「サンドラの週末」(2014)
- 監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
- 脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
- 製作:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ、ドゥニ・フロイド
- 製作総指揮:デルフィーヌ・トムソン
- 撮影:アラン・マルコァン
- 編集:マリー=エレーヌ・ドゾ
- 出演:マリオン・コティヤール 他
ダルデンヌ兄弟の作品で、主演のマリオン・コティヤールの演技が様々な賞で評価され、アカデミーにもノミネートした作品です。原題は「二日と一晩」ってところでしょうか。これは映画で過ごすある時間のことなのです。
すごくちいさなお話ですが、私は好きです。撮り方で現実感が出され、自分の世界の一部として考えられる映画は基本的に好きなんです。
公開したばかりなので、けっこう人が多く満席に近い状態で観ました。
しばらく病気で職場を離れていたサンドラは、体の調子が良くなったので復帰をしようとしていた。
しかし突然、会社側から解雇の勧告を受けてしまう。なんとか社長を説得し、一度行われた彼女の復職投票を、もう一度してもらえることに。だがその投票も楽ではなく、彼女の復職には他の従業員のボーナスをあきらめてもらうことが必要なのだ。
今は金曜日。月曜の投票までになんとか全16人の過半数を、サンドラの復職に賛成してくれるよう説得しなくては。サンドラの厳しい週末が始まる。
なにより特徴的なのはこの映画の出す現実感、リアル感。
ワンショットがかなり長く、人物を追っかけてカメラが回ります。長回しによる撮影は臨場感とリアルさが出ますね。それに加えて、人物の行動が至極現実的なのも良いです。
サンドラが子供に「車に気を付けて」と言ったり、夫がさりげなくテーブルナイフを子供から離れたところに置いたり。通りを横切る感じや、お店などでの態度。
ちょっとした所作が現実感に説得力を与えていると思います。
もちろん、主演のマリオンの素晴らしさがあってこそとも言えます。すごく美人でゴージャスな彼女が、すべて取り払って一般女性になりきる。
しかも心に傷を抱え、あまり強く人に意見を言えない感じまでとてもよく表現していますね。そのちょっと優しいところが、サンドラにとって説得が過酷なものになるんです。
しかし同時に、その優しさが支持の理由にもなるのは、ちょっとあったかい人間模様です。
- また、画面の作りもとても気に入りました。まずもって、サンドラがひとりとぼとぼと歩きまわり、同僚にあっては、彼女の復職に賛成してくれるように頼む様。
- 色々な人間模様ものぞけるんですが、ちょっと引きの画なんか含め、「真昼の決闘」(1952)的なんです。
そして同僚と話すときの画面構成の見事さ。
ボーナスが欲しくて反対投票する人とサンドラは、何かしらで隔てられるんです。
鉄棒が間にあったり、話しているところを他の人が通ったり。それから開いた車のドア、日陰と日向、壁の模様がちょうど境目になっているなどの背景の違い。こういった画面での後押しは素敵です。
この映画ではほとんどスコアというものはないですね。
かかる曲はサンドラの状況を表すようなものでした。最初は絶望に暮れたもので、次は訪問するという内容の歌ですね。後者ではサンドラは少し希望を持ったように歌っていました。
結果としては、おそらく意表を突くものではないでしょう。予測はできてしまうものです。
ただ社長からの復職提案を蹴るシーンが、すごくあっさり。あそこで顏のアップを入れたり、音楽をかけて盛り上がらせることもできますが、そうせずにしたのがなかなか良い。映画全体のトーンと整合しています。
彼女の復職のために自分を犠牲に賛成してくれた、だからサンドラも人が解雇されて自分が利益を得るのは嫌だったのでしょう。同僚へのお願いでも、謙虚で強く言わなかったサンドラが、ここではきっぱりと力強かった。
いままで電話では悲しげだった彼女が、最後の連絡では笑顔を見せています。ひとり道を歩いていく姿は、さびしさでなくどことない希望が感じられるものでした。
クレジットが流れて終わるまで、ずっと最後のシーンから続く自然音?が流れています。これはこのサンドラの物語が、決して映画話でないことを伝えているように感じます。
彼女は決してノーマ・レイみたいに強い女性ではないです。そんな健気な人は現実にもいる。このサンドラが過ごした週末は、今も私たちの世界で繰り返されているのだと感じました。
感動のドラマでもないですし、何か嬉しい結果があるわけでもないんですが、この語りとマリオン・コティヤールの演技は一見の価値あり。お勧めです。
それではここらでおしまい。また~
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