「ダークナイト」(2008)
- 監督:クリストファー・ノーラン
- 脚本:クリストファー・ノーラン、ジョナサン・ノーラン
- 原案:デヴィッド・S・ゴイヤー、クリストファー・ノーラン
- 原作:ボブ・ケイン
- 製作:クリストファー・ノーラン、チャールズ・ローヴェン、エマ・トーマス
- 音楽:ハンス・ジマー、ジェームズ・ニュートン・ハワード
- 撮影:ウォーリー・フィスター
- 編集:リー・スミス
- プロダクションデザイン:ネイサン・クロウリー
- 衣装:リンディ・ヘミング
- 出演:クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、マイケル・ケイン、アーロン・エッカート、マギー・ギレンホール、モーガン・フリーマン、ゲイリー・オールドマン 他
さて、もう知らない人はいないね。ていうか映画好きさんの中でも人生ベストに入れている方が多いこの作品。クリストファー・ノーラン監督によるダークナイトシリーズの2作目。前作「バットマン ビギンズ」(2005)から新たなアプローチでバットマンを描いていたのですが、今作はその最高傑作として名高いものですね。
なににつけてもヒース・レジャーのジョーカー。アカデミー賞を受賞、また本人の遺作にもなっています。主役を食うとはまさに、名演をしています。
今作はIMAXでの撮影も見どころで、映画向けではないメディアを導入した映像も驚きのものでした。まあ日本での興業はいまいちな感じで、周りもポニョポニョ言ってたあたりです。
バットマンによりゴッサムの街に平和の道が開かれようとしていた。しかし悪人たちがこのコウモリを恐れるなか、挑戦するように仮装したものが現れる。
ピエロのような化粧をしたジョーカーと呼ばれる男は、ギャング傘下の銀行を襲い、さらにはそのギャングたちにバットマンを殺すことを持ちかける。
一方でゴッサムに正義をもたらそうと奔走する検事ハービー・デントは、警察署長ゴードンそして影の協力者であるバットマンと共に、犯罪者の一掃を目指す。
だがジョーカーには一切のルールも倫理も存在せず、その愉快犯的な振る舞いにバットマンたちは翻弄されるのだった。
話がジョーカーに行く前に、技術面。IMAXカメラの圧倒的な説得力。これはすごい。今でこそIMAX撮影は増えましたが、今作は初めてのもの。銀行強盗シーンや中盤の夜のチェイスなど、IMAX効果がこれでもかと映像にエッジを利かせ、視覚的に絶対的な質を与えています。この映画は違うぞ!というのを画面からひしひしと伝えているのです。
スコアに関してはバットマンのテーマから、ジョーカーの音楽というには奇妙な、緊張したなんとも気味の悪いものが特徴的ですね。
アクションは相変わらず微妙なところはありましたけど。格闘はもちろん、チェイスシーンでのスピード感が少し足りなかった気もします。タンブラーもバットポッドものんびり走ってるように見えるんですよね。そこもIMAXの力技で満足ですが。
さて、今作を観終わって絶対に話に出るのがヒース・レジャー演じるジョーカーです。
ロメロ、そしてニコルソン。今ではジャレッド・レト版などもありますが、こちらのジョーカーはまさに伝説です。誰もがこのジョーカーを脳裏に焼き付けられ、映画史に残る悪役になったのは間違いないと思います。とにかく、このジョーカーを見るためだけでも、今作はお勧めなのです。
計画性には無茶はあるものの、今回はヒースの演技に飲まれ、このジョーカーというキャラが出てくるたびにとにかく楽しいので気になりません。
おそらく非常に恐ろしい敵であることは間違いないのですが、カッコいいという感想もまた真っ当だと思われるキャラクター。彼は孤独というか、あらゆる属性や組織を持たない人物です。正体も全く分からず、概念が体を持っているような気さえします。バットマンが細かに描写されているこのシリーズでは、何も描かれないという演出はとても魅力的になっています。
それだけでなく、彼が言う思想にどこか共感してしまうからなのかもしれません。面倒な枷は取り払ってとことん自由に本能のままに生きる。
究極の反逆児、自由人。人間たちが作る「社会」という幻想、欺瞞を笑い飛ばすこのピエロに、憧れを抱いてしまうのです。だからこそ今作で最も爽快なシーンは、ジョーカーがパトカーに乗り気持ちよさそうに風を受けるカットなんですね。
とことん人間の醜い部分を見せつけ、さらには引き出そうとするジョーカー。これに対してただでさえ小難しく悩むベールバッツは心をぼこぼこにされます。そういえば、今作からバットマン時の声が異常にダミ声です。ちょっとおもしろいw
で、色々あるんですが、ここらで気になるというか、好みの部分を。
脚本上の無理は良いのです、観てて全く気にならないくらいに引き込まれましたから。気になったのは前作「バットマン ビギンズ」(2005)と同じようなことです。それは何かと仰々しい台詞が多く、分析をし過ぎているところです。
上海のシーンなんて言うあからさまな余分もありますが、とにかくこの映画は台詞もはや演説が長く多い気がします。アルフレッドとか普通の会話をしませんし、暗示するような言い回しばかり。
バットマンとジョーカーの尋問シーンは有名ですが、そこでもお互いしゃべり過ぎだと思いました。
ある程度観ているだけで、今作が目指そうとした普遍的で古典的なメッセージ提示は理解できます。それこそジョーカーの行動を追うだけでも。ただ分かりやすくするためなのかキャラの台詞に乗せてやたらと解説させています。
どのキャラも哲学者のようにしゃべるもんですから、いろいろと考えを聞いていく講義のようにすら感じました。好き嫌いの部分でしょうが、ノーラン監督は演説が多い気がします。映像でイケてるので、台詞は減らして上映時間もタイトにしてよかったんじゃないかと。
ともあれアメコミ映画の最高傑作的な位置にあるのは間違いない作品。
規制のかからないギリギリでハードコアな内容をやり、アメコミが本来持っている非常に深い研究を見せてくれています。この作品はアメコミを読んだことがない、興味が知識がないという人に対し、大衆作品でありながらもその面白い世界を伝えてくれているのです。
最高に魅力的な悪役、バットマンの狂言回し。撮影の迫力やスコアなどどれも素晴らしいものになっています。
前作を観てなくても、今作だけ観ても良いと思います。観ておくべき映画であると断言できますね。ヒース・レジャーのジョーカーは永遠でしょう。
というわけで、ダークナイトトリロジー2作目のレビューでした。バットマンVSジョーカーという点ではティム・バートン監督「バットマン」(1989)も傑作ですので合わせてどうぞ。それでは~
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