「RRR」(2022)
作品概要
- 監督:S・S・ラージャマウリ
- 脚本:ヴィジャエーンドラ・プラサード、S・S・ラージャマウリ
- 製作:D・V・V・ダナーヤ
- 音楽:M・M・キーラヴァーニ
- 撮影:K・K・センティル・クマール
- 編集:A・スリーカル・プラサード
- 出演:ラーム・チャラン、N・T・R・ラオ.Jr、アーリヤー・バット、レイ・スティーヴンソン、オリヴィア・モリス、アリソン・ドゥーディ 他
インドのテルグ語映画界の巨匠で「バーフバリ」シリーズで有名なS・S・ラージャマウリ監督が、実在の二人のインド解放活動の戦士をベースに、もしも二人が出会い友情を育んだら?という着想で描き出すスペクタクルアクション。
主演はラージャマウリ監督の「マガディーラ 勇者転生」(2009)でも主演を務めたラーム・チャラン。
そして歌手としても活躍しているN・T・R・ラオ.Jr。それぞれが運命的に出会う二人の男を演じています。
その他「ガリーボーイ」で彼女役だったアーリヤー・バット、また「マイティ・ソー」シリーズではソーの友人ヴォルスタッグを演じていたレイ・スティーヴンソンも出演しています。
作品タイトルですが、一応Rise(決起)Roar(雄たけび)Revolt(反乱)の3文字となっていますが、もともとは監督と主演二人のそれぞれの名前をとってRRRというプロジェクト名だったそうです。
もともと知っていたわけではなく、映画館の予告で興味がわいた作品。実はあまりインド映画界隈に詳しいわけでもない自分としては、アクション大作で気軽に見れそうだといった印象しかありませんでした。
そんなうっすらした状態で公開週末に劇場へ。IMAXもやっていたのですが時間が合わず、今回は通常字幕版鑑賞。
〜あらすじ〜
1920年のインド。
大英帝国の支配と圧政の中、現地に駐留するスコット少佐によりある村の少女が連れ去られてしまう。
インドの事務官はこれに対しある忠告をした。
その娘の一族は森で静かに暮らし、英国への反抗もしないが、一族には仲間を助ける”羊飼い”ビームがいる。
その男は仲間を助けるためならどんなことでもすると。
一方でイギリス警察の一員であるラームはその圧倒的な忠誠心と鋼のような意志で、暴徒と化した群衆に単騎で乗り込み、王国に反抗した男を引きずってくるような強者だった。
ビームを探し出し倒せるのはこのラームしかいないと考えた英国。ラーマは早速ビームを探し、ビームは少女奪還のためにデリーまでやってきた。
ある事件から二人は互いの使命を知らずに親友となっていく。こうして二人の男の運命が動き出した。
感想/レビュー
S・S・ラージャマウリ監督のアクション映画。
「バーフバリ」シリーズで名高い彼ですが、実は私は「マッキー」しか監督の作品は見たことがありませんでした。
今回はインドの映画業界を牽引し名高いラージャマウリ監督のその熱量を堪能することになりました。
ずっと楽しい
映画を映画館で観ているとき、上映時間も余計な映画外のことも浮かばず、ただただ観ていてずっと楽しいと思うことがあります。
観たことのないものを観るという、不思議との接触。
圧倒的な熱がこもった芸術の炎に照らされ、感情の渦に飲まれる。
映像が眼を、サウンドが耳を、物語が心を奪っていく。
楽しくて仕方がない至福の体験、それがこの「RRR」にはありました。もうそれだけで感想は終わってもいいくらいです。
圧倒されました。そして幸せでした。
上映時間3時間ほどの映画ではありますが、決して疲れることもなく満足できます。
触れやすい昔話
今作は一応時代劇です。1920年代の大英帝国の支配下にあるインド。
その時代劇はシンプルで親しみやすい物語に支えられています。
屈強な二人の男。それぞれが善人で親友になりつつも、手段の違いで戦うことになる。
英雄に対し、とてもわかり易く英国という悪役が用意されていますし、観客に対しての騙し討ちや謎掛けなどもしない脚本。
おとぎ話のような神話のような。
とにかく入り込みやすいんですよね。
ラーマはクールなキャラ、知的で複雑な男。一方のビームは素朴ながらパワータイプ、可愛らしい面も持つ。
ある意味読んだことある話、ありがち王道と言われるでしょう。
ですが、ラージャマウリ監督の見せ方を持ってすれば、絶対に退屈することはないでしょうし、この二人の男の物語はまさに”観たことのないもの”になるでしょう。
絶妙なリアリティライン
それはビジュアルの作り込み、そして神話と歴史の突飛さを、非常にうまく現実とバランスをとったリアリティラインの引き方。
それぞれのイントロになるOP。ラーマの大衆ヘの単騎突撃、ビームの虎との力比べ。
いずれもそれは現実的ではないでしょう。
ただキャラクターという面に振った演出は、行き過ぎることなく。
だから興味が薄れてしまうこともない。何でもできてしまう超人にせず、殴られれば傷つき、血を流し、拷問を受ければ歩けなくもなる。
毒だって効きます。肝心なところでは互いに助けがいる。
だから応援できるのです。
主演二人のハマり具合が最高
そんな二人を演じたのがラーム・チャランとN・T・R・ラオ.Jr。
まず二人ともまさに神々の如き肉体で湧かせてくれますが、それぞれハマり役ですね。
ラーム・チャラン、N・T・R・ラオ.Jrそれぞれがテルグ語映画=Tollywoodで大活躍の俳優ですが、少年漫画の主人公に必要な全要素をそれぞれ持って使い分ける上に身体的なアクションまで素晴らしい。
個人的にはやはり”兄貴”ことラームのかっこよさに酔いしれました。
大義のためのまっすぐなロボットのようなかっこよさに、恋のキューピットとしてのコミカルな優しさ。クライマックスの登場からアクションまでスクリーンにインドの神が下りたような存在感。
N・T・R・ラオ.Jrも同じく身体性もすごいですが、キュートさが売りですね。
二人とも違うタイプですが、英雄としての出で立ちがマンガの主人公のようでした。
話題になっているダンス、ナートゥ。
俳優たちのキレのいい動きと音楽に魅了されます。
今作で最初に泣いてしまったのがこのナートゥのシーンでした。
兄貴の粋な計らいも良いですが、自分でも知らないうちに涙がでて止まりませんでした。
おそらく高揚感と喜びにやられたのかと。
高ぶる感情、それを身体というものを使って表現する。ダンスとは不思議なものです。
背景が異なれど兄弟が息を合わせ踊り、高鳴る音楽とともに感情の渦があの会場に巻き起こると、それはスクリーンを見つめる観客にも力強く響き渡る。
人種差別を超え、そこに暴力でないバトルを展開し、だからこそみんな平等な瞬間を共有する。
さあどうだ。これがインドの刺激強めの踊りだ!
アクションが語るため停滞しない物語
歌曲と舞踏シーンでもストーリーがしっかりと展開しているというのも素晴らしい。
それが特に顕著であり、個人的今作のハイライトは序盤のラーマとビームの初の邂逅。
橋での少年の救助シーン。
互いに言葉もなく人助けに奔走するだけで、救助シーン好きにはたまりませんが、ストーリーの示唆を含んだ語りがあり秀逸です。
ラーマは馬に跨り、インドの国旗を手にします。
これはもちろん、ビームを炎から守るためですが、彼が国家のため、大義のために戦っていることを示します。
逆にビームは橋からジャンプして少年を掴む。設定上ビームは同じ部族の少女のために行動しています。
ここで何を手に掴むのかが、それぞれの背景を語っている。
しかし橋の下で互いがそれらを入れ替えます。
ビームは旗を受け取りラーマは子どもをキャッチ。
物語はこの二人が交わり、互いに学ぶところにあります。
ビームはラーマから大義を学び、そしてラーマはビームから大義のために犠牲にばる個人を知っていく。
熱いアクションの中でここまで語ってしまう手腕には感服でした。
基本的には言葉によらず、アクションや目線などで友情が発展していく。
街を歩く際に向いている方向、間に置かれている有刺鉄線のバリケード。画面構成から二人の使命、根底にある分断が見れる。
魔よけの輪をビームがラーマにかけてあげるシーン。
友のために自己犠牲するというアクションでありながら、同時にその友情に感銘を受けつつも、それをみて目の前の男こそ探していた倒すべき相手と悟る衝撃。
1つのアクションに2つの意味。映画的でたまりません。
プラクティカルさ炸裂
動物大集合の屋敷襲撃、炎と水のぶつかり合い。
肩車など前半のアクションが後半にも呼応する。
サウンドとしても、パーティでラーマがビームを鼓舞するのがドラムを叩く音。
そして毒蛇に噛まれ助けを求めるときにも叩く音。
さらに脱獄の際には互いに叩く音で探し出す。
同じような叩く音というサウンドも繰り返され意味や二人の関係性を語るのです。
ビジュアルは現実的に無理な部分こそCGですが、その他のほとんどを実際に俳優がアクションし、水をかけ炎を巻き上げ、爆破する。
人がたくさんいるシーンでは、ほんとにちゃんと人がたくさん集められていたりと、スペクタクルさは正直ハリウッドの張りぼて系映画では到底及ばないレベルです。
そのプラクティカルなこだわりが素晴らしく、だからこそ熱狂できる。
とことんビジュアルとサウンドで魅せてくれる珠玉の映画体験です。
実際の歴史ではこの二人の自由のための闘士たちは出会っていないのですが、しかしフィクションがここまでも熱い物語をくれるならそんなことに文句は言いません。
とにかく大きなスクリーンで、この最高の映画体験をみてほしい。そんな超傑作でした。
今回の感想はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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