「パディントン 消えた黄金郷の秘密」(2024)
作品解説
- 監督:ドゥーガル・ウィルソン
- 製作:ロージー・アリソン
- 製作総指揮:木下直哉、アナ・マーシュ、ロン・ハルパーン、ダン・マックレー、ポール・キング、ジェフリー・クリフォード、ロブ・シルバ、ティム・ウェルスプリング
- パディントン創造:マイケル・ボンド
- 原案:ポール・キング、サイモン・ファーナビー、マーク・バートン
- 脚本:マーク・バートン、ジョン・フォスター、ジェームズ・ラモント
- 撮影:エリック・A・ウィルソン
- 美術:アンディ・ケリー
- 衣装:シャーロット・ウォルター
- 編集:ウナ・ニ・ドンガイル
- 音楽:ダリオ・マリアネッリ
- 出演:ベン・ウィショー、ヒュー・ボネヴィル、エミリー・モーティマー、ジュリー・ウォルターズ、マデリーン・ハリス、サミュエル・ジョスリン、ジム・ブロードベント、カルラ・トウス、オリヴィア・コールマン、アントニオ・バンデラス 他
イギリスの作家マイケル・ボンドの人気児童小説を実写映画化した「パディントン」シリーズの第3作。物語の舞台は、パディントンの生まれ故郷である南米ペルー。行方不明の大切な家族を探すため、パディントンは新たな冒険に。
これまではポール・キングがシリーズの監督を務めて今いたが、今作はドゥーガル・ウィルソンに交代。彼はこれまでCMやMVを撮ってきた方だそうで、今作で長編映画初監督デビューとのこと。
前2作に引き続き、パディントンの声をベン・ウィショーが担当し、ブラウン家の父ヘンリーをヒュー・ボネヴィル、娘ジュディをマデリーン・ハリスが演じます。
また、母メアリー役はこれまでのサリー・ホーキンスに代わって今回からエミリー・モーティマーが務めています。
実は今作、集大成的なシーンもあるので、サリー・ホーキンスの後退はかなり残念。というか彼女が演じた、彼女のルックも含めたブラウン夫人が本当に好きだったのです。でもまあ仕方ない。
公開した週末には行けなくて、次の週に鑑賞。ただ字幕版上映がかなり限られていたので苦労しました。そしてパディントン人気もすっかり大きくなっているのか、劇場はほとんど満員状態でした。
~あらすじ~
イギリスのロンドンに暮らすクマのパディントン。彼を迎え入れてくれたブラウン一家と、また近隣の住人たちとも打ち解け、まさにロンドンはパディントンの家となった。
正式にイギリス国民となりパスポートも受け取ったパディントンに、故郷ペルーにある老グマケアホームから手紙が届く。
修道院長曰く、ルーシーおばさんが行方不明になってしまったのだ。
パディントンはルーシーおばさんのためにペルーへ行くことを決心。そして、成長した家族がそれぞれの道を歩んできたため、家族で過ごす時間が減ったことを残念に思っていたミス・ブラウンは、パディントンに同行して一家でルーシーおばさんを探そうと提案。
かくして一行はジャングルの奥地、ペルーへ訪れるのだった。
しかしルーシーおばさんを探す度は、消えた黄金郷の秘密をも巻き込む大冒険へと発展する。
感想レビュー/考察
監督や一部キャスト変更でも、温かい心は変わらず
初めてパディントンシリーズで監督がポール・キングではない、サリー・ホーキンスもいない。
7年ぶりにスクリーンに帰ってきたパディントンですが映画製作らしい変更と不安を持っていました。
結論、これらの変更が大きな障害になることはなかったと感じます。
やっぱりかわいくて心温まる家族の物語としてまとまっています。根底にあるメッセージは、家族は世界中のどんな財宝よりも大切だということ、子どもは自分なりに居場所を見つけ成長し、親元を離れていくものだということ。
そんな普遍な的なドラマを、いつもの明るさやキュートなユーモアで包み、名優たちの本気の悪ふざけで笑わせてくれます。
パディントンはかわっていない。とても嬉しいことでした。
パディントンが外に出ることで変わったテーマ
今作で監督やキャストの変更以上に大きな挑戦であったのは、パディントンがロンドンを出て行くことでしょう。
もともとパディントンという物語は、外部から来たものを通して自分たちを見つめ直すこと。そしてその”より良い自分”、”なるべき自分”に気づき近づこうとする物語です。
だからロンドンにクマが必要なのです。
人間は皆優しく礼儀正しくて思いやりを持って暮らしている。それを信じてやってきたパディントンを失望させない人間にならなくてはいけない。
ただ、パディントンがロンドンを離れることで、その要素は機能としても失われてしまう。だから思い切ったチャレンジだったと思います。
ただ、離れたからこそ、今作ではパディントンがより自分自身の居場所を意識することになります。
相対的に私たちを見つめてきたシリーズで始めて、シンプルにパディントン自身のドラマにフォーカスしているともいえます。
楽しいアドベンチャームービー
そして何より、アドベンチャームービー。悪い意味ではなくて児童向けの設計になっていて、ちょっと風変わりな、でもみんな大好きな家族が、ジャングルの奥地で冒険をする話。
単純にルックやアクションだけでもこれまでとはかなり変わりましたし、その意味でフレッシュな新作になっています。
VFX周りではもう驚くこともないですが、リアル路線の中で、リアリティラインは曖昧にしているなどの調整は、危険がいっぱいのジャングルで最適解なのかと。
川とジャングルとそして飛行機で大空まで。様々な場面でのパディントンがかわいい。観ててほっこりします。
ブラウン一家のメンバーもこれまでの性格と、過去作での成長を経ていて、特に姉弟はホントに大きくなりました。
豪華な俳優陣の本気のおふざけがリッチで楽しく可愛らしい
ただ今作でシーンをさらうのは、”全然怪しくない修道院長”を演じるオリビア・コールマンですね。
名優が本気でふざけ倒しているのは前作のあまりに印象深く愛されるフェニックス・ブキャナン(ヒュー・グラント)にも通じています。
オリヴィア・コールマン本人が楽しそうなので、観ててほっこり。
2面性で揺れ動く船長を演じたアントニオ・バンデラスも、しょぼくれ加減とカッコよさが同時に存在できて、しかも汚い悪人ではない。
彼はパディントンやブラウン一家と実は似たドラマと葛藤を抱えた鏡のような存在です。
家族か自分の黄金への野望か。
自分の居場所は自分で選べるから
揺れ動く様は、ブラウンさん、ブラウン夫人も同じこと。
パディントンは故郷とイギリスで揺れる。そしてブラウン夫妻は子どもの巣立ちを迎えてとても寂しい。でも同時にそれは手放さなくてはいけないことでもある。
こうした冒険の旅で、本当に大事なものを見つけていく。ハンターは黄金や祖先の因縁以上に、ジーナが自分にとって一番の宝だと気づきます。
今作はパディントンを相対的な理想の私たちにするという機能は無くなりましたが、もう一つ大切な、自分自身で自分の居場所を決められるというテーマにフォーカスしたのですね。
1作目でブラウンさんがパディントンは自分の家族だと宣言した。2作目でも家族は家族を決して見捨てないことをみせた。
パディントンの故郷は確かにペルーですが、それでも今彼にとっての居場所は、大事な家族のいるロンドンなのです。
終幕に過去作のモンタージュ出てくるのは正直ズルですが、でもやっぱり私は10年ほど続いているこのパディントンシリーズがすごく好きなんだと実感しました。
シリーズの中では正直最も弱い感じなのは否めませんが、それでも温かい心とパディントンシリーズらしいチャームはちゃんと持っています。
ちなみに今作はエンドクレジットの、本当に最後の最後まで見てほしい作品です。
ただ、それを見てしまうと、いかにある俳優が本当にシーンスティラーだったかとか、「パディントン2」がどれほど素晴らしい作品だったのかを再認識することにもなりますが。
ということで、パディントンシリーズ最新そして最終?作品も、大切なハートをもった真摯なクマの物語で満足でした。
今回の感想は以上。ではまた。
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