと同じスタッフが集いました。
今作は何と言ってもキャップVSアイアンマン。2大ヒーローが争う、その画、その理由、そして結末。すべてが非常に楽しみで注目の作品です。
また、今作はMCUフェイズ3の始まりの物語でもあるんですね。
観客は多め。幅広い層が観に来ていて、子供たちがグッズ売り場でおねだりしているのが微笑ましい。マーベルヒーローは今や広く知られ愛されていますね。
ああ、マーベル映画もここまで来てるんで、もう初心者は気にしてません。今までの作品観ていないなら観ない方がいいです。
もちろん、ネタバレ注意です。まずは映画を観ましょう!そして今回感想が長いです、スイマセン。
~あらすじ~
ウルトロンの事件から1年あまり、新たなアベンジャーズはワカンダにいた。
ヒドラの残党であるラムロウが、危険な生物兵器を狙っているのだ。
キャプテン・アメリカはファルコンら仲間と共にラムロウを追い詰めたが、ラムロウはキャプテンを巻き込んで自爆を図る。それを阻止しようと、とっさにワンダが超能力でラムロウを打ち上げるが、それが近くのビルに当たり大爆発を起こしてしまう。
多数の死傷者を出し、アベンジャーズは国際的に非難を浴びることに。
一方でトニー・スタークは自身の財産をつぎ込んで民間の開発研究の援助をしていたが、講演会の際に、ウルトロンの件で息子を失った女性に厳しくその行いを非難された。
世界の守護者として活動してきたアベンジャーズだったが、度重なる犠牲と被害に、国際社会は我慢の限界だった。ここに彼らの行動を制御し監視する協定が結ばれようとする・・・
感想レビュー/考察
序盤から良いアクション。クライム物のような質感、そしてラムロウの顔をみてひるんじゃうキャップとか演出も良いですね。引き込みは十分。
第3作目にしてキャップがぶつかるのは、過去ですね。それもMCU全体のこれまでの行い。
各キャラは参入がバラバラではありますが、その中でも二次大戦から戦っているキャップにとっては、ついに時が来たというわけです。もちろんアベンジャーズ全員に過去があります。
それぞれがそれぞれの力と責任、罪を背負っているのですね。上画像、チェス盤が置かれているのがいいですよね。
そもそも宣伝の時点でチーム、立場選びはわかっているんですが、この序盤での人間関係の裁き方がすさまじく良い。今作全体の質を高めている、クリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーの脚本。
焦点を最後までキャップに合わせつつも、つまりはキャップとの関係を保ってその他キャラを映す感じですが、バランスよくそれぞれを描ききっています。
カメラによる映し方も良く、協定の話でもめた後スティーブが階段下にいるところでは、彼の前に格子のように手すりが入り、彼が逃げ場のない難しい状況に陥ったことを伝えています。
私は特にスティーブとナターシャがペギーの葬儀後の教会で会うところが好き。スティーブをピンで映しながら、ナターシャが歩み寄ろうと話すところでは少しスティーブが見切れる。
ナターシャのその後の立場を考えるに、これは良い構図。その他の絶妙な関係性を、ガラスを隔てたり画面内の位置などで伝えていますね。
その重い題材を抱えつつも、やはりヒーロー映画。アベンジャーズのアッセンブル要素も存分に楽しめる作りになっています。MCUのフェイズ2を終え、新たに増えた仲間たちが終結。
ここでも脚本上の見事なバランスが炸裂しており、これは単に登場時間というわけでもなく、それぞれがそれぞれらしさを出しているのです。
この本質の提示がしっかりしているので、活躍シーンとしては少なくとも、ちゃんと印象に残ります。ヒーローの群像劇としてこれはすさまじいところに到達したと言えますね。ちゃんとユーモアを忘れないのも、内戦なのに最後まで楽しんで観れる良いポイントだと思います。
今回は大きく分けると2つのメインバトルがありますが、やはり空港でのスーパーヒーローの大決戦はもう素晴らしい。画面に出てくるヒーロー、コンビネーションに斬新なアクションの数々。それでいてそこに切なさや笑いまで入っている。こんな映像体験をできてうれしい限りです。
アクションの良さはウィンター・ソルジャーからさらにアップグレードされ、超人描写に近接の激しさはもちろん、その格闘タイプも分けられています。
まさにらしさにつながっている。
盾の投擲アクション、ファルコンのウイング使い、トニーのメカアクションからジャイアントマンやホークアイの弓。既存キャラの新アクションもかっこいい。
カメラが動くものを追う感じとか、特にバッキーとブラック・パンサー、キャップが走り抜けるところでカメラが追いついていない感じなど、映し方も良かったです。
そのアクション性の進化に伴いながら、既存キャラのそれぞれの成長と内面とのリンクもみどころ。協定を前にこれまでのキャラクターは自分と見つめ合うことを強いられていきます。
今回その中でも私が観ていて楽しめたのは、「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」から加わったワンダとヴィジョンの2人。
掘り下げる時間的な猶予が少なかった彼らですが、今作では格段と厚みのあるキャラクターへと昇華されています。
ワンダは今回の協定においてまさに議論の的ともいえる存在です。力が強大であり、もともとはヒドラの実験で生まれた改造人間。出自と過去ゆえにトニーすら危険視する女性です。
彼女の能力を新しい見せ方で楽しませつつ、ほとんど防御やサポートに使う点が秀逸。傷つけることを極端に避けています。相手を投げ飛ばせるのに、あえて動きを止めるだけで攻撃はファルコンにしてもらったり。
自分の危険性を封じ、周囲の世界に認めてもらいたい気持ちが見て取れます。
今回彼女が初めて攻撃する、それはヴィジョンに対してです。ここで初めて能動的に動き、自分の意思を、道を貫くために能力を使うんですね。
(ちなみに、ワンダさんは今回絶対領域がとんでもない破壊力です・・・あれは危険だ・・・)
対してヴィジョンは、その風貌と力からまるで神様的な存在でした。
機械的に冷静、しかし今回はずいぶんと人間臭くなります。
人間の感覚を知りたい、ワンダへの想い、そしていかにも人らしい過ち。ヴィジョンがワンダを部屋にとどめたのは、そこで一人になりたくなかったのかもしれません。彼はワンダ以上に外に出ることが難しい存在ですからね。彼は今作を通してかなりの成長と深みを増しています。
この2人が部屋で料理をしているシーン。内面描写も良いんですが、加えてトーン転換がこれほんとに上手い。守ってくれている仲間だと思ったら、一瞬で監視している敵であると気付く。
和やかムードがさっと心理サスペンスに切り替わるんですから、ルッソ兄弟すごすぎる。
その他やはりキャップまわりが。ほとんどキャップをめぐっての取り合いというか。
トニーも彼と分裂を避けたいし、サムは寄り添い、ナターシャは現実的な手段で彼を守りたい。彼女は2重スパイの経験もあり、いち早く両サイドの正義を理解しているように思えます。
その上で、一番争いが少ないであろう道を選ぶ。そうやって彼女はアベンジャーズという家族を、母親やお姉ちゃんのようにとりなそうとしていました。
しかしキャップが観てるのはバッキー。ペギーもない今、彼の時代を共有できるのはバッキーだけになりました。運転席でサムとニヤついているところ、クインジェットでの昔話。ブロマンスも今作炸裂しております。
演出上の輝きはスティーブとトニーの二人だけでの会話シーン。
トニーが父の愛を受けていたスティーブを憎らしく思うのもグッとくるところですが、さらにペンのくだりが最高です。
一度受け取るが返してしまう。「セットを壊したくない。」と言いますが、ペンケースには収めない。和解は不成立、同じ枠には入っていないが、かといって遠く離れてもいない。
そんな積み重ねの濃い既存キャラの内面描写に加え、さすがはフェイズ3の第1作目。
新ヒーローの導入もあります。ここまで増えた中でまた増やすとなると大変ですが、これまた脚本の巧さが光りますよ。密接に関わりつつフレッシュな風を入れてくれるブラック・パンサーとスパイダーマン。
両者ともに輝かしいエントリーです。チャドウィック・ボーズマンもトム・ホランドも、若いという点で同じながら立場によりとても差別化されています。
ブラック・パンサーは漆黒の影としてあらわれ、正体不明の神秘性が良いですね。クールでいて、口数も少ない、スパイディとは真逆。
彼のアクションはキャップらのものと違い、武術的。
3連回転蹴りとか、めちゃかっこいい。何より、着実に追い詰め必ずとどめを刺すという脅威すら感じました。そしてそれ故に、一切チームワークとか、ほかのヒーローを助けるシーンが無いのもポイントです。彼はある意味盲目的。今回含め、彼の成長の余地が見事に残されていてナイス。
スパイダーマンは美人過ぎる叔母さんマリサ・トメイのまさに被保護者です。
トム・ホランドの演技、あの話下手な感じとか動き。学校でいじめられそうな。大きな世界に踏み込んでいく楽しさを見せてくれ、スパイディらしいユーモアも常に持っていました。
新世代のヒーローとして、同じく子供っぽさをもつトニーと師弟や親子のような関係を築いていて、彼には家族が増えたような暖かな気持ちを持ちました。
両者ともに今後単独映画が決まっていますが、どちらも大いに期待できるものとなりました。
協定は避けられないものでしょう。時間の問題というか。
スーパーヒーローたちは持つ力が違い、それをどう使うか、さらには使うのかどうかすら個人で意見が違います。
そこから正義感や倫理観にも違いは出るわけです。MCU全作品を通しての成長や経験、失敗を兼ねて今ここに立っているんです。
今作にはダニエル・ブリュールが実質の悪役としていますが、彼もウルトロンのようなアベンジャーズが生み出したもの。必要のない犠牲を払わされた彼は復讐鬼として帝国の崩壊を、自分のようにアベンジャーズからも大切なものを奪おうとします。
彼は世界の崩壊も支配も望んでいない、MCUの悪役の中で唯一のただの人間。
直接戦闘もなく、しかしもっとも恐ろしい敵かもしれません。いや、敵ではないかも?彼を主役に復讐映画を撮ることも可能かと。家族と電話してるかと思えば、留守録を何度も聞いていたんですよね。この悲しさ。
正直彼は内部崩壊をロキさんより全然うまくやってますよ。まあ、ロキが超人ゆえの力を利用しようとしたのなら、ジモは人間ゆえの弱さを利用したという感じでしょうけど。
バッキーが「みんな覚えてる」という場面。すべての冷酷な殺しを背負う彼がなんとも切ないです。
最初のトニーも、ナターシャもスティーブも、ティ・チャラですら。みんな自分の失ったものや失わせてしまった人を覚えているんです。戦いが終わったら、それで終わりではない。ジモとある意味同じく、ヒーローたちも犠牲者なんだと思わせてきます。
正しいと思うことはそれぞれある。しかしそう思って邁進した結果がこれまでのもの。ニューヨーク、ワシントンDC、ロンドンやソコビア。
スティーブ・ロジャースは第二次大戦時から人を殺しています。そしてトニー・スタークはその開発で多くの人を犠牲にしている。その過去をどう扱うか。
ペッパーとの別離、ワンダに魅せられた幻影。そしてローディ。トニーはまたもかなり個人的な部分で動いている気がします。しかし今回はスティーブも個人の問題を持ち込みます。
ペギーの残した言葉、バッキーの存在。最終決戦でトニーが「どけ!」と言っても動かず、道を譲らないスティーブは、まさにペギーの言葉通りに自分の信念を貫いています。
最後までこの戦いが切なく映るのは、ひとえにこのスーパーヒーローたちそれぞれを一人の人間として描いているからだと思います。
超人、神を人に落とし込む。
絶対に譲れないものはあるし、何をしても良い絶対的存在でもない。自身の過去に真っ直ぐ向き合って、自分の大切なもののために力を使い戦う。誰も間違っていない。みんな正しくある。
家族を殺されて平然としていれるか。親友が危険な目にあっていて助けないのか。
そんなのは人間じゃない。人の心を持たずして、人を救う英雄になんてなれません。
スティーブもトニーも人間ゆえのエゴをさらけ出し、道筋に残したものすべてを抱え込み、互いにぶつかり合う。こんな素晴らしいヒーロー対決は見たことがありませんでした。
ヘンリー・ジャックマンの音楽も、キャップのテーマとアベンジャーズのテーマを織り交ぜつつ、壮大ながら切なくて、しかも熱い!
アイアンマンがウィンター・ソルジャーを、キャプテン・アメリカがアイアンマンを破壊する。
盾は捨てられキャプテン・アメリカは消えました。
こうして帝国は崩壊しましたが、全てさらけ出しての内戦により、このヒーローたちはより繋がったと思います。ただヒーローのチームというだけでなく、人間としてより歩み寄ったのです。
譲れない部分は譲れない。だから戦った。でも互いに相手を人間として殺しはしなかった。
ひとりひとりの人間を信じたキャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース。超人的力でも権力でもなく彼は人そのものを信じる。だからこそ別れが、ヒーローとしての立場の対立があったとしても”友”のためにいつでも立ち上がる。
(あいかわらずレトロな)手紙を通して聞こえる彼の声は、私たちみんなと共にある気がしました。
各ヒーローの内面に丁寧に触れ、協定を使って成長と共にヒーローとしてと人間としてのスタンスを描く。
MCUの2008年からの歴史全てを活かして真っ当な対決をします。新たな驚きもたくさん。笑いを忘れずオールスターを楽しめ、かつ切ない涙もある。そこには緊張があり友情がある。
これだけの要素を持ちながら、全ての方向で立派な完成度を誇る。今作の脚本やルッソ兄弟監督には拍手喝采です。本当にありがとう。
とにかく良いところが多く、最高のコミック映画と言っていい本作。是非劇場でこのヒーロー大決戦を楽しんでください。長々だらだらしましたが、これで。それでは~
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