「ルーム」(2015)

  • 監督:レニー・エイブラハムソン
  • 脚本:エマ・ドナヒュー
  • 原作:エマ・ドナヒュー 「部屋」
  • 製作:デヴィッド・グロス、エド・ギニー
  • 製作総指揮:ジェフ・アーカス、ローズ・ガーネット、アンドリュー・ロウ、テッサ・ロス、ジェシー・シャピーラ
  • 音楽:スティーヴン・レニックス
  • 撮影:ダニー・コーエン
  • 編集:ネイサン・ヌーゲント
  • 出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、トム・マッカス、ウィリアム・H・メイシー 他

「FRANKフランク」(2014)の監督レニー・エイブラハムソンによる作品。

アカデミー賞でブリー・ラーソンが主演女優賞を受賞しました。また子役であるジェイコブ・トレンブレイの演技も高く評価され、一部では彼の輝きあってこその映画とも。

宣伝でもすでに言われていることですが、かなり陰鬱な設定でありながら、映画自体のフォーカスは別の部分に置かれており、楽しめる作品です。

公開規模的には小さい様ですが、確実にその内容で話題になっているようです。映画館にも結構人が入っていましたね。

ママと暮らす少年ジャック。彼には「部屋」がありそこが全世界。イスもベッドもテレビもある。ママとご飯を食べ、体操してテレビを観て。二人で楽しく過ごす世界。

ジャックが5歳になったとき、ママは変な話をする。ママにはジョイという名前があって、この部屋には外の世界があると言う。

ジャックが生まれるよりも前に、ママはこの部屋に連れてこられて、7年間過ごしている。この外にあるのはテレビの世界じゃない、本物の人がいる本物の世界。

混乱するジャックはママの頼みで、外の世界への脱出を手伝うことに。

タイトルのルームって聞いて、またこの言葉が本編で繰り返されて、やはり単に「部屋」を指しているだけでなく、「余白」や「空間」の意味もあると思いました。

その通り、狭い部屋というルームからでて、世界という無限に広がるルームへと踏み込んでいくお話でした。

上の、脱出計画時にジャックとママが絨毯に寝っころがるショットが好きです。左側に大きな空間があり、ジャックはその端にいてママがジャックを抱きしめる。ジャックのおかげで外側の広い世界に出れるのを表しているようでした。

さて、本作上の設定として、誘拐監禁、レイプ、またそれで生まれる子供という重々しいものがあります。それを真摯に描きながらも、やはり主題は母と子の物語、親子の物語である点はとても素晴らしく伝わってきます。

題材に対してとても誠実だと感じましたね。ブリー・ラーソンは「ショート・ターム」(2013)でも似たように傷ついた女性を演じていましたが、今回はさらに複雑な状況にいる母親、娘を演じています。

またジャック役のジェイコブ君の類まれな演技。完璧にこの悲惨な状況を理解しつつ、さらに素晴らしい演技マジックを起こしていました。この親子だけずっと見ていて飽きません。

そして親子というのは、ママとジャックだけではないんですね。ママにとってのママ、パパも出てきますし、その態度とか関係まで真っ直ぐ正面から描いていて素晴らしい。

何かで読んだのですが、犯罪や事故などで子供を失った夫婦は互いや自分を責め離婚することが多いらしいです。今作でもジェイの両親は別れてしまっていました。

しかも、ウィリアム・H・メイシー演じるお父さんロバートの姿勢が、辛くも現実的でした。彼にとってジャックは孫であり、またおぞましき事件を思い起こしてしまう生き証明でもあります。

可愛らしいこの顔を見るたびに、娘に起きたこと、最悪の男の存在を思い出してしまう。

彼は去っていきますが、冷酷な父というわけではないと思います。母が言うように彼もまた、人生を壊されてしまっただけなんです。

あの部屋に閉じ込められて、人生は壊れた。

ジョイにとって元の世界に戻ることは悲願でしたが、戻れば全てが元通りになるわけではありません。

彼女はそこでも問題にぶつかっていかなければいけない。

再び娘になり、また母であることも続ける。世界に戻ってから自分に対して投げられる疑問に、自分でしてきた判断について彼女は考えていきます。

ジャックの守り手であることが唯一彼女を生かしていたのなら、保護されている世界では生きる価値はあるのか?

用済み、汚れた存在、取り戻せない自分と家族。戻りたいと願った世界は彼女にとって本当に戻るべき世界だったのでしょうか。

ジャックの方は部屋が世界でした。

ママもいてたまごヘビもイスもベッドも何でもあった。彼にとってママの言う外の本物の世界というのは、まるで今の部屋の世界を壊されてしまう感覚だったはずです。

しかしそれでも外の世界を目指したのは、ひとえにママのためだったのかな?わめき方とか、その辛さが演技に高められて、それでもあいつがママにひどいことをした時のあの反応。それだけでジャックの心が見えます。

ていうか、自分のせいでママがひどい目にあってしまう時のあの気持ち。胸が痛いですよ。

世界に出た二人を持ちうけていた試練。

起きてしまった人生を懸命に生きようとするママを、世界に触れて生き生きとしていくジャックが救う。そして世界にでてから壊れていくママを、ここでもまたジャックが救います。

髪の毛をあげて。ここが良いですよね。

ジャックもママの歯をもらって、外の世界へとでる勇気と力をもらったんですから。持ちつもたれつ。互いに支え合う。ジャックだってママが必要。どんなに世界が変わってしまっても、ジャックのためにママは生きていく。

親子の本質ってこれでしょう。一方通行でなく、互いに学び影響し合う。そして絶対的に愛している。だからどんな世界だって生きていける。

部屋の世界から出て、本物の世界に出会う。本物の犬、葉っぱ、人、空。すべて輝いている。

ジャックの目線でのカメラはクローゼットの扉の隙間越しでしたが、それが大空に向けられた時のあの解放感。画面映像での最高の喜びでした。

こうしてみると、私たちって馬鹿らしい。毎日毎日画面内、狭いルームに閉じこもって、目の前に広がる本物の世界を観てないんです。ジャックに「何も知らないんだね」って言われそう。

オープニングの接写とは対照的に、最後は離れた視点であの部屋から去る2人を映します。あの部屋にお別れをしっかり告げて、絨毯にくるまれたジャックだけじゃなくて、ママも一緒にあの部屋から出ていくんです。それでやっと、ジョイの心も部屋から出れたんでしょう。

絶妙な演技とその合わせられた相乗効果。誠実に向き合う親子の関係。どんな人の胸にもいっぱいの愛と希望が溢れてくる。世界ってこんなに広いんだ。私に世界を見せてくれて、ずっと守ってくれた母に感謝です。

今この瞬間も、テレビになんて収まりきらない世界が脈打ってる。それを自分の時間の中でたくさん観ていきたいですね。

今年度の中でもベスト級の愛しい映画でした。お勧めです。是非大きなスクリーンでどうぞ。それでは感想はおしまいです。また。

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