「未来を花束にして」(2015)
- 監督:サラ・ガブロン
- 脚本:アビ・モーガン
- 製作:アリソン・オーウェン、フェイ・ウォード
- 製作総指揮:キャメロン・マクラッケン、テッサ・ロス、ローズ・ガーネット、ニック・バウアー、ジェームズ・シェイマス、テレサ・モネオ
- 音楽:アレクサンドル・デスプラ
- 撮影:エド・グラウ
- 編集:バーニー・ピリング
- 美術:アリス・ノーミントン
- 衣装:ジェーン・ペトリ
- 出演:キャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム・カーター、アンヌ=マリー・ダフ、ベン・ウィショー、ブレンダン・グリーソン、メリル・ストリープ 他
“Brick Lane”(2007)を監督し、同作はかなり騒動を巻き起こしたサラ・ガブロン監督が、キャリー・マリガンを主演に迎えて描く、イギリスの女性参政権を巡る物語。
原題”Suffragette”(サフラジェット)は20世紀初頭イギリスの、女性参政権を求める団体を指す言葉で、大胆かつ暴力的な方法も辞さず訴えた女性たちです。
今作にはイギリス舞台という事でヘレナ・ボナム・カーターやベン・ウィショーらも出演。また、カメオレベルですがメリル・ストリープも出演しております。
実話に基づく形で、運動に参加していくことになる女性を描いた作品。公開日の結構遅い時間に観ましたが、人の入りは中々。終盤に涙する方も多く見受けられました。
20世紀初頭のイギリス。洗濯場に勤務するモードは、ある日街で、職場の同僚マーガレットが複数の女性と共に、「女性に投票権を!」と叫び、商店に石を投げ込む姿を目撃する。彼女はじめその女性たちは、婦人参政権を求める急進的な団体なのだ。
職場でも女性の権利を求める運動の流れが及び、マーガレットは政府への訴えのために議会へと行くことに。成り行きでモードもついていくのだが、マーガレットが差別により暴力を受けたことで急遽、代理として議会で証言することになる。
そこでモードは、想像したこともない、あったかもしれない自分の人生について考える。
今作が非常にはっきりと、描き出すことを明確化しているのは、全体の安定し硬派な出来から分かるかと思います。実話から何か独自の視点を見出すとかではなく、伝えるべき事柄を真っ直ぐ伝える作りです。
そのリードをしていくのが、モード・ワッツを演じるキャリー・マリガン。彼女の今作での演技にはすごく感動しました。
人物自身巻き込まれていく形でこの運動に参加していくわけですが、モードは非常に諦めた、もしくは何も知らない女性なのです。
時代と環境が彼女をそうさせたからではありますが、自分に対しての上司の長年のセクハラに関しても自分から声を上げることはなく、妻そして母という役割もそのまま受け入れる。
そんな彼女が偶然にも初めて自分の人生を考え、思わず声を上げてしまう瞬間。そういった抑制と限界からくる行動を、マリガンは表情だけで演じきっているのです。
接写に映る目、そこから疲れも怒りも失意も希望も見えてきます。
そのリードのほか、ヘレナ・ボナム・カーターのベテランのサフラジェットも良かった。虐げられ何度も投獄されつつ、枯れることなく毅然とそして暖かくモードを迎えてくれる。夫との関係も含め素晴らしい描写でした。
女性たちが当時政治上どのように扱われていたか、その概要はOPすぐのナレーションではっきりと提示されます。
しかし今作ではシーンの構成でより、彼女たちが感じる抑圧と息苦しさを体感させています。
始まってすぐ出てくる洗濯場は囲われた空気の悪さに、体に染みつき呼吸から頭をおかしくする化学薬品の匂いを感じそうな、非常にグレーでボヤがかかっていて酷い環境です。
見ているとこっちまで気分が悪くなるような、最悪の職場。
そして徹底して感じられたのが、女性が男性によって押し込まれている、抑圧そのものです。ほとんどの場合において、モードはじめ女性たちが男性といるシーンは室内です。それも窮屈な。
そこでは常に虐待的なものがあるわけではないですが、それでもつまり、男性によって当時の女性たちが何かしらに押し込められているという状況が良く組まれていると感じました。
女性たちが外で会うのは、女性同士の場合が多く、そこでこそ広い通りや川のほとりなどの空気の抜けた空間を感じることができます。
とりわけ暖かな、今作の立ち位置がすごくよく見えたところは、終盤近くでマーガレットが運動から抜けてしまうところ。
自然に囲まれ広々とした空間が用意されているのも素敵なのですが、あそこで別れてしまう2人を遠景で撮ってますよね。横に分かれていく2人。
次のカットでは奥行きのショットになって向こうへと歩くマーガレットと、こちらに歩くモードになります。ただ、どちらのカットでも、2人を画面内に残しているんです。完全に画面外に出してしまうことはない。
どこまでも、女性たちに寄り添っていますね。
男性の描かれ方としても、何タイプかありそこには男性としての窮屈な枷を感じることもありますが、やはりどういった女性がどういう気持ちでこの運動へと参加するかがメインです。
キャリー・マリガン、アンナ=マリー・ダフ、ヘレナ・ボナム・カーター、みんな輝いています。
彼女たちに共通して持たされていたのは、次の世代のことを考えるところに思えます。
モードは自分の受けた仕打ちとその人生を、マギーに負わせたくなく行動し、絶対に息子を捨てず愛し続けます。雨の中ただ笑顔が見たくて呼びかける姿は切なさを感じずにはいられませんでした。
またマーガレットが去るのも、子供を授かったからですね。
女性はつま、そして母。命を生めるのは女性だけです。彼女たちはたしかに急進的ですが、それは次の世代に光をあてるため。
今作でガブロン監督は、ストレートな作りからこの女性参政権ひいては女性の平等と権利の始まりを描いています。今へと地続きの物語、それがどれほどの苦難であり犠牲を伴うものだったのか。
彼女たちが輝かせたかった未来。そのための行進が今なお続いているのです。
絶対に知っておくべき始まりを、無駄なく伝えていく。監督の職人的な硬派さ、そして撮るという意義も含め拍手を送りたいです。
今でも多くの場面で、女性は枷をはめられています。その事を知らずにいる女性も多く、今作は知るという事と考えるという点で観ておくべきともいえるでしょう。
そんなところで、感想はおしまいです。それでは、また。
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