「ランガスタラム」(2018)
作品概要
- 監督:スクマール
- 製作:Y・ナビーン、Y・ラビ・シャンカール、C・V・モーハン
- 脚本:スクマール
- 撮影:R・ラトナベール
- 美術:ラーマクリシュナ・サッバーニ、モーニカー・ニゴートレー
- 編集:ナビーン・ヌーリ
- 音楽:デービ・シュリー・プラサード
- 出演:ラーム・チャラン、サマンタ、プラカーシュ・ラージ、ジャガパティ・バーブ、アーディ・ピニシェッティ、アナスーヤ・バラドワージ 他
監督・脚本をスクマールが努め、主演には日本でも大ヒットを記録した「RRR」の主演ラーム・チャランが努めるインド映画。
ランガスタラムという村を舞台に、腐敗がはびこる現状を打破しようと決意した兄弟の闘いとその先に待つ苦悩、愛と悲しみに満ちたドラマを描き出します。
様々なところで賞に輝き、ラーム・チャランのキャリアを変える演技、俳優人生の新しいはじまりとも触れ込みがされています。
「RRR」の人気もあってか、数年前の作品ですが2023年になって日本でも劇場公開されました。
公開した際に渋谷にて鑑賞。感想を書きだすのが結構遅くなりました。
ちなみに今作タイトルの”ランガスタラム”というのは、テルグ語で”舞台”を意味する言葉だそうです。
~あらすじ~
1980年代半ば。
インドのアーンドラ・プラデーシュ州中部、ゴーダーヴァリ川に面したランガスタラム村。
難聴の労働者であるチッティ・バーブは、ラーマラクシュミへの恋心を抱きつつ、村を支配する金貸しプレジデントに苦しむ村人たちを助けるために、兄のクマール・バーブと共に政治舞台に立つ決意をします。
感想/レビュー
愛、家族、コミュニティ。
人々が困難に立ち向かう勇気を称賛する作品。
主人公のチッティたちは自分たちそれぞれ個人の幸福だけでなく、ランガスタラムというコミュニティ全体の幸福を追求し、変化をもたらすために奮闘しています。
今作は、その感動的なストーリーを通じて観客に希望と共感を提供し、人間の強さと絆の力を称賛する美しい映画だと思いました。
主人公チッティの可愛らしい子どもっぽさに、さすがやるときはやるカッコよさあるラーム・チャランも光っています。
各キャラクターも印象的な造形をされていて、そこもまた見どころですね。
美しい自然風景を活かした撮影
緑豊かな田園地帯、風光明媚な河川。
物語の背景となる村の生活や主人公たちの日常を美しく切り取っている撮影。素晴らしい。
インド映画のプラクティカルさ全開といったところでしょうか。
映画の大部分がセットで撮影され、小道具や大道具は地元の古道具店や廃屋から入手して、劇中で使用される品々は現地の家庭から提供されたらしいです。
豪華なセットを実際に組み、CGではなくて本当にそこにランガスタラムを創り出したからこそ生まれるリアル。
そのリアルゆえに人の生がみえ、だからこそ暴政に対する怒りも悔しさも本物になっていく。
このコミュニティが主人公でもあるために、今回の壮大なスケールのセットデザインは欠かせないものだったと言えます。
特に広大な風景や村のパノラマが見事に捉えられ、それだけでも映画館のスクリーンで見る価値ありですね。
実生活感ある衣装
衣装面に関しても、伝統的なものが多く使用されているようです。
スカートみたいな感じで腰巻っぽいルンギーとか、生地や刺しゅうなどが豪華絢爛なドレスもありますね。
でも、チッティたちの衣装に関しては、その馴染ませ方が巧い。
どれも使い古した感じとかがしっかりと現れていて、民家などのセットと同じく、そこでずっと生活しているんだというキャラクターたちの実在感を強めていると思います。
愛しいダンス、楽曲の数々
今作も多くのインド映画よろしく感情やストーリーを表現するために歌とダンスを使いますが、どれもすごく魅力的です。
ポップ調とかではなくて、個人的には伝統的な感じ、民族舞踊の印象を受けます。
耳に残るサウンドで、やはりキレがすごすぎて他では観たことのない動きを見せているラーム・チャランの魅力爆発。
ダンスに関してはランガスタラムの歌は引きのショットでその群衆を出したり、ステージ上ではまさに舞台のようにズームなどを使ったりと動きやスケール、心情に連動しているのも躍動的。
カーストの壁、舞台劇
映画の根幹にはこのランガスタラムというコミュニティの改革があります。
どうやらプレジデントはカーストの中でもある程度上位層にいるようで、それは彼が身に着けている装飾品からもわかります。
なので、今作にも根底としてはカースト制度に縛られるものがあるように思いました。
ただし、それだけではなくて、そもそもプレジデントによる会計資料がいい加減であったことを指摘するシーンなどを見るに、無学であるということすらも利用していることが分かります。
ラクシュミが6年生の勉強で分かると言っているように、本当に基礎的な算数の話で分かるようなものが、農民の中では謎のままにされている。
出稼ぎに行っている兄クマールの指摘待ってそれらが明らかになりますが、やはり上流層は教育というモノを支配するのですね。
知識はコントロールしてしまえば、自分にとって都合の良い頭を持った奴隷が生み出されますから。
チッティとクマール兄弟はその壁を乗り越えて、舞台で大きな逆転を目指す。
ただし、舞台袖含めた場所での陰謀が繰り広げられており、哀しい結末を迎えることになってしまいます。
登れないならば引きずりおろす
舞台、というものは印象的。
あの重要人物が、黒幕が出てきているのも実は演説をする舞台上。
クマールは舞台に上ることを考えましたが、上手がいます。チッティはどうしても登れない。
そして彼は、それならば引きずりおろすことを考えるわけですね。
そこに真の意味での改革はないとしても、この決まった階級制度の中で彼ができる最大の努力であり、兄への弔いなのです。
時間構造をいじることは、観客への衝撃も強めてはいますがすこしややこしすぎたかも?
ただ魂のこもった作品ですね。
架空のランガスタラム、しかし作りこまれたセットや衣装、俳優陣の演技によりそこには本当の舞台ができています。
これは単なる映画ではなくて、インドの叫びなのかもしれません。
今回の感想はここまで。最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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