「アイム・ノット・シリアルキラー」(2016)
- 監督:ビリー・オブライエン
- 脚本:ビリー・オブライエン、クリストファー・ハイド
- 原作:ダン・ウェルズ
- 製作:ニック・ライアン、ジェームズ・ハリス、マーク・レーン
- 製作総指揮:ウェイン・マーク・ゴッドフリー
ロバート・ジョーンズ、ジェームズ・アザートン、ジャン・ペイス、ジョン・マクドネル、ロリー・ギルマーティン、ビリー・オブライエン、アヴリル・デイリー、ル、リー・ロビンソン、ロビー・ライアン、ベルトラン・フェヴル、ルース・ケンリー=レッツ、アフォラビ・クーティ - 音楽:エイドリアン・ジョンストン
- 撮影:ロビー・ライアン
- 編集:ニック・エマーソン
- 出演:マックス・レコーズ、クリストファー・ロイド、ローラ・フレイザー 他
アイルランドのビリー・オブライエン監督が、田舎町にて起きる連続殺人の犯人に興味を持ち調べ始め、次第に恐ろしい真実に気付くソシオパスの少年を描くホラー映画。
監督は「The Tale of the Rat That Wrote」などショートフィルムを手掛け、今作で監督自体は3作目だそうです。
主演は「かいじゅうたちのいるところ」のマックス・レコーズ。
彼がちょっと変わったソシオパス少年を演じ、隣人の老人として「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのドクでおなじみのクリストファー・ロイドが出演。
作品は日本でも’17年に公開していましたが、規模が小さかった関係か見逃していました。
今回はケーブルテレビの配信にて初めての鑑賞となります。
中西部の小さな町で、連続殺人が発生する。被害者はみな肺や腕など体の一部を切り取られており、現場には謎の黒い液体が残っているのが共通していた。
町に暮らす高校生のジョンは、医学的に反社会的パーソナリティ生涯(ソシオパス)であると診断を受けており、学校では変人扱いされていた。
母は遺体解剖を仕事としておりジョンもその手伝いをしているが、人体の中身への興味が、連続殺人犯への探求心につながり、自分なりに犯人の心理や行動を分析し始める。
そんなあるとき、ジョンはついにその連続殺人鬼の正体と犯行の瞬間を目撃してしまうのだった。
ビリー・オブライエン監督の描くホラー映画ではありますが、さまざまなジャンルやテイストが巧く切り替わりながら展開されていて、すごくユニークな作品であったと思います。
もちろんホラーとして怖いシーンや不気味なシーンは、夜の街の排気ガスの中のシルエットショットとか、カラーリングが強烈な中でのショットなどしっかり作られています。
ここは撮影ロビー・ライアンの力でしょうかね。がらりと色彩も雰囲気も異なる画を決めながら、やや80年代などん古ぼけたざらつきある画面で統一していて見事です。
同時に、主人公ジョンの言動でみると、その異常さや不気味さがある意味笑えて来るところもありブラック・ユーモア的です。
友達の家に転がり込んでおきながら、彼とつるんでいる酷い目的をそのままストレートに言っちゃうところとか、気がある女の子ガン無視なところとか。
個人的には人物描写として機能しながらも、やはり遺体解剖台の上で寝てるのがツボ。家に居づらいからってそこで寝るのかとw
いじめっ子に対してちょっと脅しをかけるパーティシーンは、マジでサイコでありながら、同時にやり返しとしては楽しいシーンですし、トーンのミックスも巧いです。
田舎町舞台もあってか、コーエン兄弟の「ファーゴ」的な空気すら感じられます。
そのセンターとなるマックス・レコーズの演技はとても素晴らしい。
ジョンは自分の中にあるかもしれない怪物と戦い、同時に周囲の人間にとけこむべく奮闘する。
性質を変えられないけれど、母、叔母含めて社会的に求められる要求は理解しているからこそ、自分にルールを科してまで調和を取ろうとするのです。
ありがちなサイコ、ソシオパス映画と違うのは、ジョンの成長とか母との関係とか、市長青春映画でもある点です。
自分を認識しながらも、他者との距離とか違いに苦悩し、それでもうまくやっていこうともがく。
しかし周囲から思われるような自分にならないようにすればするほど、一線を越えていってしまう。襲撃や母との衝突など、ジョンは自分なりの行動をとるほどに社会的には危険な青年になっていってしまう。
自己嫌悪や行き場のない想い、そして自分だけが知る事実。なんと真っ直ぐな青春映画。
カウンターとなるクリストファー・ロイドですが、内側に潜む化け物をすごい怖さで演じています。
声がすごいんでご注目。心優しくよぼよぼのお爺さんから、すっかり人でない何かに切り替わる達者な彼に脱帽です。
クローリーはジョンにとってはすごく興味ある相手であり、一番身近かつ親密さを感じながらも同時に遠ざかりたい存在です。
鏡像と言ってもいいのかもしれません。
ジョンは自分自身の中にも、その人間の身体を引きはがせば、怪物がいると恐れていると感じます。しかし今回クローリーと対峙することで、自分自身を知ることができました。
おそらくやはり、普通の高校生ではない。ソシオパスであることは確実です。
それでも自分なりに善悪を判断し、失ってはいけないものを分かっている。
おもしろい題材だとかではなく、主人公がソシオパスでなければ成立しない必然性。彼が他者の話を聞かず、自分の興味に素直でズレた存在だからこそ、双眼鏡をあちらに向けた。
ダークで時にユーモアある世界で、コメディやスリラーそしてモンスターホラーなどのジャンル切り替えが巧く、マックス・レコーズとクリスファー・ロイドの輝きで完成されている秀作でした。
非常に楽しめましたので興味のある方は是非。
今回の感想はこのくらいになります。
それではまた次の記事で。
コメント