「リトル・メン」(2016)
- 監督:アイラ・サックス
- 脚本:アイラ・サックス、マウリシオ・ザカリーアス
- 製作:ルーカス・ホアキン、クリストス・V・コンスタンタコープロス、ジム・ランド、アイラ・サックス、L.A.テオドシオ
- 音楽:ディコン・ハインクリフェ
- 撮影:オスカー・デュラン
- 編集:モリー・ゴールドスタイン、アフォンソ・ゴンサウヴェス
- プロダクションデザイン:アレクサンドラ・シャーラー
- 美術:ラムジー・スコット
- 装飾:エミリー・ディースン
- 衣装:エデン・ミラー
- 出演:テオ・タプリッツ、マイケル・バルビエリ、グレッグ・ギニア、パウリナ・ガルシア、ジェニファー・イーリー、アルフレッド・モリーナ 他
こちらは東京国際映画祭にてユース部門に出品された作品。「人生は小説よりも奇なり」(2014)のアイラ・サックス監督の新作でもあります。
主演のテオ・タプリッツはショートフィルムの監督から撮影から色々やってるんですね。そしてマイケル・バルビエリは今回初長編出演、この先もなんとMCU「スパイダーマン:ホームカミング」(2017)に出演とのこと。若手スターかな。
アイラ・サックスなんでいずれは公開するとは思いましたが、早めに見たかったので言ってきました。まあけっこう有名な監督なので満席近い感じでした。
今回の映画祭では、Q&Aとかがある回は無かったですね。
ジェイクは学校ではおとなしいタイプの少年。画を描くのが好きで色々な題材の作品を作っている。
ある日彼の一家はマンハッタンからブルックリンへと引っ越した。亡くなった祖父の遺した建物に住むことになったのだ。その建物の一階には小さな衣服店があり、そこのトニーという少年とジェイクは仲良くなる。一緒に街を散策し、テレビゲームをし、お互いの将来を語り合う。
そんな少年たちの友情とは裏腹に、2人の親同士は緊張した関係になっていた。
カラフルなオープニングににっこり。素敵よ。
「人生は小説よりも奇なり」(2014)でアイラ・サックス監督は人間関係の苦しい部分を含めて、愛ある目で人を眺めていたと思います。その点では今作も同様に感じました。
絶対的な悪が出てこないのはもちろん、現実的な感触を持った人物たち、彼らの笑いやいたたまれない事情などが含まれています。それらは嘘もなければ誇張もない。
ただ一つ言えるのは、必ず観客がどの人物も理解でき、同情し幸せを願えるということです。
さて、主軸となるのは2人の少年たち。タイトルはこちらを主に指していると思われますね。ジェイクとトニーは一見両極的な位置にいるように見えるのですが、互いに一番の理解者であるような関係性を築いていきます。2人は互いを否定する場面が全くないのです。
ジェイクはクラスでの喧騒にも参加せず、ひたすらに画を書き続けます。監督お得意の多くの人物が登場する祖父の葬式の場面では、多数の人間の中孤独なジェイクにカメラは寄っていきますね。
対するトニーは友人も多く、マイケル・バルビエリの人気者感が素晴らしく出ているような気がします。
ジェイクの画に対するリアクションが、大人たちと比べると明確だったと思います。冒頭の先生や、父親はジェイクの画に興味を持っていないんです。
しかしトニーはそれを褒めて、共に将来を描きます。一人でいること自体が多いジェイクにとって、心の通じる相手ということです。
子供たちの視点から見れば全く融通の利かない親たちなんですが、先ほど書いた通り、悪というわけではありませんね。むしろ非常に人間らしいがゆえに逃げ場のない状況でもがいているのです。
「父さんだって人間なんだ。」とブライアンが車内で声を荒げるシーンがあるのですが、まさにこの台詞の通り。
子供の頃って親は全能というか、大人というしっかりとした柱があって全身投げ出してぶら下がっていいと思っていたものです。
しかし子供も大人も人間。ブライアンはジェイクからすれば父ですが、亡き祖父からすればその息子。ブライアンもまた子供なんですね。
レオノアとブライアン、また妻や姉など誰も悪いわけではないのですが、生きていく上では選択の余地がないのです。
思えば父ブライアンも、葬式のシーンではクローズアップされる人物。客人たちとは挨拶を交わすものの、カメラに彼と共に映る人はいません。
彼も漏らすように、孤独を背負ってきたのでしょう。そしてつながるべき父とも疎遠だったことは、人に言われずとも後悔しているようでした。
疎遠になってしまった。私たちもそれは必ずあり、何かあったときにふと思い出すものです。
ジェイクとトニー、2人で駆け抜けた通り。何も喋らなくても互いが分かった。沈黙しただけでおかしくなった親子と違う、2人にはある通じ合い。
親友を笑われて喧嘩して、それを転んだと嘘をつく。トニーの男気には惚れますよ。
そんな2人で通った街のシーン。最高に美しい物でした。ディコン・ハインクリフェの音楽も綺麗でしたね。
言葉はないけど、あれだけ眺めていたいと思わせる綺麗なシーン。それが3度目には空虚で喪失感の苦しいものになってしまうその巧さ。
互いに何かを間に挟んで話す親子。それが別れを予兆させてしまします。
別れは避けられません。人生はそれを含んでいます。
一生の親友と思っていた、そんなことありますよね。
でもお父さんが画に関して引っ越しの際に言うように「新しい生活には、古いものを捨てなきゃ」ってこと。少年は成長するという中で、その苦さを体験しますが、それはブライアンもレオノアもみんなが経てきたものなんです。
ただそれをもってしても、アイラ・サックス監督は人の世界を暖かく描いています。
人生において一歩進んだとき、私たちは何かを後ろに残します。それは辛いことですが、残したものはずっと道にあり消えるわけではないんです。
監督は今作において悪人ではなく弱さをもった現実の人々を描きました。弱さのためにうまくいかないとしても、その人間世界を批判も否定もしない。むしろ、それを含めて優しく見ている。
アイラ・サックスは真に人とその関係を愛しているのです。
本物の手触りを持つ人物、全て含めて人間賛歌として観れる話、とにかく人が大好きなそんな映画です。個人的には大切な傑作になりました。
多分いずれは劇場でやる・・・はず。とにかくおすすめしておきます!というわけでおしまい、では~
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