「ブロー・ザ・マン・ダウン -女たちの協定-」(2019)
- 監督:ダニエル・クルーディ、ブリジット・サヴェージ・コール
- 脚本:ダニエル・クルーディ、ブリジット・サヴェージ・コール
- 製作:ティム・へディントン、ドリュー・ハウプト、アレックス・シャーフマン、リア・ブーマン
- 製作総指揮:アルバート・バーガー、ルーカス・ホアキン、ロン・イェルザ
- 音楽:ジョーダン・ダイクストラ、ブライアン・マコンバー
- 撮影:トッド・バンハズール
- 編集:マーク・ビベス
- 出演:モーガン・セイラー、ソフィー・ロウ、マーゴ・マーティンデイル、ゲイル・ランキン、アネット・オトゥール 他
アメリカの田舎町の漁村で姉妹が起こす殺人事件とその隠蔽、そしてそこから見えてくる町の暗部をコメディチックにも描いたブラックなクライム映画。
監督はダニエル・クルーディとブリジット・サヴェージ・コールの二人。
それぞれ短編やTVシリーズの監督経験はありますが長編映画は今作が初。どちらもカメラや編集の経験もある方で、今回は作品の脚本も二人で執筆しています。
姉妹役ではソフィー・ロウ、モーガン・セイラーが出演。その他マーゴ・マーティンデイル、アネット・オトゥール、ゲイル・ランキンも出演しています。
今作は日本では劇場公開はされずアマゾンプライムビデオでの配信となっています。
アメリカ北部のメイン州、イースター・コーヴという田舎町。
そこに暮らすプリシラとメアリー・ベス姉妹は最近母を亡くし、二人だけが残された小さな魚店を切り盛りすることになる。
姉はこの町に人生を置き落ち着く気でいるが、妹のメアリー・ベスはもともと母の看病のために大学を休んでおり、田舎町で人生を腐らせる気はなかった。
葬儀の後、憂さ晴らしにメアリー・ベスは酒場へ行き、そこでよそ者の男と出会うのだが、男の見てはいけない荷物を見てしまう。
襲ってきた男をメアリー・ベスは刺し殺してしまい、プリシラを巻き込んで隠蔽工作を図るのだが、事態は姉妹の予期せぬ方向へと転がっていく。
ダニエル・クルーディ、ブリジット・サヴェージ・コール二人の監督が初めて送り出す作品。
独特な空気、スリラーであり犯罪映画でありながら、どこか笑ってしまうそれは、コーエン兄弟が持っている味わいに似ていると思います。
同じく田舎町ですと「ファーゴ」のような雰囲気です。
ある田舎町で殺人と隠蔽から始まる物語は、そのバレるバレないのスリリングさを持っています。
しかし同時に、町の暗部に潜っていき、ついにはフェミニズム的な女性たちが動かす社会形成を露にします。
グロもあり卑劣な闇もありながら楽しいのですが、最後の印象は新しい形の女性映画だと私は感じます。
独特な空気を醸し出しているのは、キャストのよさもあります。
主人公となる姉妹のルックは必要な素朴さ、無知さがありますし、売春宿の女将マーゴ・マーティンデイル、おばあさん連中まで田舎らしくも一物抱えている感じが良いですね。
お姉さんのソフィー・ロウは純真な見た目で、漁師のイメージセーターを着た姿が良い意味で田舎臭いです。
妹を演じているモーガン・セイラーは映画が進むほどにその子どもじみた反応を増していきます。
ふたりの関係性は、作品のはじまりの時点から姉妹の役割とそれぞれの抑圧・不満を感じることができ、その衝突から仲直りまで自然です。
もちろん作品は姉妹を主軸としていますが、見事な脚本は彼ら以外の人物を巧みに紹介し、しかし散らばることのないジャグリングを見せています。
ゲイル・ランキンのアウトサイダーを含めて、姉妹が殺人隠蔽から踏み込んでいく町の暗部。
ただそれは、私にとって単純な悪ではありませんでした。
この漁村の過去、女性たちのサバイバル。
生き抜くためにしてきたこと、選択の余地がなかったことを考えるに、エニッド含めて批判できない。
挿入される漁師たちの歌はそこで示唆的な意味合いをはらみますが、男性が介在するのはそれくらいであり、夫や父はほとんど描かれない。
女性たちの怒りと連帯こそ主題なのです。
ジョーダン・ダイクストラ、ブライアン・マコンバーが織り成す独特な音楽が、田舎の雰囲気に加える独自の社会や歪み。トッド・バンハズールの捉える荒涼とする景色や夜。
サヴェッジ・コール&クルーディ監督コンビは、姉妹の殺人隠蔽のスリルから主軸をずらさないバランスで町全体へと話を広げ、それらをブラックユーモアに包みながら、女性たちの社会と彼女たちの怒りを見事に描きました。
演者の力の部分もありますが、素敵な脚本と確かな演出が独特の空気を楽しませてくれる作品でした。
今回の感想は以上となります。配信限定になってしまう作品でも、こうして新鋭注目監督の作品も観れるのは良いものですね。
それではこの辺で。ではまた。
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