「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019)
作品解説
- 監督:クウェンティン・タランティーノ
- 脚本:クエンティン・タランティーノ
- 製作:クエンティン・タランティーノ、デヴィッド・ハイマン、シャノン・マッキントッシュ
- 製作総指揮:ジョージア・カカンデス、ユ・ドン、ジェフリー・チャン
- 撮影:ロバート・リチャードソン
- 編集:フレッド・ラスキン
- 出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、マーガレット・クアリー、ジュリア・バターズ、ダコタ・ファニング、ブルース・ダーン、アル・パチーノ 他
「ヘイトフル・エイト」などのクウェンティン・タランティーノ監督最新作。
「レヴェナント 甦りし者」のレオナルド・ディカプリオ、「イングロリアス・バスターズ」のブラッド・ピットが初共演。
ハリウッドにて落ち目の俳優とそのスタントマンという親友コンビを演じます。
また、二人の隣人となる女優シャロン・テート役として「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」のマーゴット・ロビーも出演。
タイトルの”ワンス・アポン・ア・タイム”というのは”昔々~”という物語の走りの慣用句で、作品としては”昔々ハリウッドで・・・”という感じになりますね。
カンヌ映画祭に出品。パルムドールにノミネートされ、結果としてはパルム・ドッグ賞を受賞(これは映画を見れば納得です。)
批評面での評価も高いですし、やはりタランティーノ新作ということで公開した週末に早速見てきました。
ファースト・デイだったということ、期待作ということも合わさってか、満員でしたね。
~あらすじ~
1969年ロサンゼルスはハリウッド。
かつてTVの西部劇シリーズのスターだったリック・ダルトンは、映画界進出の道が開けず、俳優として落ち目を迎えていた。
彼の長年の親友であり、スタントダブルを務めているクリフ・ブースはそんなリックとは対照的にいつもマイペースでクールだったが、リックを一番気にかけ励ましていた。
そんな彼らの済むハリウッドの邸宅のお隣さんとして、有名な監督と彼の妻であり若手女優のシャロン・テートが引っ越してくる。
キャリアの終わりを迎え始めたリックと未来の輝く女優。
そして彼らの陰で、このハリウッドで広がる若者のヒッピー集団がいた。
感想レビュー/考察
上映時間はけっこう長いもののコメディ調がうまく混ぜられ楽しんで観れる作品だと思います。
ただ一方で、これはハリウッドと映画へのラブレターみたいな作品であり、そして歴史的ある事件を重く背景に置く作品であるため、観る人の知識とか興味にかなり印象が左右される作品でもあるといえます。
いわゆる笑いどころは普通に笑えるものの、ネタとしてニヤリとする部分はハリウッド映画史や作品、俳優を知っているかがキモになっていたり。
またクライマックスの展開などにどういう感情がわくかは、「シャロン・テートと聞いて何を思い浮かべるか」でまったく異なると思います。
ですのでなかなか難しい。
おススメできる作品で観てほしいですが、事情を知ってからの方が楽しいとも言えますし、知らないという貴重な状態で観て、その後知識を入れてから再鑑賞というのもアリですし・・・
ともあれ私はいろいろ知っている側として観てきましたので、その点踏まえての感想を好き放題書きますのでご注意を。
なんていうか、愛しい映画でした。
どのシーンを思い出しても、自分の好きがそこにある感じです。
映画作りとか、俳優、監督、さまざまなスタッフ、大スターから転換期。
演じている役者の使い方というかそものそもキャスティングのうまさだったり。
挙げればキリのないネタに常にニヤニヤしていましたし。
そもそもこの1969年のハリウッドという行ったことの無い時代の場所に、本当に入り込んだような。
スクリーンを通してこの世界の空気が吸えるような感覚だけでも本当に素晴らしいんですよ。
その中で主演の3人は本当に輝いています。
ディカプリオは王子様的な大スターから、「ディパーテッド」やら「ジャンゴ 繋がれざる者」など狂った勢いも出せますね。
彼にある不安定さとかかまってちゃんっプリがハマっています。
彼自身俳優としてはアカデミー賞主演男優賞をとり、スターとしてピークを過ぎたという捉え方をすれば、リックとメタ的にも重なるかもしれません。
そしてクリフを演じたブラッド・ピット。
彼も久しぶりに「テルマ&ルイーズ」に登場したときのような、アウトローで一匹オオカミキャラを演じました。
周りには流されない流れ者感が最高にクールです。
二人はいずれにしても人生の黄昏にいます。
ハリウッドの黄金期でありそれを象徴する正統派西部劇出身の二人に寄せる波。
外国映画スターの登場と、ポルノ映画の主流化、マカロニウェスタンという亜流。
時代のお別れがここに重なっています。
本当に美しいマーゴット・ロビー演じるシャロン・テートは、無垢な存在ではあります。
ただ、同時に新時代の化身であり旧時代を終わらせる者として、ハリウッドへやって来るのです。
自分の出演作をシャロンが観ているシーンは最高でした。
大事なのはあれです。
みんなが同じ空間で笑い、歓声を上げる。
映画ができることは、人を少しでも現実から抜け出させ、幸せにすること。
本当に幸せそうにそんな観客との体験をするシャロンの笑顔。
プレイボーイマンションでのパーティ、日曜日、陽に照らされながら踊るシャロン・テーとは、ただただ幸福に満ち溢れています。
これを本当は守りたかったものです。
タランティーノ監督はそこで、この作品自体を使い、シャロンを、そして観客を救ってくれます。
こうだったら良いのにを、少なくともスクリーンの中では現実にできるのが映画です。
いままでヒトラーを焼き殺し、奴隷商人をぶっ殺してきたタランティーノはやってくれます。
旦那がいないうちに、親友と妻のところへ奴らが来る設定をし、歴史を覆す。
ここに全くシャロンを関わらせなかったのも素敵です。
彼女には何も起きなくてよかったのですから。
そしてマンソンたちを大きな登場人物にせず、あの台詞すらクリフが「悪魔のクソがどうとか・・・」とよく覚えていないのも良い。
この作品で記憶に残したいのは、ナイスなバディと犬、そして最後まで美しかったシャロン・テートだけです。
懐かしの風景にタランティーノ監督は今の流れも入れていました。
今作の女性たち。実は男性はリックとクリフコンビ含めてあまり重要ではない。というか輝いていません。
シャロン、プシー・キャット(マーガレット・クアリー)、そして今から楽しみな大物感あるジュリア・バターズ演じるトルーディ。それぞれ足が印象的なシーンを持つ彼女たちこそ、まさに次へ踏み出す人々です。
あのカート・ラッセルだって、ほとんど奥さんの言ってること繰り返しているだけですしね。
終わりを迎えていく時代と、その時代で輝いた親友が、次の時代を担う人を救う。
細部まで映画を作ることとか、アメリカ映画の歴史とか、いろいろなネタが転がり溢れている上映時間。短く感じます。
現実を踏まえることは今までにもやってきましたが、今作に関しては、復讐というよりもただ幸せを、映画という力で与えてくれる作品でした。
タランティーノ監督作品の中でも一番好きかもしれません。
映像の質感とかそれぞれの演技とか、あとサウンドトラックもとてもいいので、是非劇場で観てほしい作品でした。
今回は感想はこのくらいでおしまいです。長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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