「ドント・ルック・アップ」(2021)
作品概要
- 監督:アダム・マッケイ
- 脚本:アダム・マッケイ
- 製作:アダム・マッケイ
- 音楽:ニコラス・ブリテル
- 撮影:リヌス・サンドグレン
- 編集:ハンク・コーウィン
- 出演:ジェニファー・ローレンス、レオナルド・ディカプリオ、メリル・ストリープ、ジョナ・ヒル、ティモシー・シャラメ、ケイト・ブランシェット、マーク・ライランス、アリアナ・グランデ、メラニー・リンスキー 他
「マネー・ショート 華麗なる大逆転」や「バイス」など、アメリカ社会を題材にしたブラックコメディを多く撮ってきたアダム・マッケイ監督最新作。
天文学者が地球を壊滅させる彗星の接近を探知するも、その危機感を世界が認知せずメディア活動に苦戦していく様をブラックなユーモアを交えて描きます。
主演は「レッド・スパロー」などのジェニファー・ローレンスと「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などのレオナルド・ディカプリオ。
合衆国大統領にはメリル・ストリープ、補佐官にジョナ・ヒル。そのほかケイト・ブランシェットやティモシー・シャラメ、マーク・ライランスやアリアナ・グランデなどかなり豪華な面々が集結しています。
アダム・マッケイ監督自身が自分の製作スタジオから送る作品で、彼が脚本や製作も担当しています。
もともと劇場公開に向けていたようですが、NETFLIXが権利を買い取って配信公開の作品となりました。
2019年から企画し2020m年には撮影を始めましたが、コロナ感染症の拡大から大幅な遅れが出ました。
それでも2021年に完成し無事に公開です。日本では一部劇場で期間限定の公開もされていました。劇場へは行かずに今回はNETFLIXで配信版を鑑賞しました。
~あらすじ~
大学の天文学部で研究し天体を観察しているケイト・ディビアスキーは、ある時一つの彗星を発見する。
教授のミンディ博士とともにこの彗星の軌道や位置座標を計算していると、この彗星は直径が約5~10kmほどと巨大なものであることが分かったが、観測記録において地球との距離が縮まっていると知る。
計算上この彗星はまっすぐ地球へ向かっており、6か月ほどで衝突。その衝撃は地球上の生命をすべて絶滅に追い込むほどであると証明された。
この事実を直ちに政府関係者へと知らせ、2人はホワイトハウスへ呼ばれ大統領へ報告することに。
しかし、大統領はこの事実をまともに受け入れないばかりか、”待機して観測”と結論付けてしまう。
業を煮やした2人はメディアへのリークを決断し、今度はTV番組へ出演するのだが、ここでもまた科学的に証明された地球の滅亡をトピックとしてしか扱わない世間に苦戦する。
感想/レビュー
期待通りでそれ以上ではない
アダム・マッケイの試みは「アルマゲドン」の左派バージョンのようなもので、コメディパニックものとして彼特有のバカバカしさとブラックなユーモアを携えています。
作品の製作開始や脚本の段階でいえば2019年に立ち返ることになり、この点でいえば確実に当時のトランプ政権を背景にしながら、環境活動家グレタ・トゥーンベリによる地球温暖化への警鐘と行動促進が主眼にあると思います。
しかしこの公開遅延の影響から、状況としては新型コロナウイルスの拡散とそれにたいるすトランプ政権のリアクションまでもが含まれるように重なり、これまた非常にシニカルな味わいが加わりました。
ただ率直に言うと、期待通りの作品でありつまり期待を超えることはなかった作品です。
おそらく映画をよく見ている方や、アダム・マッケイ監督作品をこれまで見てきた方は、キャストの豪華さや設定から想像できることがそのまま来るだけです。
もちろんそもそもの期待値というもののベースが高いということで、期待通りだからと言ってつまらないわけではないです。
しかし予想した筋書きとテイスト、素晴らしいキャストによって支えられもたらされる楽しさにとどまります。その先にはいきません。
この時点で作品に対してのスタンスは決定しますが、確かに楽しんで観れますし時勢によくあっていると思います。だからNETFLIX加入者であればお勧めできる作品です。
究極の自分事に対しても相対化してしまう人類
作品は基本的にはアメリカ国内の情勢のみに終始しています。時折世界各国の映像なども挿入されますが、まあアメリカ国内に主軸を置く。
そこではすべてがミーム化し、どんな議題も政治イデオロギーとしてしか交換されない危険な社会が渦巻いています。
科学的な事実や検証というものよりも、その場でのバズを重視していく。どこまで深刻な事象(地球壊滅)であろうとも、それを真正面から観ることはせずに、まるでネットにアップされたトピックでありネタでしかないかのように相対化してしまう。
政治サタイアだけでなく、今現代に生きている私たちの問題を描きこむ。
相対化の行きつく先は、目の前に問題が見える状態になってもなお「見上げない」ことを選んでしまうという危険さとあまりの滑稽さまで含んでいます。
意味もなく恐怖を煽るなという言葉は、環境問題にも新型コロナにも当てはまり笑っていいのかよくわからない底知れぬ怖さすらたたえていますね。
科学的実証があろうとも、目で見える形になろうとも、それは陰謀だと。
ここは日本の現状を見たとしてもなかなかに痛いところですよね。
口が悪いですが、ビルのライトアップとフリップボード芸しかできない都知事がいて、危機的状況においてもマスクを配るという意味の分からない政策をとり、そのくせ給付金すらまともに配らない。
それでも日本国民はこの状況を本当に真剣に考えている方は少なめでしょうか。ニュースをスマホで眺めて終わるだけではないでしょうか。
その自分たち自身に直接降りかかる事柄すらもスクリーンを通してどこか他人事になる状況に対して、マッケイ監督は人類滅亡をぶつけてきているわけです。
今作もスクリーン上のバズでありミームで終わる可能性
確かにこの作品のユーモアも素敵で、俳優人たちも豪華らしいだけあって観ごたえもあります。
しかし極論言えばおもしろい作品ではありますが、やはり期待は越えていない。そして私個人としてやや残念に思うのが、ジョーダン・ピール監督の「アス」にも通じる部分。
それは行動の示唆も促進もないことです。
ここで描かれていることって、滑稽で喜劇であり悲劇ですが、まあわかっていることなのですよ。分かっていない方たちには確かに告発とか警鐘を鳴らす意味こそあるのですが・・・
ただ、この作品自体も下手すると映画に出てくるミームにしかならないんじゃないでしょうか。
「「ドント・ルック・アップ」って作品があってさ、ほんと人類ってみんなバカだよね。」で終わる危険性。
マーク・ライランスはジョブズとイーロン・マスクの合体版かな?とかいろいろと考えて楽しむことはできますが、だからどうしろというところに行きつかない。
この作品で現実を題材に風刺して楽しみつつも、作中のミーム製造して消費している側とあまり変わらない気もしてしまいました。
引いた視点から現実を投影した登場人物たちを冷笑するスタイルには、監督のコメディの技量もそれらにこたえる俳優たちの力も確かに感じられますが、果たして政治サタイアとして笑いにするだけでいいのか?と疑問も残る作品でした。
微妙な立ち位置ですが、賛成しつつ特筆すべき作品ではないといった感じ。アダム・マッケイ監督の力が高いからこそ、大いに期待をしてしまうのでしょう。
楽しめる作品ではありますので、NETFLIX加入されている方は是非。
というところで今回のレビューはここまで。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
ではまた。
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