「君を想い、バスに乗る」(2021)
作品概要
- 監督:ギリーズ・マッキノン
- 脚本:ジョー・エインズワース
- 製作:ロイ・ボールター、ソロン・パパドプロス
- 音楽:ニック・ロイド・ウェバー
- 撮影:ジョージ・ジェッズ
- 編集:アン・ソペル
- 出演:ティモシー・スポール、フィリス・ローガン、ナタリー・ミッドソン 他
「Pureピュア」などのギリーズ・マッキノン監督が、亡き妻とのある約束のためにたった一人でスコットランドからイギリスの最西端ランズエンドまでバスで旅する老人を描くロードムービー。
主演は「ターナー、光に愛を求めて」などの名優ティモシー・スポール。また回想シーンにて登場する妻エミリーを「ダウントン・アビー」などのフィリス・ローガンが演じています。
今作は脚本担当のジョー・エインズワースが着想を得たアイディアから物語が構成されたようで、設定を気に入ったマッキノン監督が映画化を進めたようです。
ティモシー・スポールは今回特殊メイクを使わずに、実年齢よりもだいぶ上の90歳のおじいちゃんを熱演。その演技はいろいろなところで高く評価されているとのこと。
私は今作を全く知らないままに、映画館で予告をみて興味を持ちました。というかティモシー・スポールが出ているというのがきっかけですね。
とにかくマイク・リー監督の「ターナー、光に愛を求めて」以来ずっと好きなので。
しかし地元の公開はやや遅くて。しかも公開された週には行けず、結局全国ロードショーからは結構遅れての鑑賞になりました。
休みの日のお昼でしたが、そこまで混んでなかったです。年齢層も高めでした。
~あらすじ~
スコットランドの最北にあるジョンオグローツ。
90歳の老人トムは、カバン一つで旅に出る。それはイギリスの最西端のランズエンドに向けての実に1300キロもの旅である。
トムは老人向けの無料券を使ってバスに乗り、自身のメモに記されている宿やダイニングを訪れて旅をする。
途中様々な人と出会いながらも、トムは旅路を急いていた。
彼には時間がない。そしてこの度は決して途中であきらめられない。
それはトムが今は亡き最愛の妻メアリーと約束したこと。二人が若かった頃に起きた悲劇に関係していた。
感想/レビュー
映し出される美しさに対してドラマの一貫性が物足りない
美しい風景に地元の人々の切り出し方、神妙な面持ちの老人のバスの旅と彼の過去を巡る旅は、画的にこそ美しいものです。
しかしこれだけの素材とティモシー・スポールをそろえておきながら描き出すドラマとしては、あまりに惜しい作品だと思いました。
そもそもの期待値が高くあったということもあるのですが、しかし時折バスから外を眺めてはフラッシュバックを多用していくだけでは、名優の力も発揮しきれないようにも思えるのです。
この旅から見えてくるスコットランドやイギリスの風景、街、そして人々の観察というのは楽しく観れますが、しかしそれらがトム個人と深くかかわってきていないのも残念なところ。
彼自身には”バスの英雄”の名がつけられて、SNSでバズる描写がありますが、しかしそうしたさまざまなところに手を伸ばした脚本に関しては一貫しての命題が感じられないのです。
出会う人たちの観察
トムが初めに出会う青年、また酔っぱらったおじさんや男性グループ、子どもたち。
様々な観察が見て取れて、そしてみんなが変に顔を知られている俳優ではなく、本当にそこに生きている人に見えるのが素敵なところでした。
兵役についてだったり、人の出会いと別れだったり、またカバン盗んだ女性からは貧困が、ヒジャブをつけた女性の件では移民と彼らへの偏見と悪意なども観察できます。
トムの旅はスコットランドからの始まっているため、イギリス側のめちゃくちゃ失礼な見下しも見えますね。
この作品はロードムービーでありますが、この二つの国の肖像でもあると思います。
この点は結構見ていて、国特有のものから人間としては普遍的なものまでそろっていて良いと感じました。
もちろん、それぞれの広く抜けた景色から、街の空気感なんかもとても良かったです。
映像演出の物足りなさ
だからこそ、観客として追いかけていくトムのドラマ部分には微妙さが出ています。
ストーリー自体はある程度読めるものです。ここをトムが誰かに語ったり、モノローグで処理したりしないのは良かったです。
しかし映像的な語りが一辺倒すぎると思います。
何かあればトムがバスに揺られ、そのガラス越しに過去を覗いたり夢の中で回想したり。
ティモシー・スポールはやはり素晴らしい俳優であるので、トムの決意や旅に賭ける想いなんかは感じられますし、メイクの素晴らしさもあるんですが、ちゃんと年相応に、そして病気を抱えている老人に見えるのもすごいところ。
ただもったいないですね。
もっと幅のあるリアクション、アクションをみせる仕組みがあっても良かったなと思います。
メインの旅路との相関性
トムはメアリーと恋し、結婚し、そして子をもうけた。
しかしその子は1歳にもなれずに亡くなってしまった。OPはその悲しみのあまり、メアリーがずっと遠くの地へと行こうというところから始まります。
メアリーとともに逃げてきた過去。それに向き合うことがトムにとっての旅。
その話のメロドラマ感は別に王道なので良いです。
でもそれがこの国の観察のようなバスの旅にシンクロしない気がします。トムが自分自身を投影する相手というのもあまり登場しないですし。
そして一番モヤモヤしたのは、周りの描写。
彼がバズって人気者になる意味は何なのでしょうか。
そして人気になって多くの人が彼の旅を見守ることと、トムの亡き子どもとメアリーとの約束の旅の関係は何なのでしょう。
どうにもアイディアに対して付随させたプロットや要素がかみ合っていない印象です。
嫌いになるような映画でこそないのですけれど、イギリスとスコットランドへの愛とか老人のバスの旅のアイディアとか、入れ込んで好きになれるといったものでもありませんでした。
ティモシー・スポールが目当てならば観てみても良いかとは思います。しかし、ストーリーにこそ期待はしなくてよいかもしれません。
今回は個人的には期待した成果拍子抜け。あまり合わない作品となりました。
というところで短いのですが、感想は以上。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ではまた。
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