「エリサ&マルセラ」(2019)
作品概要
- 監督:イザベル・コイシェ
- 脚本:イザベル・コイシェ
- 原作:ナルシソ・デ・ガブリエル
- 音楽:ソフィア・オリアナ・インファンテ
- 撮影:ジェニファー・コックス
- 編集:ベルナト・アラゴネス
- 出演:ナタリア・デ・モリーナ、グレタ・フェルナンデス、サラ・カサスノバス 他
「死ぬまでにしたい10のこと」や「しあわせへのまわり道」などのスペインのイザベル・コイシェ監督が、20世紀初頭に男装してまで結婚した同性愛者の二人の実話を、彼女たちを描いたエッセイを原作として映画化した作品。
主演はゴヤ賞を2度受賞しているナタリア・デ・モリーナ、そしてこちらもスペイン国内でいろいろな賞を獲っているグレタ・フェルナンデス。
実力のある二人の俳優をそろえて描き出される実話であり、そしてLGBTQの闘いの中に大切な、語られるべき物語ということで興味がありました。
ネットフリックスのジャンルをいろいろと観ていく中で見つけたので鑑賞。
「エリサ&マルセラ」NETFLIX公式サイト配信ページはこちら
〜あらすじ〜
1900年代初頭。厳格な父のもと育てられ学校に通うことになったマルセラは、そこで先輩のエリサと出会う。
女子に勉学は不要、結婚こそすべてと言われてきた二人はともに勉学を愛し教師になるという夢を持っていた。
すぐに仲良くなった二人だったが、その関係性は友人を越えていく。深く愛しあうことになった二人に父は気づき、マルセラは引き離されるように別の学校へと送られてしまった。
3年の時が流れ、マルセラは小さな学校の教師になっていた。そして、そこで再びエリサと出会う。邪魔のいない二人は愛し合い、ともに幸せに暮らし始めるのだった。
しかし、敬虔なキリスト教圏ではこの二人の関係性は禁忌であった。
周囲からの噂と攻撃、憎悪の対象になってしまった二人は場所を変えて人生をやり直そうとする。
その方法は大胆であり予想もできないものだったが、その行為がまたしても二人を窮地に追い込んでしまうのだった。
感想/レビュー
同性愛者の歴史に間違いなく偉大な功績と名を残すであろう、このエリサとマルセラの二人。
その大探査と勇気、深い愛情はそれこそ現代に続く道の中でも過酷な時代を生き抜いたものであり、描かれ覚えておかれるべきものです。
偉大な話を平坦な語りがメロドラマに
しかし、偉大な話というのはそれ自体が意味を持っているもので、それが偉大な映画になっていくかというのはまさに語り部により変わっていくものだと思います。
素晴らしい物語だけでは、素晴らしい映画にはならないのです。
いかに語っていくか。その点に関して、イザベル・コイシェ監督のタッチというのは何とも平坦で大胆さに欠け、あまりにメロドラマ的な凡庸性に収まってしまったと言えるでしょう。
モノクロームの映像には確かに柔らかさや美しさがありますがしかしそこにドラマが感じられず、その官能的な表現もただ全面に押し出されているに過ぎず、あまり深い洞察を与えていないと感じてしまいます。
その撮影には確かに美しさはあると思いますし、全体にモノクロームでありつつも滑らかさとか優しさを感じる、あまりエッジのたっていない画面は眺めている分には心地よくあります。
しかしアイリス・ショットが多用されていることのはっきり言って無意味なこととか、繰り出されていく官能的な描写には、ただ表層的な性、エロスはあってもこのエリサとマルセラの二人の愛の表現としてはあまりに薄っぺらく感じます。
大胆な演出は確かにあります。
タコのシーンとか、ベッドで横たえるときのワカメとか。
大胆さが性的な描写にあるのですが、非常にポルノ的というか、風変わりな感じを強く出してしまっていて逆効果に思えました。
主演の二人については、ナタリア・デ・モリーナはちょっと惜しい気がします。
口髭の滑稽さが目立ってしまうような形での男装でしたし、彼女側のドラマは一層弱く感じてしまいました。
グレタ・フェルナンデスは個人的には良かったです。
というか用意されている背景の深さがあると言っただけかもしれません。
彼女には勉学に励もうとする女性とそれを許さず結婚だけが幸福と消えつける男性社会の軋轢が見えましたし、その中で毅然とその頑固そうな表情で挑んでいく様にかっこよさがありました。
しかし総合的には用意されているドラマ性が乏しいことには変わりなく、二人の演技についても見せる幅が限られてしまったのではないかと感じます。
時代に翻弄され、宗教に、政治に狂わされた二人。それでも愛し合うことをやめなかったという事実は確かに残されるべき物語です。
ただしイザベル監督が描いたのは二人の絆というよりも、そこにある性的な喜びや官能であり、のクローム撮影もアイリスショットの多用も、そこにクラシックさが生まれるまでには至りません。
「ブロークバック・マウンテン」や「キャロル」などの同性愛者を描くドラマの何が素晴らしいかとは、性愛を越えて人間同士の深利つながりがあるからこそ。
その当事者たちを理解し個人としてとらえることがあってこそ。
正直言ってこの作品は素晴らしい実話を使ってただ美しい女性二人のセックスを描いたに過ぎないと思います。
実話がなんとも勇気あるものだけに、ちょっと残念に思う映画でした。
まあこのエリサとマルセラという二人を知ることができたという点では収穫でしょうか。もしも興味があれば鑑賞してみてください。
というところで今回の感想はここまでです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ではまた。
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