「ハクソー・リッジ」(2016)

  • 監督:メル・ギブソン
  • 脚本:アンドリュー・ナイト、ロバート・シェンカン、ランダル・ウォレス
  • 原案:グレゴリー・クロスビー
  • 製作:テリー・ベネディクト、ポール・カリー、ブルース・ディヴィ、ウィリアム・D・ジョンソン、ビル・メカニック、ブライアン・オリヴァー、デヴィッド・パーマット
  • 製作総指揮:マイケル・バシック、デヴィッド・S・グレートハウス、マーク・C・マヌエル、テッド・オニール、バディ・パトリック、ジェームズ・M・ヴァーノン、スザンヌ・ウォーレン、クリストファー・ウッドロウ
  • 音楽:ルパート・グレグソン=ウィリアムズ
  • 撮影:サイモン・ダガン
  • 編集:ジョン・ギルバート
  • 出演:アンドリュー・ガーフィールド、サム・ワーシントン、テリーサ・パーマー、ヴィンス・ヴォーン、ヒューゴ・ウィーヴィング 他

俳優として世界的スターであり、そして監督としての手腕も絶大・・・あと問題行動も有名な、あのメル・ギブソンが、「アポカリプト」(2006)以来10年以上の期間を空けて、再び監督した作品。

主演は今年「沈黙/サイレンス」も公開された、アンドリュー・ガーフィールド。またヴィンス・ヴォーンやサム・ワーシントン、ヒューゴ・ウィーヴィングらも出演しています。

アカデミー賞では作品賞、監督賞に主演男優賞など6部門ノミネートし、編集賞と音響賞を獲得しました。

公開日に観てきたのですが、かなりの人が来ていて、ちょっとびっくりするシーンがあるんですけど、隣の人が声あげて驚いてましたw

あ、沈黙といい今作と言い、アンドリュー・ガーフィールド日本来るとロクな目にあってない・・・w

第二次世界大戦中、敬虔なキリスト教徒であるデズモンド・ドスは信仰のために戦争への参加をしていなかったが、衛生兵であれば自分でも力になれると思い、軍へ志願した。

訓練に励むデズモンドだが、人を殺すことはできないと、銃を持つことだけは頑なに拒否しつづけ、上官や同じ訓練兵たちから侮蔑的にみられる。そして、ついには軍法会議にまでかけられ、それでも彼は「人を殺さない。助けたいだけです。」と言い放つのだった。

大きく2部に別れる本作は、まさに個人の信仰とそれが試される現実の衝突を描いていましたね。

伝記映画でありますので、戦争映画というには、やはりデズモンド個人に前半は大きく時間を割いています。

その前半に関しては、伏線というか、戦争という抗いがたい残酷性の影が多く配置されていて、後の現実との直面に向けて静かに、しかし着実に不安を積んでいっています。

それはもちろん、ヒューゴ・ウィーヴィング演じる父の描写に主には集約されていました。一次大戦を経験し、生き残りながら魂の死んだ彼が、デズモンドの行き着いてしまう先を暗示し、それは恐ろしかったです。

前半部はデズモンドの信仰心が、彼のその時の現実である軍とアメリカン合衆国において勝利する話。抑圧されながらも、やはり規律や時代性を越えても、個人の信じる力は尊重され、勝つわけです。

そこでは恋愛描写がすこしありきたりというか、悪く言えば陳腐な気もしましたが、後を考えるに、恣意的に王道ロマンスな描き方だったのだと思います。二人が美しいキスをするのも、崖(ハクソー・リッジの暗示なのは明確)の上でしたし。

戦争描写、戦闘をメインに期待されると、前半部は長く感じるかもしれませんが、個性的なキャラをサクッと紹介したり、美しい愛や個人の権利など”理想”を見せておくのは、後のために必須だと思います。

話が後半へ移りますと、ついに権利も論理も、人間の尊厳などない地獄が待っていました。

一切の容赦のない殺戮。

鉄が飛び交い、炎が噴き上げる戦場。俯瞰で兵士の足元を見せたり、とにかく戦場に転がるものをみせる場面が多いのですが、目を背けたいほど酷いのです。

人の千切れて内蔵が垂れ下がった上半身を盾に、前に進み敵を殺す。そんな現実を前に、前半部で観客も信じた、デズモンドの信仰なんて何の意味があるのでしょうか。

画面に繰り出されていくこの殺すか殺されるかの世界原理は、ことごとくそこまでに見せられた非暴力の信念を打ち砕いていきます。

私的に最も恐ろしかったのは、人体欠損とかゴア部分ではなくて、途中で手榴弾を使い、米兵を掴んで巻き込み自爆しようとする日本兵のシーン。あそこで死を悟った米兵が、日本兵と叫びあうのですけども、あれが一番怖かった。どちらもどうあがいても死ぬのに、ものすごい形相で雄たけびをあげて相手の眼を見ているのは、画面全体を狂気が覆った瞬間でした。

この戦場描写ですが、絶賛されるのも納得です。というか、CGに頼ってないというのですよ。プラクティカル・エフェクト、つまり特殊効果を使って実際に爆破し、人に火をつけてワイヤーで引っ張り中を飛ばす。素晴らしい技法としても必見です。

そして、この戦闘描写で私が好きだったのは、割りと整理されているところです。

崖からの進行というのもありますけど、戦況とか状況がかなり分かりやすかったと思います。戦闘時の目的や、デズモンドの救助活動の基本的な動きもすぐに分かりますね。

戦争という原理の前には、綺麗ごとにしか思えなくなる、デズモンドの信仰。すべては父の言うとおりであり、彼の言葉がまさにそのまま目の前で起きていく。

その狂気に飲まれまいと、デズモンドは必死に神に語り掛けるのですけども、前半部の尋問で神との対話を否定した彼なりの、現実への抵抗だと思うと切なくも感動的です。

殺すことが理である世界で、人の命を助けるという疑いのない善を必死に行う。凄惨であればあるほど、対比的に美しく描かれていくのです。

アンドリュー・ガーフィールドが負傷兵を覗き込む顔は、彼の無垢さのある顔立ちゆえに、まさに天使のように見えましたし、実話というのも驚きですが、あの水をかけて目が見えるようになるところとか、キリストその人のような描写もありました。

父はベルトを罰を与えるために使い、己の罪を重ねているように見えます。そしてそのベルトを、デズモンドは止血、命を救うことに使いますね。

デズモンドの信仰は試されますが、そこで彼はとにかく(敵兵すら)救いまくることで、戦争という物自体に正面から抵抗し、それを超える何かを証明しようとしているように思えました。

そして、何度となく私たちを絶望させる、殺しの世界に希望を残したと感じます。

彼に救われた人がいいますが、「奇跡を見た」というのも重要に思えますね。デズモンドの父は確かに生き残りましたが、魂は死に、世界のあまりに残酷な原理を知ってしまったからこそ、何にも光を見いだせなかった

。しかし、デズモンドに救われた人は違う、違うと思いたい。

彼に助けられた者は、父と同じく抗いがたい死と破壊を見てしまったのですが、世界に絶望しなかった。

デズモンドのおかげで、ほんのわずかでもそれらに対抗しうる美しいものを知ったのだとおもいます。

だから、単に命を救ったのではなくて、人生そのものを救済したんだと思いました。

信念や信仰など結局は暴力の世界では絵空事のように思えますが、メル・ギブソン監督はその人の心の力を信じているのだと思います。

死と破壊の世界に負けない、善行を信じたいと思える作品でした。

そんなところで終わりです。感想が遅れているので、既に結構規模や回数が少なくなっていますが、是非劇場で観るべき作品です。それでは、また~

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です