「プロミシング・ヤング・ウーマン」”Promising Young Woman”(2020)

「プロミシング・ヤング・ウーマン」(2020)

  • 監督:エメラルド・フェネル
  • 脚本:エメラルド・フェネル
  • 製作:エメラルド・フェネル、トム・アッカーリー、ベン・ブラウニング、アシュリー・フォックス、ジョシー・マクナマラ、マーゴット・ロビー
  • 製作総指揮:グレン・バスナー、キャリー・マリガン、アリソン・コーエン、ミラン・ポペルカ
  • 音楽:アンソニー・ウィリス
  • 撮影:ベンジャミン・クラカン
  • 編集:フレデリック・トラヴァル
  • 出演:キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリー、クランシー・ブラウン、ジェニファー・クーリッジ、コニー・ブリットン、ラバーン・コックス、アダム・ブロディ、マックス・グリーンフィールド、クリストファー・ミンツ=プラッセ、アルフレッド・モリーナ 他

作品概要

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人気ドラマ「キリング・イヴ/Killing Eve」の製作、また脚本家、そして俳優として活躍するエメラルド・フェネルが初監督デビューを飾る作品。

前途有望だったある女性の過去の悲劇と、その復讐劇を描きます。

主演は「未来を花束にして」「ワイルドライフ」などのキャリー・マリガン。

また「エイス・グレード」で監督デビューしたボー・バーナムや「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」のアリソン・ブリーらが出演。

また今作の製作にはマーゴット・ロビーが参加しており、プロジェクトの確立にあたってはキャリー・マリガンの主演を望んだとのこと。

作品自体は2020年に、新型コロナウイルス拡大による公開延期を受けながらも年末に北米公開、アカデミー賞レースにも参戦し5部門にノミネート、その中で脚本賞を獲得しました。

日本でも公開が待ち望まれましたが、半年ほどたって7月に公開されました。

もともと7/16公開?だったのですが、都内一部では前週から観ることができていたので、日比谷のTOHOで鑑賞。

もとスカラ座のほうなので結構広いスクリーンですが、多くの人でにぎわっていましたね。わりと若い人が多かったと思います。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」公式サイトはこちら

~あらすじ~

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かつて医大に通っていたが中退し、30歳になる今でもコーヒーショップの店員をしていて実家暮らしのキャシー。

彼女は毎週クラブに乗り込んでは泥酔したふりをして男を誘う。

男たちは介抱する素振りで声をかけてくるが、あの手この手で結局は自分の部屋へのキャシーを連れ込み、セックスするのが目的だった。

そこでキャシーは酔いつぶれたふりをやめ、混乱した男に制裁を加えていた。

ある日コーヒーショップに医大のころ同級生だったライアンがやってくる。

正直彼のことを覚えていないキャシーだったが、彼からある人物の結婚話を聞き、事態が変わった。

キャシーが医大を中退した理由、親友で幼馴染のニーナ。

ライアンと楽しく過ごし始めても、キャシーの中ではある計画が始まっていた。

感想/レビュー

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単純なエンタメで終わらない劇薬

エメラルド・フェネル監督のどことないノワール的な、時代がまさに必要とする作品は、あらゆる人に観てもらいその議論を進めてもらうための劇薬だと思います。

今作をみて、少なくとも観客は自身のスタンスを問われ答えを出さずにはいられないでしょう。

単純なエンタメとして終わるということが無いように思います。

大本は監督が冒頭のワンシーンを思い付いたところから始まったらしいですが、全てのジェンダーバイアスに対して牙を向くような刺激的な話になっています。

単純に話がおもしろいというのもあります。語り口が巧いなと。

過去に何らかの事件を抱えてい主人公の現在の視点でありながらも、過去をそのまま見せずにしかし悟らせる。(重要なビデオすら見せない。大切なのはそれをみたキャシーのリアクションです。)

おそらく重要な”レイプ”、”性的暴行”という言葉を一切使用しない点は効果的に思えました。

何があったのか同様に、想像させる。考えさせるわけです。

思考を刺激することで観客は自ら映画に入り込み、そして回想がなく停滞しない話は常に前に進んでいく。

次にどうなるのか?追いながらも過去を推測しそして自分の考えを要求される。

そりゃおもしろいに決まっています。

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ブロック・ターナーの事件

今作の着想には上記がありますが、調べてみるとタイトルには今作の中での機能以外に現実を投影していたようです。

“Promising Young Woman”=「前途有望な若い女性」。

これはキャシーの計画内のIIにおける学長へのカウンターでもあるんですが、実際に2016年、スタンフォード大学内でおきたレイプ事件の判決に置いて、”Promising Young Man”=「前途有望な青年」という言葉が使われました。

この2016年のブロック・ターナーによるレイプ事件についてはwikiとか見て頂けると、今作が現実に対するカタルシスや復讐をしている点がより浮き彫りになるかと思います。(いろいろ読むと腹が立ちますのでその点注意)

参考:Enjoli Francis 5 September 2019 Victim in Brock Turner Stanford sexual assault case goes public with her name and memoir abcnews

まあこういった調べものを奨励してくる点が、今作の素晴らしい点なのかもしれません。

全てに牙をむく怒り

さて、ドライブしていく話でその牙を突き立てていく相手は単純にとんでもないことをしたクソ男や、女性を性的なはけ口としてしか見ていないクラブのボケどもだけではありません。

今作はあらゆるジェンダーバイアスを揺さぶる。凄まじい怒りを内包しています。

そこには、同調圧力をふるう人間や、女性はこうあるべきという男・女、そして罪なき傍観者までもが含まれます。

ただフェネル監督の脚本で英断だなと思うのは、これらのキャシーのターゲットには、人生はあってもドラマがない点です。本当に幼稚なバカしかいません。

個人的にはライアンすらそうでした。

彼とキャシーはロマンスを展開しますけど、ライアンは徹底して表層的。

それゆえに真実が判明した時に、彼に対して気を悪くしなくていいのは観やすくていいですよ。

その他アリソン・ブリーが演じるマディソンの記号的ともいえる頭のない女性感。

ことごとく出てくる男たちの幼稚さや小物具合といい、純粋に「ざまあ」と思えて気持ちがいい。

ところどころに知っている顔が出てくるのはキャスティングが大変そうですが(スモールパートだからこそ出れたのかも?)、あんまり現実の人っぽくないテイストをくれますね。

クランシー・ブラウンのお父さんとかは、キャシーのドラマ性を高めてくれて暖かくてすごく良いシーンもくれています。

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ただただキャリー・マリガンに圧倒され魅了される

さて、そんな痛快ともいえるストーリーで、切れ者として話をドライブさせ観客を魅了するキャリー・マリガン。

彼女の演技が無くてはダメでしょう。

今作内だけでもすごい幅を見せてくれますので、そのままキャシーの人間としての厚みや変化に直結しますし、クールな復讐者も人生を楽しむ女性も演じ分けています。

あとやはり、彼女の少女のような笑顔や、慈しみは大きいです。

キャリー・マリガンには娘感も母感もあると思います。

それゆえに、ライアンとの時間での幸せそうな顔も、アルフレッド・モリーナが演じた元弁護士を許すシーンも、振れ幅があっても同一人物に見えます。

クソ野郎どもに対する態度の圧もあって本当にキャシーを熱演し、自分のものにしていました。

パートIかと思えばIIIIとなりハッとするキャシーの計画。

だからこそ最後の一本線が付く前の展開には驚いてしまいますが、あそこで本当に小さいディテールですが説明が入っていました。

あの外れる側の手錠だけ「少しきつい」というのは、つまり抜け出せるように細工したということ。

であればキャシーがここで終わるわけがないのです。

実は最後のパートは初めの脚本では4部の時点で終わり存在しなかったらしいですが、製作や再考の中で、キャシーだったらこうするという結論から追加されたとのこと。

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あの痛快なラストをいれて正解と思います。

過去を忘れずにその名を刻み、現在をリードするキャシーは、未来すらも支配する。

それはニーナのためです。

過去により今を失い、未来を断ち切った幼馴染で自立した女性。キャシーの憧れ。

あのネックレス。ハートの片方づつがキャシーとニーナだった。

自分ではないし家族でもない。でも大切な人を失い、どう悲しみどう怒りをぶつければいいか。

心の欠けたキャシーが復讐の天使として舞い戻る。

実際キャシーには天使の羽のような背景が合わさるショットが何回かありますし、ライアンとの別れでは二人の間に髑髏があったり。

画面構成で天使や死を匂わせるという画的な説明や、音楽(Angel of  the Morning)における示唆も加わり、すごく隙の少ないエンタメ。

男性の許される”ミス”、被害女性への不信

なぜ泥酔してバカ騒ぎする男は許され、女性だと”良い年して。”と批判されるのか。

男性だけではなく、男性には”ミス”を許し、被害にあった女性にはバイアスをかけて信じないこのシステムがイカれている。

衝撃的なラストを迎えていくストーリー、単純な復讐劇に終わらない。

キャシーが被害者なら、おそらく当事者ものになりますが、今作はそうではなく親友の立場で展開する。

見ている側。よく見ている光景。日常のそこかしこにある怒りがうねりを持ってエンタメとして叫ぶ。

存分にザワつき、混乱し、思考し議論する。凄まじい劇薬映画。

大変素晴らしい、今年ベスト入り間違いない傑作でした。

こちら非常におすすめです。

というところで感想は以上になります。

最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。

それではまた次の記事で。

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