「ソルトバーン Saltburn」(2023)
作品概要
- 監督:エメラルド・フェネル
- 製作:エメラルド・フェネル、ジョージー・マクナマラ、マーゴット・ロビー
- 製作総指揮:トム・アカーリー、ティム・ウェルスプリング
- 脚本:エメラルド・フェネル
- 撮影:リヌス・サンドグレン
- 美術:スージー・デイビス
- 衣装:ソフィー・カナーレ
- 編集:ビクトリア・ボイデル
- 音楽:アンソニー・ウィリス
- 出演:バリー・コーガン、ジェイコブ・エロルディ、ロザムンド・パイク、リチャード・E・グラント、アリソン・オリバー、アーチー・マデク、キャリー・マリガン 他
監督デビュー作「プロミシング・ヤング・ウーマン」でアカデミー賞の脚本賞を受賞し、注目を浴びたエメラルド・フェネル監督第2作が登場。
特権階級に纏わる欲望に満ちた世界を美しくも残酷に描き出します。
主演は「イニシェリン島の精霊」でアカデミー助演男優賞にノミネートされたバリー・コーガン。
また「キスからはじまる物語」のジェイコブ・エロルディが主人公を豪邸に誘うフェリックス役で登場。
また、「パーフェクト・ケア」のロザムンド・パイクがフェリックスの母親を演じ、実力派俳優陣が共演。
製作には「バービー」のマーゴット・ロビーも名を連ねていますが、フェネル監督新作ながら劇場公開がスルーされてしまい、日本ではAmazon Prime Videoで2023年12月22日から配信されました。
フェネル監督の新作なんで楽しみにしていたのですが、全然公開されないので不思議に思っていたら、配信だったのですね。
年末年始の休みに鑑賞しました。
「saltburn」のAmazonプライムビデオ配信ページはこちら
〜あらすじ〜
オックスフォード大学の学生であるオリバーは秀才であったが、学内で自分の居場所を見つけることに苦労していた。
彼と違い周囲の人間たちは皆、”どこかのだれか”であり、住む世界の違う人種で、教師すら扱いを変えている。
そんな彼の前に、裕福で貴族のような生活を送る学生フェリックスが現れる。周囲の気取った人間とは異なり、分け隔てなく接する彼にオリバーは陶酔する。
彼はフェリックスの一家が所有する広大な土地であるソルトバーンに招待され、そこで忘れられない夏を過ごすことになる。
感想/レビュー
初監督作品の「プロミシング・ヤング・ウーマン」が強烈過ぎて、監督2作品目のハードルが高いと思いますが、前作の衝撃には及ばずとも、また引き続き注目の監督である点は証明された作品だと思います。
前作は復讐劇でしたが今作もまあそうなのかもしれません。
ただ対象は醜悪な集団ではあるものの、社会正義的な意味での復讐ではなくてともすれば主人公もまたヴィランではあります。
持たざるものの下剋上なのか、または悪しき訪問者に家を侵略されるホラー映画か。
逆転する構造や舞台はけっこう楽しいものでした。
モノローグから、回想ベースで始まっていく作品で、カメラがとらえるのは浮きまくりの学生オリバー。
名門であるオックスフォードに入学した新入生は、かっちりブレザーにネクタイも締めて大学のキャンパスを歩きますが、テキトーなカッコしたバカそうな大学生連中に笑われてしまう。
ほとんど自分の力などなく、ただ出自のために優位に立っているアホに嘲笑され孤独を味わうオリバーを、ここではバリー・コーガンが見事に演じています。
彼はこれまでにも「ダンケルク」、「イニシェリン島の精霊」などで全く異なる人物を演じ分けてきた俳優です。
高い評価を得るのも納得な、主人公として今作でも映画を引っ張ります。
さらに今回彼の演技が光るのは、作品の中での変容が行われているからです。
映画ごとにもカメレオン役者っぷりを見せてくれるバリー・コーガンですが、作品の中でもその力を披露します。
オリバーが出会うのはいけすかない問題を抱えたものたち。
オックスフォードという名門の中で、遊んでばかりな自由人たちに囲まれつつ、彼らの醜悪さを目の当たりにする。
しかもそんな社会構造のトップの環境には、権力を持つ者を優遇して遅刻や勉強不足を容認する教授がいる。
オリバーが課題図書全てを読みつくしいかに知識を持っていても、持たざる者であるという理由で彼は正当に評価されないのです。
悪夢的なモンタージュで不正がはびこる社会構造を見せつけていった先に、フェリックスがいます。
ジェイコブ・エロルディが演じるこの青年はまるで聖人。
ただ出自が貧しいからと冷遇はしないし、陰口も言わない。
腐ったごみだまりに一つ存在する清く滑らかな布のように、軽やかで見とれてしまう。(実際彼は何ともふざけた格好で裸足で歩き回っています)
オリバーをバーで助けるときの恩着せがましくない物言いから、普段から彼はああやって困っている子がいれば面倒を見ていると思えます。(そらモテるわ)
そのフェリックスというたった一つの純粋さに、羨望と愛と憎悪を抱えていくという非常に歪んだロマンスが展開されます。
対比的にですが、ゲスト出演的なキャリー・マリガン演じるパメラ含めて皆がゴシップも好きで批判ばかり、甘い汁だけを吸ってだらしがない存在として描かれます。
その点で観ると、フェリックスの周囲にいる人間たちはみな立場としてはオリバーと似ています。
輝きにたかるハエみたいなものですから。
オリバーには同性愛的な描写も見えつつ、歪んだ愛情はただの性愛ではないとも思えます。
彼にとってのフェリックスはまさに失望した上流階級への憧れの中、唯一残った清らかさなのでしょう。
自分もその階級に登っていきたいが、他の人物のようにはなりたくない。
フェリックス=憧れた上流階級として、同一化していきたいという想いが性的な要素を生んでいるのだと感じます。
ソルトバーンをものにしていきたいオリバーは、バリー・コーガンが「聖なる鹿殺し」で見せたような侵略者っぷりを見せていく。
家に入った時、ほめながらも武装解除させてくる母親が決めているルールに、ピアスの件があったりしましたが、あとで眉あたりにピアスしたり反逆が見えてくる。
文字通り天使であったフェリックスを殺したオリバー。
彼が序盤、初めてソルトバーンの豪邸を案内したロングカットが、逆転しています。
玄関から奥へと進んでいった長回しの反転として、最後はオリバーが、奥の部屋から玄関へ向かって家の中を進んでいくショットで締めくくられます。
おかしな構造を持ち、醜悪で弱者を踏みにじっている社会構造、一見すると綺麗にも見えるその本性を暴き出す点では、フェネル監督の前作「プロミシング・ヤング・ウーマン」とテーマは同じなのかもしれません。
しかし今作ではあの毒とぶん殴られる衝撃の代わりに、素晴らしいバリー・コーガンと彼が体現して見せた憎しみと愛情の混じったロマンスが込められていました。
確かに前作の方が好きですし、驚きに満ちてはいましたが、今作もまた楽しめましたしやはりこれからもフェネル監督を追っていきたいと感じさせる力のある映画でした。
今回の感想はここまで。
ではまた。
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