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「はじまりへの旅」”Captain Fantastic”(2016)

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映画レビュー
CF_00476_R (l to r) Viggo Mortensen stars as Ben and Annalise Basso as Vespyr in CAPTAIN FANTASTIC, a Bleecker Street release. Credit: Wilson Webb / Bleecker Street
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「はじまりへの旅」(2016)

  • 監督:マット・ロス
  • 脚本:マット・ロス
  • 制作:モニカ・レヴィンソン、ジェイミー・パトリコフ、シヴァニ・ラワット、レネット・ホーウェル・テイラー
  • 制作総指揮:デクラン・ボールドドウィン、ニミット・マンカッド
  • 音楽:アレックス・サマーズ
  • 撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
  • 編集:ジョセフ・クリングス
  • プロダクションデザイン:ラッセル・バーンズ
  • 美術:エリック・ドナルドソン
  • 衣装:コートニー・ホフマン
  • 出演:ヴィゴ・モーテンセン、ジョージ・マッケイ、サマンサ・イスラー、アナリス・バッソ、ニコラス・ハミルトン、シュリー・クルックス、チャーリー・ショットウェル 他

マット・ロス監督作。彼は俳優として有名ですね。「アメリカン・サイコ」(2000)とかね。

そんなロス監督は、本作で第69回カンヌ国際映画祭のある視点部門を受賞しました。主演には「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで有名なヴィゴ・モーテンセン。彼は今作で一家の父として良い演技をしていますよ。

小規模な映画ではあるんですが、評判からかなかなか人は入っていまして。笑いも絶えず、最後には拍手も起きていました。私も率直に言えば、すごく好きな作品です。

太平洋北西部の森の中、ある一家が暮らしていた。

6人の子供を抱える父ベンは、みんなで森の中のサバイバル生活をし、肉体的にも知識面でもすべての教育を自分でしている。狩りをし、本を読み、自然に感謝して生きる。

そんな彼らの楽園生活に、ある知らせが舞い込む。

母であるレスリーが、精神病院にて自殺してしまったのだ。悲しみに暮れる一家であったが、レスリーの父はすべての原因はベンにあると言い、葬式への参加を拒否する。

しかしベンには別の目的もあった。妻レスリーが残した遺言を必ず遂行すること。

かくして一家は楽園を離れ外の世界へと向かうのだった。

ヴィゴ・モーテンセン演じるお父さん。この映画は完全に彼に帰属するものになっていると思いました。

タフでなりふり構わない、決して立派な男とか、社会的に素晴らしい男ではないんです。でも最高の父親、夫であろうと必死で努力する。

その姿がとても心を打つものでした。

繰り返す妻との対話。若干影があるのがまた、幻想でありもしかすると願望、やっていることが妻にも支持されているという妄想とも取れました。

なんとか奮い立たせて、子供たちを守っていこうとする。「父さんまで失いたくない!」って叫ばれた時、自分の役割を心に刻んで、夫でもあるけど父でもあるんだと覚悟しています。

子供たちも非常にチャーミングです。育った環境が環境なわけで、子供と大人の境界線一切なしに世界と向き合ってきます。

それがカルチャーギャップだったりシュールギャグになったり、おかしくて笑えますよ。

ただ、そこには怖さもあるんですよね。

一番ショックだったのは、葬式行く途中で寄った親類の家での別れ。あのクソガキに中指立てられれてもわからないというギャグなんですが、それでいて怖い。

あの子たち、もし他の子にいじめられたりしても、それすらに気付けないってことですよね。

ユートピアで生き続けるというのは危うい夢ですから、社会生活にいずれ飛び込むことになるかもしれない。

そんな時に、無知ゆえに危害を加えられる危険性が、すでに子供たちにはあるんですね。

その兆しを見せつつ、面白さの中に着実な怖さと危うさをのぞかせて進む。

さあ、最初は粋で飛び抜けた親父だったベンに対し、観客は息子と同じように疑いを持たざるを得なくなっていきます。

このユーモアがスリラー的になる瞬間がとても好きでした。

さんざん笑っていたし、本当に面白いのだけど、子供たちは常に(我々の社会から見れば)不幸な目にあっているんですよ。

この危うさからは、今作の主題であろう部分が効いてきますね。

親の役割。人を育てるということ。そして保護とはなんなのか。

情報は何を持って「子供には早い。」とか、「そろそろ知っておくべき。」とするのか。何を適切な教育と呼ぶのか。

このロードトリップの中で世界と向き合うことになったベン一家でしたが、事は悪い方へと進んでしまう。

それはほぼ子供の独り立ちにも見える物語。

親の領域を離れて世界へと出ていきたい願望。なれるかもしれないもう一人の自分、できるかもしれないもう一つの生活。

これもまた、外の世界をいつ知るのか。という親の保護規制の限界点の問題。

最後の展開にはいろいろな取り方があると思います。

その着地にはそこまで説得力はありませんが、そこに至るまでの考察に富んだ楽しい旅には十分、観客に今生きているその生き方を問い直す効果がありますね。

ヴィゴ・モーテンセンの圧巻の父親像。

信条を貫こうとする男でありまたそれが揺らいでしまい苦悩する男であり。

そして何よりも夫であり父であることです。彼の魅力に満ちた映画なのは間違いないでしょう。

今作はユーモアとその陰にちらつく危うさで観客を楽しませ、ヴィゴの演技によって完成されたもので、観る人がもう一度自分の世界とその外の世界とを意識するような作品。

かなりおススメです。

ヴィゴ・モーテンセン好きには是非。

また家族ものやロードトリップとしてもすごく楽しめますね。日本での公開も期待。

そんな感じで感想を終わります。それでは~

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