「ザ・スイッチ」(2020)
作品解説
- 監督:クリストファー・ランドン
- 脚本:クリストファー・ランドン、マイケル・ケネディ
- 製作:ジェイソン・ブラム、アダム・ヘンドリックス
- 製作総指揮:ザック・ロック、グレッグ・ギルレス
- 音楽: ベアー・マクレアリー
- 撮影:ローリー・ローズ
- 編集:ベン・ボードゥイン
- 出演:キャスリン・ニュートン、ヴィンス・ヴォーン、ケイティ・フィナーラン、セレステ・オコナー、アラン・ラック 他
「ハッピー・デス・デイ」のクリストファー・ランドン監督が、再びブラムハウス製作で送るスプラッタホラーコメディ。
呪いによって凶悪な殺人鬼と体が入れ替わってしまった女子高生が、自分の体を取り戻すために奔走します。
主演は「名探偵ピカチュウ」や「ベン・イズ・バック」などのキャスリン・ニュートン。
また殺人鬼役に「ハクソー・リッジ」などのヴィンス・ヴォーンが出演しています。
ランドン監督とブラムハウス製作の再びのコラボとなっており、ブラムハウスはどんどんと勢いを増しているように思えます。
英語タイトルは”Freaky”であり、母と娘の体が入れ替わる「フリーキー・フライデー」にちなみつつ、実際には13日の金曜日を舞台としているのでそちらの作品にもちなんでいます。
アメリカでは2020年11月13日の金曜日に公開と。日本でははじめは2021年1月公開予定でしたが、緊急事態宣言の再発例の影響か一時延期となり、4月になって正式に公開されました。
公開週末夕方の回で結構混んでいました。若い人多めで、女子グループが意外に多めでしたね。
~あらすじ~
家では過保護な母に囲われ、学校ではいじめられっ子のミリー。
最近学生グループを惨殺した犯人が逃亡中で、町はその話題で一杯だった。
母がミリーを迎えに行くのを忘れたある夜、その殺人鬼とミリーは出くわしてしまう。
必死に逃げ回るも力の強い大柄な男相手には抵抗もできず、ミリーは追い詰められてしまった。
しかし、殺人鬼が不思議なナイフをミリーに突き立てると、殺人鬼の体にも全く同じ場所に傷がついた。
駆けつけた警官であるミリーの姉により殺人鬼は逃げるが、襲撃の翌日目が覚めると、ミリーは全く知らない場所にいた。
そして近くにある鏡には、なんとあの殺人鬼が映っていたのだ。
なぜか自分は殺人鬼の体に乗り移っている。そしてつまり殺人鬼はミリーの体を操り自由に動き回っているのだ。
なんとか元の自分に戻り、そして殺人鬼によるさらなる虐殺を止めるために、ミリーは学校の友人たちに助けを求めることにした。
感想レビュー/考察
クリストファー・ランドン監督の新しい作品である今作は、ボディスワップものでありスプラッタホラーであり、相変わらず自己認識の強い作品です。
ただ監督の名を知らしめた「ハッピー・デス・デイ」と同じく、ランドン監督はここに新しい風を吹き込み、ジャンルを楽しませながら違う視点をもたらしています。
おそらく多くのホラー映画、スラッシャー映画ファンはト独創的スプラッタを新鮮に感じられます。
OPでのサービスとしてのワインボトルにラケットなど、ジョン・ウィックも唸る身の回りの物を活かした殺人技術。
そてに、今作のオマージュやジャンルをメタ的にとらえたユーモアを楽しめると思います。
黒人とゲイだから死ぬとか、自己認識が飛び抜けたギャグも良い感じでした。
また、図体のデカイヴィンス・ヴォーンの女子っぷりと、好きな相手との初めてのキスに腹を抱えて笑います。
ヴィンス・ヴォーンマジで体当たり。
まさかヴィンス・ヴォーンが10代の男の子と車の中でキスするシーンが観れるとは。
端からみたら完全にお巡りさん案件ですが。
こうした要素は体入れ替わりもののなかでも、とりわけその肉体の差異が大きい今作の設定を最大限に活かしたコメディギャグが満載になっています。
ただ、「ハッピー・デス・デイ」がループ×ホラーだけでなくて、非常に心地良いクリスマス・キャロルだったように、今作もただのスイッチものではないですね。
私はここにジェンダーを入れ込んでいる点は非常に高く評価したい。
か弱い女の子と大柄な怪人(男)の構図はホラー映画では使い古された構図です。
それを入れ換えて笑いにするだけでなく、ランドン監督は男女の差を押し出します。
殺人鬼はミリーの体で好き放題できる野放し状態ではありますが、同時に彼女の抱える問題にも直面します。
いじめっ子を惨殺するのは楽しい要素として、割りと殺人鬼が負けちゃうんです。
自分でも「この体使えねぇ!」というように、女の子の体では連続殺人も難しい。フィジカルでは普通に男に負かされる。
そして逆にミリーは強い体を手に入れて、これまでの不安から解放されます。
車内で語られますが、ミリーは体が入れ替わったことで安心を得る。
殺人鬼もまた終盤に触れていますが、女性が普遍的に抱える恐怖や不安を見せているのです。
終盤近くの虐殺シーンでは、中身が殺人鬼になったミリーだから見ていられるシーンがあります。
もしもミリー本人だったら、3人のクズが死ぬ以上に凄惨な性暴力が起きていたと思います。あまり想像はしたくないシーンです。
相手を殺すほどの抵抗をしなければいけない暴力が現実にはある。
そしてそれが個人的な恨みではなく、ただルックスを変えたことによるものというのも大きいでしょう。
少しクールでセクシーな格好をするだけで、ヤラせてもらえると勘違いした男たちがすり寄ってくる。
ボディスワップは関係なく、これらは実在する問題です。
そうした投影をジャンル映画に投影して見せていく姿勢は斬新というフレッシュな感覚とはまた異なりますが意義のある仕掛けに思いました。
惜しむらくは、それらが提議に終わっていることでしょう。
力があることでの暴力性や、実際にできる抵抗についてまで深く掘っていくことはありません。
最終的には暴力での解決になっているのはちょっと残念でした。
あとは「キャリー」意識したような母との関係性についても、毒親を入れたかったのかと思いますが、しかし試着室での会話などからかなり緩くなっていき、不要だったのではないかとも思います。
ミリー個人の成長や父の死を乗り越えていくプロットにも物足りなさは禁じ得ませんから、アイディアとそこからくる問題提議は楽しめるものの、全体にはドラマに締まりがない作品だったなという印象です。
いずれにせよ、ランドン監督はコメディとホラーの過去の遺産の埃を取り払い、今までと違う輝きを与えようとする点でこれからも追いかけていきたい人物です。
ちなみに、監督自らが「ハッピー・デス・デイ」と今作の同ユニバースを言及しているので、ブラムハウスユニバースかなんかがそのうち見られるのかも?
今回の感想は以上。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
それではまた次の記事で。
コメント