「永遠に僕のもの」(2018)
- 監督:ルイス・オルテガ
- 脚本:ルイス・オルテガ、セルヒオ・オルギン、ロドルフォ・パラシオス
- 製作:ペドロ・アルモドバル、レティシア・クリスティ、パブロ・クレル、エステル・ガルシア、アクセル・クシェヴァッキー、アグスティン・アルモドバル、マティアス・モステイリン、セバスティアン・オルテガ、ウーゴ・シグマン
- 撮影:フリアン・アペステギア
- 編集:ギリェ・ガッティ
- 出演:ロレンソ・フェロ、チノ・ダリン、メルセデス・モラーン、ダニエル・ファネゴ、ピーター・ランサーニ、セシリア・ロス 他
アルゼンチンに実在した”死の天使”、”黒い天使”と呼ばれた連続殺人鬼を描くクライム映画。
監督はアルゼンチンで活動中のルイス・オルテガ。
殺人鬼カルロスを今作で初めての映画出演となるロレンソ・フェロが演じています。
作品はカンヌ国際映画祭のある視点部門にて上映され、アカデミー賞にはスペイン代表として選出されました。
もともとはあまり知らないアルゼンチン映画。このカルロスのことも何も知らない状態で鑑賞。
上映館数は少なめでスクリーンも小さいのですが、割と人は多めにいましたね。
1971年のブエノスアイレス。
カルロスは真面目に勉強もせず、街をふらついては気ままに空き巣や盗みを繰り返し、盗んだものに関して両親に聞かれると、友達から借りたとごまかしていた。
ある日彼は学校でラモンという青年に目を付け、ケンカを吹っかけて近づく。
ラモンはイカれたカルロスを気に入り、家族ぐるみの犯罪グループに引き入れるのだった。
カルロスは盗みの天才であった。
しかし大胆かつ自由な彼の行動は、同時に危険でもある。
監督は自分の国に実在した天使のような悪魔を描きましたが、いわゆるサイコパス映画とはまた違う雰囲気に包まれていました。
私はこの作品が持つ、カルロスからあふれる何かが纏われたような空気が好きです。
撮影はやたらに艶のある感じや色彩が豊かで色気に溢れています。
それぞれのショットを切り出すだけでも、すごく画になるカットが多いです。
カラフルさ、きらびやかさ、色気。
幻想の中にいるような感覚はセクシュアルなシーンの多さにも響き渡り、割とサクサク行われる残酷行為にいたっても綺麗だなと感じてしまいます。
今作は観る人を当惑させ、そして魅了します。
主人公のカルロスは現実でも天使と評される美少年で、劇中でもそのルックに多くの人が魅了されていくことになります。
それは彼女、ラモン、ラモンの母などほとんどすべての人です。
最後に集まる野次馬の中にさえ、カルロスをうっとり見つめる少女がいました。
写真は実際のカルロスのものですが、この時19歳。確かに美少年ですね。
映画でのロレンソ・フェロも本当に童顔でかつどこか中性的な容姿を持ち、男女問わず美しいと思ってしまう顔。
さらに今作ではその身体を見せるシーンも多く、マッチョではないふっくらとした感じも、絵画の天使に似ています。
彼のまなざし、所作。
クローズアップも、引きのショットでも、その存在感が際立ち目をやってしまいます。
まさに人間とは違う何か、天使という存在であるかのようです。
しかし天使とは人間世界の倫理規範には従わないものです。
カルロス本人が言うように、好きな時に好きなことを、思いのままにやる。
それがすべてであり、貧しい老人に高級なアクセサリーをくっつけていたり、車の中のものを興味がなければ捨ててしまったり、執着がない。
底から自由なこの少年に、私としても惹かれるのは、まず、犯行における計画性がなく、衝動的行動をするその先の読めなさがスリリングだからです。
これはどんなキャラクターもそうなんですが、行動の読めない人物は注目を集め観ていて楽しいものです。
そして次がとても大きい部分ですが、彼の自由さ。
クリストファー・ノーラン監督「ダークナイト」のジョーカーがカッコいいところもこれに通じるのですが、社会のルールや善悪を理解したうえで、それでも剥き出しの欲求に従って冗談交じりに生を歩む。
超越した存在でもあり、そこに羨望すら覚えます。
社会のしがらみに生きる人間なら誰だって、何にも縛られずに生きてみたいと願ったことがあるはずです。
しかしそういった願望を呼び起こし、人を堕とすというのはまさに悪魔ではないでしょうか。
何度かあるカルロスがカメラを見るPOV視点は、善悪が薄らいで彼に陶酔する中で、その暴力を向けられる側に観客を立ち返らせます。
そして、犠牲者からすれば、紛れもない悪だと再認識するのです。
実際の記録をみるにカルロスは赤ん坊すら撃ち殺そうとする人間です。
相棒が未成年をレイプし、そのあと銃殺する人間。
恐ろしいことに、どうしても容姿が人を惑わします。
そこには宗教も性的趣向も人種もなく、ただ悪しき心だけがある。気を付けなければ。
まさに天使のごとき容姿と決ままな自由さ。美しい画面と酔いしれるショットに見入っていながら、ふとそうなる自分の状態に怖くなる作品でした。
ロレンソ・フェロの妖しさ、音楽に乗せた軽快さや画の艶なども楽しめ、ビジュアルに陶酔していく映画なので、劇場鑑賞がおススメです。
感想はここまでとなります。最後まで読んでいただきありがとうございます。
ではまた次の記事で。
コメント