「パーフェクト・ケア」”I Care A Lot”(2020)

「パーフェクト・ケア」(2020)

  • 監督:J・ブレイクソン
  • 脚本:J・ブレイクソン
  • 製作:J・ブレイクソン、テディ・シュワルツマン、ベン・スティルマン、マイケル・ハイムラー
  • 製作総指揮:サーシャ・グッテンスタイン、アンドレア・アジェミアン
  • 音楽:マーク・カンハム
  • 撮影:ダグ・エメット
  • 編集:マーク・エカーズリー
  • 出演:ロザムンド・パイク、エイザ・ゴンザレス、ピーター・ディンクレイジ、ダイアン・ウィースト、クリス・メッシーナ 他

作品概要

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「アリス・クリードの失踪」などのJ・ブレイクソン監督が、高齢者の後見人となりその財産を搾取する悪徳業者を主人公に、彼女たちがロシアン・マフィアに狙われる様を描くブラックユーモアの効いたスリラー映画。

主演は「ゴーン・ガール」や「アウトロー」などのロザムンド・パイク。彼女のパートナー役には「ベイビー・ドライバー」「ワイルド・スピード:スーパーコンボ」などのエイザ・ゴンザレス。

また、主人公たちと一戦交えることになるロシアンマフィアのボスを、「アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー」などのピーター・ディンクレイジが演じます。

その他「運び屋」などにも出ていた名優ダイアン・ウィーストが主人公たちに狙われる高齢女性役、マフィアの手先の弁護士の男をクリス・メッシーナが演じています。

ロザムンド・パイクはとにかく「ゴーン・ガール」のエイミー役がいまだに強烈ですが、今作のマーラ・グレイソンも熱演し、ゴールデングローブ賞の主演女優賞 (ミュージカル・コメディ部門)を獲得しました。

もともと海外批評に載っていたので2020年に知った作品でしたが、その後はあまり日本公開のことを調べていませんでした。

実際配給は複雑というか、国ごとにNETFLIXが買っていたり、Amazonが買っていたり。日本ではAmazonプライムもありますが、その他にもU-NEXTなどいろいろなところで見れるようです。

わたしはいまだにできれば劇場という派閥なので、今回は都内に行ってきました。有楽町の小さいところでしかも平日夜。さすがにお客さんはそこまで多くはなかったです。

「パーフェクト・ケア」の公式サイトはこちら

~あらすじ~

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法的後見人として多くの高齢者を守るマーラ。

しかし実際には自立不能と診断した高齢者を施設へ入居させ、後見人になることでその財産管理権を掌握し、搾取し続けるというのが彼女の事業だったのだ。

ある時マーラに金の卵が舞い込む。

独り身で見よりもないが裕福な老人ジェニファー・ピーターソン。彼女を早速自活不能と診断させ、あっという間に法的後見人となったマーラ。

ジェニファーを施設に送り込むと次々に家財を売りとばし儲けていくが、銀行の貸金庫にはさらに、登録されていない大量のダイヤモンドがあった。

巨額の搾取先を見つけて喜んでいるマーラだったが、その影ではジェニファーを探し出して施設から出そうとする存在がいた。

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待ち望んでいた映画の誕生

非常にブラックなユーモアに包まれていて、冷徹で凶悪、スタイリッシュで醜悪。

ただ、私はこの作品をずっと待っていました。

こんな作品が存在できるようになることを願っていたということです。

おそらく一部の方にとっては最低最悪の映画です。

ここには一切善人は出てきませんし、利己的で卑劣な主人公と対抗して暴力的で非人間的な悪がいるだけです。

そしてほぼ正義もなされません。

海外でもかなり腹が立つという意見も多いほどに、悪人がのさばり続けるだけ。

何か美学があるとか、悲しい背景があって同情できるとかの余地すらない。

しかしだからこそ私は今作を傑作として愛します。

それは単にこの作品がその胸糞映画の系譜だからではありません。

この作品の主人公が女性だからです。シンプルに言いすぎですが。

例えばこういうクズが主人公の映画で、かつ特に罰も受けない作品自体は結構あるんですよね。

マーティン・スコセッシ監督の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」にダン・ギルロイ監督の「ナイトクローラー」。どこまでも冷酷で下劣な奴らは映画史に結構あります。

ただこれまでその中心は男性でした。ある意味、男性にはそういった物語が、役が許されていた。

逆に、女性にはそうした役が与えられることがほとんどなかったのです。

女性のド畜生主人公

そこにきて今作のマーラを見てくださいよ。気持ちいいほどの畜生です。

彼女には恥もなく、良心もなくそして恐れすらない。強烈なキャラクターをロザムンド・パイクが本当に見事に演じています。

彼女はスタイリッシュで、ルックには卑しさがない。美しく丁寧で力強いですが、ロザムンドの凄さはその笑顔。

ちゃんと笑っているしトーンもいじらない。でも怖いんですよねあの微笑み。

その冷徹な微笑みに魅了され、どこまでもずる賢く、事を都合のいいように進めていく様は確かに嫌悪感を抱くのかもしれませんが、単純に私には痛快でした。

「死ぬのは怖くない。死んだことないから分からないし。分からないものをどうやって怖がればいいの?」

徹頭徹尾強いこのマーラに完全にノックアウト。ロザムンド・パイク姉さんに一生ついていきます!

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型を打ち砕く

その他にもこの作品はユーモアに触れつつも全体にミスリード。いや、この型破りな主人公よろしくステレオタイプとかこれまでありきたりな型を破壊しています。

例えば(同性カップルがすごくナチュラルで最高なんですが)マーラとフランの関係。

そしてフランの造形には感心しました。

もちろんロザムンド・パイク相手だとあのエイザ・ゴンザレスが少女のようにかわいらしいというギャップもありますが、そもそもエイザ・ゴンザレスにこういった役が来ているのもまた新しい。

彼女自身インタビューでも語っていますが、これまではラテン系でセクシーな役ばかりだったのが、今作ではヴァンズを履き、パンツで化粧も薄め。

そして脆さとか弱さ、誰かを心配し愛する姿を見せています。

彼女にとっての幅を見せる機会であり、ここでもよくある型の崩壊をみせています。

そもそもおとなしい老女と思っていたダイアン・ウィースト演じるジェニファーも、実はめちゃくちゃ恐ろしい相手だったという。老人舐めるな映画。

それまでは本当にかわいそうだなと思いながらも、正体が分かり始めたときの変貌ぶりが最高です。

またロシアン・マフィアといういつもならジョン・ウィックに殺されていそうな高身長でいかついイメージも、ここではピーター・ディンクレイジの起用。

ウォッカじゃなくてスムージー、遊ばずなまけずオフィスで体操エクササイズ。各キャラの造形を眺めているだけでも、自由ですごくよかった。

アメリカ社会を利用したフェミニズム

悪徳後見人側は女性主軸であり、どことなくそれはまたフェミニズムを感じさせるものでもあります。

最序盤にマーラは言います。「ペニスがあるから怖いと思ってるの?逆。ペニスも玉も丸ごと切り落としてやる。」

これまで好き放題にやれた男性のキャラクターに対して、ここで誕生したド畜生女性主人公は高らかに宣言しているのです。

今まではどこかでおしとやかさだとか、優しさだとか、女性はこうあるべきだなんて考え方が枷になっていたが、もう違うと。

ただそこで、J・ブレイクソン監督はなかなかにおもしろい線引きをすることで、大きな背景テーマにある現代アメリカとそこでの勝ち方に絡めています。

マーラがいうルール。

実はマーラは犯罪者ではない・・・というか厳密には法制度にのっとって悪いことをしているので悪いけど違法ではないというか。なかなかおもしろい立場をとっています。

マーラのすべての行動はアメリカが許しているわけですね。

彼女は銃を使わずテーザー、殴ったりせずスタンガン。ある意味では自己防衛として認められているようなものだけを使用します。

この男性が平気で越えてくる違法、暴力というものをすごく危うく薄いラインで綱渡りしていくのです。

私はこの辺りが、ただ単純に女性を主人公に添えた畜生映画に留まらなかった部分だと思います。

この絶妙なラインはなんでもありというのを制限し、次の展開のおもしろさを強めてくれましたので。

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I Don’t Lose, I Won’t Lose

どれだけ打ちのめされても、マーラに負けはない。

彼女はシステムを利用して勝ち続けてきたから。バレなきゃ犯罪じゃないというのも実はルールなので、それも使いながら合法的に敵をせん滅する。

マーラと一緒にするドライブはスリル満点で最高です。

マーラはとことん赤に染まっていく。

はじめの裁判所では真っ赤なドレスを着込み、インナーが赤だったり、別の服を着ていても結局は赤い服を着ることになります。

顔に当たるライトも赤い。彼女の攻撃性や危険を示す赤にやはり飲み込まれていくマーラ。

最後の最後でも着ているその白いスーツが赤く染まっていく。

この話の帰結はややカルマ的ですが、自分はナイトクローラーのルー・ブルームのように終わってほしくも思います。

それこそ現実の世界には、法的後見人制度や巨大な介護施設産業を駆使しはびこる者がいると思いますから。

やはりロザムンド・パイクは稀有な俳優で、その素晴らしい才能をフルに活かして、新時代を見せてくれました。

こうあるべきとか根底に置かれた良識も常識も投げ捨てたド畜生主人公を愛さずにいられません。

非常に危険で、現代アメリカの捕食構図がシステムとして見える作品。

ライティングとかカラーリングの素敵な衣装に撮影、ちょっと「ソーシャルネットワーク」っぽい感じのあるマーク・カンハムのスコアとか、いろいろと語りたい点もありますが、とにかく見てほしい一本です。

私としては本当に待ち望んだ、作品、主人公像だったので大満足です。

限定公開のために劇場で見れる機会は非常に少ないですが、配信の方ではチャンスだと思うので是非。

今回の感想はこのくらいになります。

最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。

それではまた。

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