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「TOVE/トーベ」”Tove”(2020)

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tove-movie-2020 映画レビュー
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「TOVE/トーベ」(2020)

  • 監督:ザイダ・バリルート
  • 脚本:エーヴァ・プトロ
  • 製作:アレクシ・バルディ、アンドレア・ロイター
  • 音楽:マッティ・バイ
  • 撮影:リンダ・ワシュベリ
  • 編集:サム・ヘイッキラ
  • 出演:アルマ・ポウスティ、クリスタ・コソネン、シャンティ・ローニー、ヨアンナ・ハールッティ、ロベルト・エンケル 他

作品概要

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世界中で愛されている妖精ムーミン。その作者であるフィンランドの画家トーベ・ヤンソンの半生とムーミンの誕生を描く伝記映画。

フィンランド出身のザイダ・バリルートが監督を務めています。彼女は過去に「マイアミ」などを撮っていて、日本ではフィンランド映画祭で監督の作品の上映などがあったようです。

主演はアルマ・ポウスティ。フィンランド出身の俳優で、2014年にトーベ・ヤンソン生誕100年記念の伝記舞台でもトーベを演じています。

また彼女が激しい恋に落ちる相手である令嬢ヴィヴィカを演じるのは、クリスタ・コネソン。彼女はドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「ブレードランナー2049」で、マッケンジー・デイヴィスと一緒にDoxieという娼婦の役でした。

その他「ストックホルム・ケース」に出演のシャンティ・ローニー、「ボーダー 二つの世界」のロベルト・エンケルも出演しています。

今作はフィンランドでの興行としても非常に成功した作品で、また映画祭での上映も各国であったそうです。93回のアカデミー賞ではフィンランド代表に選抜されています。

私はムーミンというとアニメがやっていたのは覚えているのですが、子どものころにそんなにはまっていなかったもので、すごく詳しいわけでも思い入れがあるわけでもない状態で鑑賞してきました。

単純にムーミンってすごく唯一無二な印象があるため、どうして生まれたのか、根源の部分を知れたらいいなといった感じ。映画館で予告を見たことも背中を押しました。

公開週末ではあるものの、あの伝説の英国諜報員の復活もありそこまで混んでいませんでした。どうやらムーミンガチ勢の方がいて、上映終了後にいろいろと話し込んでいました。

「TOVE/トーベ」の公式サイトはこちら

~あらすじ~

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第二次世界大戦の直後のフィンランド、ヘルシンキ。

荒廃した都市の中で空き部屋を借りてアトリエとして使い始めたトーベ・ヤンソン。

彼女は画家として作品制作に取り組むも、その作風は保守的な美術界では良しとされず、また厳格な彫刻家である父とも軋轢があった。

自分自身の画というものを認められない窮屈な毎日の中で、参加したパーティで運命の出会いが訪れる。

彼女が戦時中に慰めのように書いていたムーミントロールのイラストを気に入った市長の娘ヴィヴィカが、招待状のイラスト執筆を依頼してきたのだ。

ヴィヴィカとトーベは惹かれあう。そしてヴィヴィカはトーベの絵画ではなく、独創的で優しいムーミントロールの画を気に入り、舞台化をしたいと持ち掛けた。

出会う様々な人たちのかけらを埋め込み、ムーミンの物語が動き始めた。

感想/レビュー

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情熱と躍動のアーティストトーベ・ヤンソン

トーベ・ヤンソンといえばムーミン。ムーミンといえばトーベ・ヤンソン。

ともすれば作家として生み出したあの愛くるしいキャラクターのほうが作家をも飲み込みかねない中で、監督のザイダ・バリルートは作品のフォーカスを常にアーティストであるトーベ・ヤンソンと彼女の人生にしっかりと合わせています。

キャラクターの誕生についてというよりも、その根源にあるトーベ・ヤンソンの持つ情熱や力強さ、躍動と人生を彼女らしく歩む姿を描き出します。

この作品はトーベが踊っているシーンから始まりますが、まさに人生を躍動して踊りぬけていく様を映し出していました。

彼女のエネルギッシュさを主演アルマ・ポウスティが自然に演じていますが、同時にどこか孤独で寂しくて仕方のない少女のような面影も感じさせます。

特徴的なのがアトリエ。

トーベが借りた時は戦争の爪痕によって非常に荒んでいたのですが、彼女はそれを見事に美しいアトリエに変身させています。

冷たい世界にも芸術をもって力と美しさを与えているのです。

ただ一方で、本当によく人を招く。そこには寂しさが見えます。

誰からも好かれていくトーベ。彼女もまた周囲のみんなが好きです。

誰か敵とかを出さずに置くことで、表面上は色々な人に囲まれ慕われながらも、奥底で愛を手に入れられないことや、嫌われることを恐れるトーベ描かれていますね。

後に舞台の話で出ますが、臆病だからこそ優しいムーミンです。

そこに現れるのが理解者になっているアトス。そして恋い焦がれるヴィヴィカ。

どちらもシャンティ・ローニーとクリスタ・コネソンによって見事に演じられていて、それぞれムーミンの物語における重要なキャラクターになっていきます。

こういった点についてはキャラクター誕生秘話みたいですが、今作は全編通してあまりセリフとかで区切りを持たせる説明がありません。

だからこそ、この瞬間に、この人に、あのキャラクターの産声が重なる気がして、観ながらハッとする間隔が楽しかったです。自分で発見していくような。

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私はヴィヴィカ役のクリスタ・コネソンは特に印象強いです。美しくも怪しい。

彼女もトーベと同じく自由な存在であり愛に溢れた存在ですが、一処にとどまることはしません。

そしてそれこそがヴィヴィカらしさなのだとトーベが理解し、華麗な竜を解き放つ。お互いにわかるその暗号のような言葉、それを受け継いでいるキャラクター。芸術に現実の悲哀を込めて。

犯罪であり精神疾患である同性愛をこのように昇華したのは悲しいですが、同時に美しい。

アトスとの関係性もですが、トーベは愛することをやめません。

相手を尊重しながら自分の自由を曲げずにいますが、関係は壊さない。だからこそそれぞれ交際が終わっても友人として仲良く歩んでいけたのですね。

登場人物たちを包む世界。16mmのザラつきある画面で、柔らかな色彩と光。

この暖かさなどのカラー、ライティングも含めて、この作品が描く人物関係は現実味を帯びて、関係の崩壊なく生涯の友人でいられた理由を示すことを助けます。

何かを隠し、上手くいかない得られない愛に未練のある人々。そんな中でもトーベは踊り続ける。

彼女の生命力というかポジティブさというか、自身の抱えるものを芸術にしていく姿には心を打たれます。

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孤独や不安、変わっていることと自分らしくあること

父との確執がずっと生み続けた、芸術家として認められない葛藤。底抜けの孤独。その上で愛もままならない。

それらを包み隠さず自分の芸術であるムーミントロールたちに与える。自分が自分であること。周囲の人と異なっている変わり者と言われること。素敵な友人でさえ別れなければならない時がある事。

根源的な部分に直接触れるからこそ、これだけ多くの世界中の人に愛されているわけですね。

自分が自分らしくいるということはこの現代ですらまだまだ難しいことです。

おそらくそこで孤独を抱えている人というのは本当に多いでしょう。

凄惨な現実からの逃避で生まれていたムーミントロール。

彼らにはトーベの切なく悲しい部分が欠片として詰め込まれていますが、しかしこのキャラクター達を生み出していくという創造こそがトーベのエネルギー。

ラストに実際のトーベの映像があります。

彼女は踊っている。OPと呼応するようなこのシーンのなんとも清々しいこと。

彼女は戦争から保守的美術界への冷遇、悲哀や別れ、隠さなければいけないアイデンティティを抱えても、まだ躍動する。

全体に置いてのルックは柔らかくも、きっと想像されるイメージとは異なる伝記映画です。そもそもトーベ・ヤンソン自身が、私の持っていたイメージとは全然異なっていました。

愛に満ち溢れ突き進む力。芸術にすべてを込めていく姿勢。トーベ彼女自身の分身のような作品になっているでしょう。

ムーミンのことをもっと知っていると、隅々で楽しい要素が多いのかもしれませんが、詳しくなくてもすごく楽しめました。

というところで感想はこのくらいになります。最後まで読んでいただきありがとうございました。

ではまた次の映画の感想で。

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