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「ウィッチ」”The Witch”(2015)

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映画レビュー
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「ウィッチ」(2015)

  • 監督:ロバート・エガース
  • 脚本:ロバート・エガース
  • 製作:ジェイ・ボン・ホイ、ラース・カスダン、ジョディ・レイモンド、ダニエル・ベッカーマン、ロドリゴ・テイクセラ
  • 音楽:マーク・コーヴェン
  • 撮影:ジェイリン・ブラシケ
  • 編集:ルイス・フォード
  • プロダクションデザイン:クレイグ・ラスロップ
  • 美術:アンドレア・クリストフ
  • 衣装:リンダ・ミュアー
  • 出演:アニヤ・テイラー=ジョイ、ラルフ・アイネソン、ケイト・ディッキー 他

プロダクションデザイナーとして活躍するロバート・エガースによる、初の長編監督作品。

主演を務めるのは、ホラー映画女優として大活躍の新星、アニヤ・テイラー=ジョイ。彼女は2017日本公開の「スプリット」(2016)でも主演を務めていますね。

本作はサンダンスで上映され、監督賞を受賞しており、批評家の間で高い評価を得ています。日本公開はだいぶ遅れてしまったものの、無事映画館で観れました。一時は輸入も考えましたけど、やっぱりホラー映画は劇場がベストです。新宿にて鑑賞。なかなか人が入っていましたね。

1630年のニューイングランド。自分たちこそが真の信者であり、敬虔なキリスト教徒であると主張したウィリアムの一家は、村の教会と決別し、森のそばの荒れ地へと越してくる。

しかしほどなくして、作物が腐りはじめ、冬を越すのに十分な食料が得られそうになくなってきた。そして悪いことは続き、一家の子供、赤ん坊である幼きウィリアムが行方不明になったのだ。

不気味な森と厳しい環境、そして信仰ゆえの悪しき存在への恐怖が、一家を狂わせていく。

今作は時代考証をしっかりし、当時の記録を拾い、現存している記述がそのまま台詞になっているなど、昔話としての質の高さを持っています。現代的アップデートをしているというよりも、とことん古典や実際に昔から時の流れを持って今につながる、確かにあった話や出来事を描くことに徹底していると思いました。

その雰囲気の作りこみは完璧で、気味悪いこの空気がそのまま画面を通して吸えるようでした。そして、この不気味さはどこまでも心地よいというのも、また巧い作りであり怖いところですね。

撮影の妙もかなりあると思いました。全体にまったく色を失ったような世界で、そのせいで血だけがやたらに映えるのです。闇はとことん真っ黒であり、森の中では無限のような奥行きがその深さを煽ります。一家の背後には大きく森が映し出され、木々の間の闇が深く何も見えない。

荒涼とし、絵画のような一枚画のショットもかなりの見どころで、どこか美しいのもまた妖しい魅力を持っていますね。ジェイリン・ブラシケの撮影が素晴らしいところ。インタビューでも答えていますが、今回1.33:1のアス比で撮影していまして、それが家をより窮屈に、そして森の木々をより高く映し出す役割を果たしていて、なるほど効果的だなと思いました。

その空気に溶け込みつつもひきつけてやまないのが、アニヤ・テイラー=ジョイでした。作品における立ち位置にぴったりですね。被害者のようなそれでいて・・・魅惑的なのですよ。

個人的に母役のケイト・ディッキーも名演であると思います。信仰心がおそらく家族で一番強いからこそ、狂気的で壊れていく。魔女や悪魔の行為と言われることを行ったり行われたりするのも彼女であり、完全にその強い信仰心を利用されて堕ちていく、その不気味さが投影された人物でした。

この作品でとりわけ面白いのは、テーマ性を分裂させつつもそれぞれとして楽しめるところでした。

映画はわりと序盤に、邪悪なものの存在を観客に提示し、赤子を喰らうというこれ以上ないおぞましい行為を暗示しますね。そうみると今作はかなりストレートな超常現象ホラーとして観ていけるのですけど、それだけにとどまらない。

今作は長女トムシンの視点にフォーカスしています。それは始まってすぐに、家族の顔も良く映らない中で、一人その場に立ちすくす彼女をカメラがとらえるだけで、しっかりと視点の固定をする巧さで観客へ伝わります。

そしてトムシンを通して観客はこの崩壊を観ていくのですが、次第にサイコスリラーへとシフトしていくことで、観たものすら疑わしくなっていきます。

疑心暗鬼は家族内で確かに展開されていきますが、今作では観客と映画との間にすら、信頼の崩壊が用意されているのです。

主人公であれば約束されているであろうものが、トムシンが彼女自身を信じられなくなっているような様子をみせることで、脆く崩れていきます。

彼女自ら魔女を語り、しかも妹を脅かすための嘘だろうと思うのですけど、その場では一切弁解しないんですよね。彼女が否定するときには、もはや生き延びるための嘘にも思えるので、観客は寄り添っていたトムシンへの信用を失います。

先ほど書きましたように、ストレートに観れば真っ直ぐ描かれた魔女と悪魔のホラー。しかし家族間で漏れ出す不信によって、サイコスリラーとしても楽しめる。

さらに、その映画内に起きている、またはトムシンの視点で描かれる事柄への不信という構造もあり深く不気味さを持っている作品です。

家族それぞれにある罪の意識とそれを抱え込むことで生じる歪み。

一家の崩壊としても十分に面白く楽しめますが、織り込まれたある意味メタ的な怖さまであり、個人的にはそこが何より怖かったです。じわじわくる怖さで、大きな音とかビックリさせる逃げにも頼っていないところも良いところ。

人物間の疑念、そして私たちが知らずに持っている、主人公への信仰と映画内で画面に出てくるものへの信仰。

主人公は正しく、現実を見ており、画面に出ていることは事実である。

その観客の信仰をうまく利用し、それをじわじわと壊していく手法は、まさに悪魔の技そのものですよ。となると、一周まわってやはり悪魔や魔女と言うホラー映画としてまた深みを増すのです。観客にまで働きかけてくる悪魔とか、ホントすごいですよね。

そうして踊らされて、トムシンを信じられないとか、やはりこの少女は悪なのかとか言って、私たち観客は魔女狩りをしていくような気もしますが、ふと冷静に今作を考えると・・・

映画の最初、ウィリアムは息子に対し、食物の腐敗と飢餓の恐れを話します。

ということは、これ、食べ物が無くなって飢餓状態から狂った家族が殺し合ったような話にも見えてくるんですよね。

全ては精神崩壊したトムシンがみた恐ろしい悪夢、もしくはそうした何か外部の悪のせいにしたかったために生み出した願望とすらとれますから。

どの面から見ても秀逸な作品。魔女生誕の物語としても、一家崩壊のサイコスリラーとしてもおもしろいですし、作品そのものが観客を操るような怖さも持っています。おススメのホラー作品ですね。。是非とも、逃げ場のない劇場で観てください。

ということで感想はおしまいです。最後にひとつ言っておくと、この作品のアニヤ・テイラー=ジョイ。めっちゃかわいいです。魔女的なかわいさ。はい。終わりです。

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