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「ゴッズ・オウン・カントリー」”God’s Own Country”(2017)

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映画レビュー
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「ゴッズ・オウン・カントリー」(2017)

  • 監督:フランシス・リー
  • 脚本:フランシス・リー
  • 製作:マノン・アーディンソン、ジャック・ターリング
  • 音楽:ダスティン・オハローラン、アダム・ウィルジー
  • 撮影:ジョシュア・ジェームズ・リチャード
  • 編集:クリス・ワイアット
  • 美術:ペドロ・モウラ、セリーナ・モリス
  • 出演:ジョシュ・オコナー、アレク・セカレアーヌ、イアン・ハート、ジェンマ・ジョーンズ 他

フランシス・リーの初監督作品となるイギリスのドラマ映画。

「マダム・フローレンス!夢見るふたり」(2016)のジョシュ・オコナー、そして彼の相手にはアレク・セカレアーヌが出演。

今作はインディペンデント映画として高い評価を受け、英国のインディペンデント映画祭では作品賞や主演男優賞、またBAFTAでも作品賞にノミネートするなど各批評面で高い評価を得ています。

気になっていた作品ではありましたが、たしか東京での映画祭で上映があったのですが観れず。結局海外からソフトを取り寄せて鑑賞しました。

今回は字幕ないと、ヨークシャーの訛りとか独特な言い回しが多くて大変でしたw

ヨークシャーのひつじ牧場。

そこで暮らすジョニーは、羊の世話をしながら、毎晩パブで飲み、出会った地元の青年とバンの中やトイレでセックスし過ごしている。

家には脳血管障害の後遺症で体が不自由な父と、その世話をする祖母がいるだけ。

ジョニーには何もなかった。

そんなある日、羊たちの世話や農場の仕事には人手が必要になり、季節労働者を雇うことに。ジョニーが迎えに行ったギョルゲという男は、大人しく仕事もできる。

彼と仕事をするうちに、ジョニーには感じたことのない想いが湧き上がる。

この作品、ひとつのロマンスとして非常に美しく素晴らしい傑作です。観るべし!

映画観ている間、事あるごとに静かに泣いていました。

おそらく、この作品の中に自分自身を感じるからだと思います。自分は感じました。

話としてはふらりと現れた真のパートナーとのロマンスですけども、描き方がとにかく美しいんです。人物の所作、風景による心情表現や撮影まで素晴らしい。

舞台となっているヨークシャーの広大な大地。

ドキュメンタリックに映し出される羊の世話や出産のシーン。淡々と進む日常と広すぎる大地は確かにギョルゲの言うとおり美しくも孤独なんです。

途中でジョニーとギョルゲが丘の上へ上がり景色を見渡すシーンがありますが、どこまでも続く大地と、画面を空が占める割合が大きく、息を飲むほどの美しさでした。

そんなヨークシャーのひつじ牧場で一人作業をしながら、夜になればパブで記憶が飛ぶまで飲むジョニー。

できることが何もなく、何より彼は将来を感じられていないんですね。

ヨークシャーのルーク・スカイウォーカー観たいな。

パブの前でする昔の女友達との会話がとても切ないものでした。

ジョニーは若者として大学に通って友達と夜にのみに出たりするはずだった。でも、父の病と牧場の運営で彼はこの広大な大地に囚われてしまっているのです。

未来はあるかもしれないですが、そこに可能性はない。

「俺は現実世界と向き合ってる。」という台詞が非常に切なかったです。

もう希望を見いだせないジョニーはただ行きずりのセックスを田舎町の青年と繰り返す。

でも相手にお酒を誘われても、”We? No.”と言ってしまいます。

彼の絶望が良く感じられ、そして主演のジョシュ・オコナーのこの繊細さですよ。驚きました。

そこで彼に初めて愛を教えてくれるギョルゲ。2人のアンサンブルは本当に見事で、人物の心の底でのつながりをとても繊細な所作による演技でみせてくれています。

手の重ね合いや壁にかかる作業着など、言葉に寄らない部分でのやり取りが素晴らしいですね。

実際のところ、二人ともをあまり喋らず、特にジョニーは初めて人を愛したからか、戸惑いと恥ずかしさで自分の気持ちを素直に言葉にできませんし。

そのジョニーの乙女具合と、どこまでも抱擁するギョルゲの安心感というのは、ずっと観ていたいものでした。

ジョニーとギョルゲの繋がりは、下手なヘテロのロマンスなんて比べ物にならない説得力があります。

自由にしてくれる存在、自分を強くしてくれる存在というのは、性に関係なく深い共鳴を感じさせてくれるんです。

自分の将来に対し悲観的で、なにより自分の幸せも考えず、自分を大事にしていなかったジョニー。

そんな彼にギョルゲは、物言わず羊の世話の仕方(この世界での生き方)を教え、傷の手当て(自分をいたわること)をしてくれるんです。

ギョルゲのおかげで、ジョニーは本当の意味で自分の生に向き合う力を得ます。

単純に何かをしてくれるのではなく、あくまでジョニー自身が成長し、自分の力で立ち向かえるようにしてくれる。

私はそこにある尊敬が重要なのだと感じます。

ジョニーは初めこそギョルゲをジプシー呼ばわりしていましたが、彼のプロとしての技量も優しさも、彼という人を尊敬し愛するようになる。ギョルゲも、将来に苦悩しながらもがくジョニーに、昔の自分を重ねているように思えます。そして、ただ世話を焼くのではなく、自分の強さを知ってほしくて、時に厳しく接する。それは彼を子ども扱いせず、強さを持っているという敬意の表れに思います。

ギョルゲの大きな包容力は、孤独を突きつけてきたヨークシャーの大地を、美しいものに変えてくれます。ジョニーの世界を変えてくれたのです。

頑固だった父が不器用ながら見せた息子への愛。”You happy?”「お前の幸せか?」

ジョニーが自分で自身の人生を考えること。

素直じゃないところはありますが、父なりの愛に涙しました。

そして父譲りの口下手なジョニー。

ギョルゲに会いに行っても羊の話とかしてしまうし、最後まで”I love you.”は言えないんですよね。でも「一緒にいたい。」だけでギョルゲには通じるのです。

ギョルゲのような感受性豊かで詩人みたいな人が、ジャガイモの生産工場で働くところに、欧州での移民の扱いを匂わせつつ、あくまで純愛のストーリーになっている本作。

もはやセクシュアリティをメインにとらえず、区別なくラブロマンスを描く姿勢や、主演二人のアンサンブルと繊細な所作による心情演出。そしてヨークシャーの広大な大地も一つ大きな登場人物となり、非常に美しいものでした。

閉じてしまった将来への悲観、自分を粗末にしてしまうこと。

強く生きる術を教えてくれる人との出逢い。素直になれない自分。

どこかに自分の影をみて、繋がることのできる素晴らしい作品。是非観てほしいです。そして願わくば、劇場でこの作品を感じたいと思います。一般公開してほしいですね。

感想はこのくらいで。

それでは。

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