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「ブルックリン」”Brooklyn”(2015)

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映画レビュー
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「ブルックリン」(2015)

  • 監督:ジョン・クローリー
  • 脚本:ニック・ホーンビィ
  • 原作:コルム・トビーン
  • 製作:フィノラ・ドワイヤー、アマンダ・ポージー
  • 製作総指揮:クリスティーン・ランガン、べス・パティンソン、トーステン・シュマッカー、ジギー・カマサ、フセイン・アマーシ、アラン・モロニー
  • 音楽:マイケル・ブルック
  • 撮影:イブ・ベランジェ
  • 編集:ジェイク・ロバーツ
  • 衣装:オディール・ディックス=ミロー
  • 美術:フランソワ・セグワン
  • 出演:シアーシャ・ローナン、エモリー・コーエン、ドーナル・グリーソン、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント 他

「BOY A」(2007)の監督ジョン・クローリーがコルム・トービンの小説を映画化。

そこに「17歳の肖像」(2009)の脚本家であるニック・ホーンビィが参加してます。

主演には「つぐない」(2007)でわずか13歳でアカデミーノミネートを経験しているシアーシャ・ローナン(海外のレビューではサーシャって聞こえるが・・・?)。

彼女は観れば納得の2016のアカデミーノミネートでした。「ルーム」のブリー・ラーソンに負けましたが、個人的にはこちらを推したい。その他作品賞と脚色賞にもノミネートしていました。

日比谷シャンテで観まして、公開したての新作というのもあるので、結構人入ってました。女性多めかな。涙する方も結構いましたね。

1950年代のアイルランド。小さな店で、口うるさく嫌味な女主人の下で働くエイリシュ。

あるとき彼女の将来のためにと、姉がアメリカにいる親しい神父に頼み、エイリシュのアメリカでの仕事を見つけてくれた。愛する姉や母との悲しい別れを経て、エイリシュはアメリカのブルックリンにやってくる。

まったく環境の違う異国の地で、ホームシックに陥ってもめげずに生き抜くエイリシュ。彼女は洗練された大人の女性へと成長し、イタリア系移民の青年トニーとも出会う。

しかし突然故郷からの悲報が舞い込むのであった・・・

主演のシアーシャの本当に素晴らしいこと。エイリシュの性格を良く汲み取っているため、かなり静的な演技でリードしていきますね。

どれだけ苦しんでいるのか、喜んでいるのか。そういった感情の高まりを大きな演技ではなく、押し殺そうとする瀬戸際の危うさで表現しています。

彼女の綺麗な顔立ちは、大人びている印象と子供っぽさ両方を感じました。ですからある時は毅然として自身に満ち溢れ、ある時はとても脆く未熟な印象を持っています。

画面いっぱいに映し出す彼女の顔の接写。あちこちに映る顔のパーツに、目の力に驚かされます。

非常に真実味があり、表だって訴えないからこそのこの移民の大変さや試練に感情移入できます。

移民の貧しい老人たちが集まるシーン。心揺さぶられます。あの編集は反則でしょうw

老人たちの目を映すモンタージュの中、歌が始まる。その後まで歌は響き続け、また彼らの目を移し出し、同時にエイリシュの目も。人前では流さなかった涙を彼女がぬぐいますね。

実際にその場でかかっている音楽ではなく、心に流れ続けている故郷アイルランドの歌。アメリカにいながらも、エイリシュが心の故郷へと帰っているように思え感動的でした。

衣装という要素もこの映画の楽しいところでしょう。

50年代ニューヨーク文化に慣れていくエイリシュの服装。色の鮮やかさが気持ちや立ち位置を反映しているようなのも良いところですが、やはり当時のニュールックは見どころかと。ヘップバーンとか有名で、今見てもやはり綺麗なスタイルですよね。

色の多さという点、その明るさという点、ブルックリンとアイルランドも対比的になっていておもしろい。

題材が過酷そうではありますけど、コメディな要素もありすごく笑えました。やはりトニーの弟であるフランキーのシーンはおかしくてw

この映画ではアイルランド、イタリアの移民が出てきますが、ステレオタイプで描いたりそれとのカウンターを見せたりしていません。

カルチャーギャップでの少しの苦しみはありますが、環境に対しての新しさや違いの面白さに焦点を置いているように思えました。確執を描いてはいないと思いますね。

エイリシュが経験するトニーとの愛。しかしその一方で姉の死をきっかけにアイルランドへ戻り、そこでもう一つ愛を見つける。軽薄なわけではないでのす。

これは彼女のの持つダブルアイデンティティーの問題。アイルランド人でありまたアメリカ人にもなった彼女。2つの環境に暮らすことで得る2つの自分。

本来のエイリシュとは何者なのか。アイルランドの血を持ち、そこには親族もいる。しかしアメリカに慣れ、そこに愛する人もいる。

彼女がいるべき場所とは。2つの故郷を持つエイリシュにとっては、それ故に逆にどちらも失ってしまうような不安もあるはずです。

どちらでもありどちらでもない。移民に限った話ではないです、ましてや地方出身とかそれだけでもないと思います。

所在の物理的距離に関わらず、人は誰しもアイデンティティーの変化や分離を経験するはずです。高校の時と大学の時で違う自分。プライベートと仕事での自分。いつでもまったく同じアイデンティティーを持つ人はいないのです。

その間で、自分がどちらにいるのかを探る。経験とは不可逆的で、忘れ去ることはできません。エイリシュもその成長を戻すことはできないんですね。

アイルランドからアメリカへ。

「知らない人と話すのも面白い。」

そんな風には考えられなかったエイリシュの成長記を、シアーシャの繊細かつ本物の演技で観ていく。

そこには何か新しい環境へと踏み出した時の怖さや、居場所の模索、そして2つの帰属ゆえの葛藤まで盛り込まれていきます。

最後は始まりの対となるエイリシュが少女を励ますシーン。これには彼女の成長と、そしてまた序盤のあの女性も、かつてはエイリシュのようだったと思わせる効果がありますね。つまりは人の生がまた別の人の生へと影響しつながる感覚。

美しく過酷な人生を、繊細な内包で叫んで見せる素晴らしい作品でした。おススメ!

そんなところで感想はおしまい。それでは、また。

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