「マイ・エレメント」(2023)
作品概要
- 監督:ピーター・ソーン
- 脚本:ジョン・ホバーグ、キャット・リッケル、ブレンダ・シュエ
- 原案:ピーター・ソーン、ジョン・ホバーグ、キャット・リッケル、ブレンダ・ヒュー
- 製作:デニス・リーム
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音楽:トーマス・ニューマン
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撮影:ダヴィド・ビアンキ、ジャン=クロード・カラシェ
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編集:スティーヴン・シェイファー
- 出演:リーア・ルイス、ママドゥ・アティエ、ロニー・デル・カルメン、シーラ・オンミ、ウェンディ・マクレンドン=コーヴィ 他
「アーロと少年」のピーター・ソーン監督が、元素の集まる街エレメント・シティを舞台に、火と水の絆を描いたアニメーション映画。
監督自身が移民の子どもとして育った経験から着想を得た作品であり、ピクサーによる製作。
声の出演は「ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから」で素晴らしかったリーア・ルイス、「ブラック・ボックス」などのママドゥ・アティエ。
作品はカンヌ国際映画祭のクロージング作品として上映されており、その後すぐに北米でも公開、ただ最初の頃は「ザ・フラッシュ」などと同時公開もあってかけっこう興行的には苦戦をしていたようです。
その後には興行的にかなり盛り返して成功した部類にはなったようです。
日本でも8月のサマーシーズン、お盆を控える形で公開。
公開週末には行けなかったものの、その次の週末に鑑賞してきました。
~あらすじ~
火・水・土・風の4つの元素が共に暮らしている街エレメント・シティ。
火の国からここへ越してきた両親のもと、父が経営する店を手伝っているエンバー。
彼女はいつか自分が父の店を継ぐと決めているが、お客さんの対応でたびたび癇癪を起してしまいうまく行かない。
ある日、店の地下でパイプ破損による浸水が起きてしまう。
そしてその水漏れの中に吸い込まれて、水の元素の調査員ウェイドが流れ込んできた。
ウェイドは店が管理違反をしていると役所に届け出るのだが、エンバーは彼を捕まえて取り消すように言う。
エンバーから父の苦労や店が家族にとってどんなに重要かを聞き、ウェイドもそもそもの水漏れの原因について調べようと協力してくれることに。
かくして二人はエレメント・シティで起きている謎の水漏れと浸水に関して調べていくこととなった。
感想/レビュー
独自の世界観が根底の楽しさにリンクしていない
ピクサーの描き出す世界にはいつも独自性があり、そしてなによりも、その突飛な世界設定の視点ながらに確立された世界を繰り広げる楽しさがあります。
もしもおもちゃが生きていたら?
もしもモンスターたちが子どもの悲鳴をエネルギーにしている世界があったら?
もしも感情がそれぞれ生きていて、人間の中で操作をしていたら?
そんなもしもの世界として、今作はもしも元素に自我があり、それぞれが共存する世界があったら?というテーマを繰り広げています。
が、正直言ってその辺はうまく行ってるのか、物語的に必然性があるのかがよくわかりません。
うまく機能していると思った点は、この世界の構築自体にはなく、むしろ両親への感謝や移民としての存在、アイデンティティにあります。
それは別に元素である必要はないのです。
それぞれ4つの元素が擬人化されていますが、造形について微妙に感じます。
要するにリアリティラインの話になるのですが、水は基本的には不死身で質量的にも無限大なのでしょうか。
また土というのがむしろ植物みたいな造形なのも、元素というのか曖昧です。
NYCのような複雑さと分離された区画を持つエレメント・シティ。
そこに暮らすそのエレメントたちに投影されているのは非常に多くの議題です。
主軸はロマンスコメディになっていて、エンバーとウェイドの互いを想う恋愛模様ですが、こちらにはもちろん異なる人種のメタファーが入れ込まれます。
エンバーの父は水が嫌いで、祖母も亡くなる際に「火と結婚しなさい!」と残したほど。
ここには「招かれざる客」のような人種間問題と親の説得が入り込んでいるのです。
あちこちに手を伸ばしてはいるが・・・
ストレッチはなされ、ロマンスだけではなくてこうした人種問題を投影しつつ、個人的にはどちらに足を置くか迷った印象も得ました。
なぜならその2つの議題に揺れる度に、エンバーには自己実現、移民、親からの期待という追加でこなすタスクが用意されているからです。
あちこちに散った命題が見てて混乱しました。
統合集約点はエンバーですが、移民関連についてとかウェイド関係ないですし。
親への深い感謝
エンバーのドラマに関しては、父との関係性含めて一番エモーショナルと思います。
こここそが監督の個人的な想いであるのかと。
いわゆる1世として異なる地に移り住み、そこで家族、家庭を築いてきた。
偉大な両親への感謝、期待に答えることと自分がやりたいこと歩みたい道との軋轢。
この苦悩こそがコアです。
こちらの世界とのつながりを持てない
そのドラマは良いとして、もう一度話を戻しましょう。
エレメント・シティ、元素の擬人化である必要性はどこにあるのか?
これまでのピクサー作品は、魂の世界に行ったとしても、全ては現実と繋がり反響していました。
今作は我々現実に生きる人間、つまり観客の住む世界にとってどう影響し繋がっているのか不明です。
単純にメタファーであるなら動物に対してのステレオタイプを活かして意味を持たせた「ズートピア」が秀逸です。
火と水に関して共通意識としての人格や固定観念があるとはあまり思っていませんから、この辺の世界観に対して残念に思った作品でした。
各映像レベルは非常に高いですし、まあ楽しい作品ではあります。
ただピクサースタジオという看板に対しては割と大人しく詰めの甘い映画に思えます。
というわけで今回は少し低めな評価になりました。
感想はここまで。最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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