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「アリスのままで」”Still Alice”(2014)

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映画レビュー
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「アリスのままで」(2014)

  • 監督:リチャード・グラツァー、ウォッシュ・ウエストモアランド
  • 原作:リサ・ジェノヴァ 「静かなるアリス」
  • 脚本:リチャード・グラツァー、ウォッシュ・ウエストモアランド
  • 製作:レックス・ルッツ、ジェームズ・ブラウン、パメラ・コフラー
  • 音楽:イラン・エシュケリ
  • 撮影:デニス・ルノワール
  • 編集:ニコラ・ショーヂュルジュ
  • 出演:ジュリアン・ムーア、アレック・ボールドウィン、クリステン・スチュワート 他

ジュリアン・ムーアがアカデミーにて主演女優賞を獲得した本作は、若年性のアルツハイマーにかかりそれと戦う女性アリスの物語。多くの賞で主演のジュリアンは高く評価されていますね。

監督のリチャード・グラツァーはALSであり、アカデミー賞の発表後すぐに他界してしまいました。筋肉が動かなくなる難病の中、メガホンを取り続け本作を完成させました。

もう一人の監督ウォッシュ・ウエストモアランドとは結婚しているパートナーであり、難病と闘う人それを支える家族という構図は映画そのまま。その監督たちの心が、この映画にはこもっています。

ファーストデイとあって人はかなり多め。年齢層は高めでしたが、若い世代にもその視点のある作品ですので観てほしいものです。

言語学者であり大学教授を務めているアリス。

家族に囲まれて幸せに暮らす彼女だったが、その平穏に影が差す。ふとしたど忘れから、馴染みの大学キャンパスで自分がどこにいるのかわからなくなる等、記憶がふらつき始める。

診断で下されたのは、若年性アルツハイマーだった。

家族に打ち明けるとそれぞれは来る将来を考えアリスを気遣うのだが、アリスもまた、自分で自分のことに決着をつける方法を考えはじめるのだった。

この映画でまず面白かったと言えば、このアルツハイマーを扱うアプローチです。

記録的な映し方でもなければ、周りの家族などの眼を通していくわけでもない。

アリス本人の視点で語られていくのです。アリスと共に観客が恐怖と不安、絶望に直面していく作りは非常に酷でありながら現実的。

彼女が状況を判断できなくなる、周りも自分すらも認識できなくなるとき、カメラはアリスに焦点を合わせてそれ以外がピンボケしますね。このボヤケは最後でも良い演出をします。

彼女視点で次第に薄れていく記憶と認識。

序盤では巧みな言語を操り、ワードゲームではなかなか知らないような単語を並べています。これだけの記憶と機知をもつ彼女が少しのことも覚えていない。

それだけで観客は恐ろしさを感じます。築きあげてきたものが大きく立派だからこそ、その崩壊がとてもショックで残酷です。

私たちはどうしても維持にこだわり喪失を恐れますから、設定はかなり効果的です。

時間の経過もスマートでしたね。同じアイス店に行く、「昨日じゃない、一か月前のことだ。」などの症状とリンクした感じでよかったです。

まわりの家族もリアルな描写がなされていると思いました。

もちろん妻、母がどんどんと記憶とその管理を失っていく姿に直面するわけですが、初めて家族の前で自身の病気を告白するシーンが素晴らしい。

手を握り寄り添う夫、息子は心配して姉妹の姉は涙を流す。クリステン・スチュアート演じる妹の方が少しひねった人物で、この場面では「なんとなく知ってたわ。」と言いますね。

彼女は客観的に見ている印象。しかしある意味それを受け入れている覚悟が唯一見える人物です。この告白場面でアリスの周りの造形がしっかり見せられていると思います。

また、献身的な涙ちょうだい話でないのも好印象。

アリスは過去の話を絶えず繰り返し、もうすぐ失われる自分への準備をします。そういった中で確かに存在した愛の思い出を反芻していく。

しかし、それだけにとどまらず、アリス以外もしっかりと個人として生きている描写があり、アリスとぶつかることでより深みをましたドラマになっていると思うのです。

夫には医師としてのキャリアがあり、子供にもそれぞれの人生がある。

記憶の欠落で傷つけてしまったり、負担になってしまうこと。アリスはそれが嫌で自分の処理を用意していました。

最後には、一番そっけないようで一番腰の据わっていたリディアがそばにいることに。

何もわからなくなってしまった母を前に、物語を話す。

もちろん理解はしていないが、アリスは「愛の話。」と言います。読んでいたのはそういう話ではないですが、リディアも「そう。愛の話よ。」と優しく言います。

何とも暖かく、そして確かにこの母子は今互いの愛を伝えあったように感じます。

娘は言います。

「今ああなってしまっているけど、どうしてもあのスピーチを忘れられないの。」

彼女が伝えた闘いの話。自分が持つものも、自分自身も失われていくけれども、それでも闘っている。その人が思い出せず、その人自身ですら人格をうしなったとしても、それでその存在が消えたことにはなりません。

一緒にいた思い出を持つ人が、愛し合った人がいます。

薄れていって消えてしまうようで、確実にまだ生きている(Still Alive)

力強く人の心に訴えたアリスはまだそこにいるのです。

物語は終わって、エンドロール。画面にはStill Aliceとぼんやり映ります。

そしてしばらくの後にその大きな文字が鮮明にくっきりと主張する。

散々ぼやけたカメラを使い、アリスの焦点すらズレた後、こうしてまだアリスなんだ、まだ生きているんだ!と、観終わる私たちに訴えかけているんでしょう。

あなたが忘れても、私は覚えている。そして知っています。あなたは依然と寸分たがわずに、アリスのままなんだと。

誰しも可能性のあること、自分でも家族でも。

逃げずに、その視点から切り込むのは、監督も難病と闘う人でありそして支える人だからこそでしょう。それをジュリアン・ムーアが私たちに確実に届けてくれます。大切な人が消えない証明のおすすめの一本です。

それではおしまい。また。

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