「ファルコン・レイク」(2022)
作品概要
- 監督:シャルロット・ルボン
- 原作:バスティアン・ビベス
- 脚本:シャルロット・ルボン、フランソワ・ショケ
- 撮影:クリストフ・ブランドル
- 編集:ジュリー・レナ
- 音楽:シダ・シャハビ
- 出演:ジョゼフ・アンジェル、サラ・モンプチ、モニア・ショクリ、アルトゥール・イグアル 他
「イヴ・サンローラン」や「ザ・ウォーク」などの俳優シャルロット・ルボンが、初の長編映画監督デビューを果たす作品。
少年が訪れた避暑地で、少し年上の少女にひと夏の恋をする物語。バスティアン・ヴィヴェスによる「Une sœur」を原作としています。
主演は「パリの恋人たち」などのジョゼフ・アンジェル、またサラ・モンプチが主人公が思いを寄せることになる年上の少女クロエを演じます。
作品はカンヌ国際映画祭で監督週間に出品されています。
大きなタイトルではないものの、予告から見える撮影の美しさ、また夏の終わりに観るにはうってつけな感じがしたので楽しみにしていました。
公開週末に観てきましたが結構人が入っていました。
〜あらすじ〜
もうすぐ14歳になるバスティアンは家族で夏休みに避暑地である湖畔を訪れる。
森の中の家では両親の友人の娘クロエも一緒に過ごすことになった。
16歳で少し大人びたクロエに、バスティアンは淡い恋心を抱き始める。
二人で湖に遊びに行ったり、クロエの友人たちの輪に入ってみたり。
自分を子ども扱いするような、しかし異性として意識させるような行動にバスティアンは戸惑う。
そんなクロエはバスティアンに湖の噂を話す。
事故で人が亡くなり、その幽霊が湖に住み着いているのだと。
感想/レビュー
意外な展開とかテイストを持っていて、きっと驚かされる作品だと思います。
青春映画であることは間違いないのですが、ホラー映画といった側面すらのぞかせている。
でも決してどっちつかずでもないんです。
むしろこの作品に漂ってる死や不安こそが、映画を完全な青春映画にしていると言って良いかもしれません。
穏やかさに含まれる不安と恐怖
今作は湖畔のシーンから始まります。
美しい夕日と鏡のように照らされる水面。薄っすらとたっている波紋の中心にはうつ伏せに人が浮かんでいる。
美しさあふれる情景から、カメラのパンで不穏な死を感じさせる。
その後のコテージの映し方も、のどかというよりはホラー映画でティーンたちが殺人鬼に出会う舞台のようです。
雷鳴と共にシルエットが現れる演出とか、バスティアンとクロエの関係性は単純なひと夏の恋って感じはしませんね。
全編にわたり漂っているのは、底知れぬ不安や怖さになっています。
ストーリー自体、また切り取っている撮影の味わいは優しげなのに、この恐ろしさが内包されているテイストは、今年の前半に観たシャーロット・ウェルズ監督の「aftersun/アフターサン」と似通っていると感じました。
細かいところだと、部屋のポスターには「吸血鬼ノスフェラトゥ」や「サイコ」、「千と千尋の神隠し」のカオナシがあったり。
心霊とかファンタジックなものがちりばめられていました。
16mmフィルムの味わい
不安が漂ってくる今作は16mmでの撮影。
正方形に近いアス比で、エッジがたたないザラツキもある画になっています。
記録映像、つまりは過去の記憶をめぐっているような感覚に包まれるため、ノスタルジーを感じます。
また感情的な鮮明さ、鮮烈さは強められていると思いますね。
全体の色調もパステルまではいかないものの、彩度はすこし抑えたトーンで統一もされています。
子どもと大人のはざまで揺れ動く
大人の入り口に関して、性を意識し始める。
挑戦したいけれど、年上の中に入るときには怖くて。でも置いていかれてしまうことには面倒なくらいに敏感で。
あえて好みのタイプを別で伝えて強がったり、背伸びしたせいで大切な人を傷つけてしまったり。
バスティアンの大人の世界を向いた可愛さ。
対してクロエは大人の世界に入っていつつ、後ずさりしているのです。できれば子どものままでいたいようにすら感じます。
セックスをめぐる話を中心にすると、よりクロエの繊細さが分かりますね。
この夏のほんの一瞬の、それでも人生では本当に鮮烈な記憶の時間。
初恋には痛みを伴うこともありますが、それをどうしたって忘れられない形に昇華して見せた、初長編監督としてすさまじいシャルロット・ルボンに今後も目が離せません。
心を掴まれて、映画が終わってもなんだか終わっていないというか。
このバスティアンとクロエの夏が今のような、今であると思うように強烈に自分の想い出になるような、素晴らしい体験です。
ぜひ劇場で。
今回の感想はここまでです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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