「ほんとうのピノッキオ」(2019)
- 監督:マッテオ・ガローネ
- 脚本:マッテオ・ガローネ、マッシモ・チェッケリーニ
- 原作:カルロ・コッローディ『ピノッキオの冒険』
- 製作:マッテオ・ガローネ、ジャン・ラバディ、アン=ロール・ラバディ、ジェレミー・トーマス、パオロ・デル・ブロッコ
- 製作総指揮:アレッシオ・ラッツァレスキ、ピーター・ワトソン、マリー=ガブリエル・スチュワート
- 音楽:ダリオ・マリアネッリ
- 撮影:ニコライ・ブリュエル
- 編集:マルコ・スポレティーニ
- 出演: フェデリコ・エラピ、ロベルト・ベニーニ、ジジ・プロイエッティ、ロッコ・パパレオ、マッシモ・チェッケリーニ、マリーヌ・ヴァクト 他
作品概要
「ドッグマン」で残酷なのび太とジャイアンの関係性を描いた(?)マッテオ・ガローネ監督が、1883年に出版されてから今も愛される児童文学「ピノッキオの冒険」を原作に忠実な形で現代に蘇らせた作品。
木の人形ピノキオを演じるのは、15歳にてデビューしイタリアで活躍する子役フェデリコ・エラピ。全編においてピノキオの木の特殊メイクとCGにて演じています。
また地位親になるジェペット爺さんを演じるのは、「ライフ・イズ・ビューティフル」で数々の賞を受賞したロベルト・ベニーニ。
その他ピノキオをだまし金貨を奪おうとするネコの役には「ザ・プレイス 運命の交差点」などのロッコ・パパレオ、相棒のキツネは今作の共同脚本もしているマッシモ・チェッケリーニ。
またピノキオを見守る妖精の役にはフランソワ・オゾンの「2重螺旋の恋人」に出演のマリーヌ・ヴァクト。
今作はそのビジュアル面はじめ非常に高い評価を得ており、アカデミー賞ではメイクアプと衣装デザインの2部門にノミネート。
また本国イタリアで名誉あるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では10部門にノミネートの上、5部門の受賞を果たしています。
原作自体は幼少期に読んでいて、そこまで凄い思い入れがあるわけではないのですが、アレンジなどの無い原作そのままの映像化への挑戦であることと、何にしてもマッテオ・ガローネ監督の新作であることから楽しみにしていた作品です。
公開の週はTIFFもあったので行けなかったのですが、その次の週末に鑑賞してきました。
家族連れとか幅広い層が来ていて、結構混んでいました。
〜あらすじ〜
田舎町に暮らす貧しいジェペット爺さんは、ある日町にやってきた人形劇の木の人形に心奪われる。
材木屋の親方から木を譲り受けたジェペット爺さんは愛情込めて木の人形を彫るのだが、その木には魂が宿っており、言葉を発することもできた。
木の人形をピノッキオと名付け、息子として大切にするジェペット。
ジェペットは自分のコートを売り払ったお金で教科書を買い、ピノッキオを学校へ通わせることにした。
しかし好奇心旺盛で良くも悪くも純粋なピノッキオは人形劇のテントが気になり、学校へ行かずに遊びに行ってしまう。
人形劇一団と共に消えてしまったピノッキオを心配したジェペットは、一人で彼を探しに旅に出た。
原典にアレンジを加えない愛と敬意
そもそもこの「ピノッキオの冒険」に対してどれだけの人がどれだけのベースがあるのかで、受け取り方に差が出てくるのかなと感じます。
おそらく大衆的にもっとも知られているのはディズニーアニメーションの「ピノキオ」なのではないでしょうか。
アニメーションということでアクセスもしやすく、童話の原典を読む前に、両親から読み聞かせなどで初めて触れるのかと。
今作は原典である童話を映像化したものであり、そこに忠実です。であれば、ピノッキオの悪ガキっぷりはちょっと衝撃的かもしれません。
私は小学生の頃に図書室で借りた原作を一度読んだことがある程度ではありますが、未だに印象強く覚えています。
ピノッキオの悪童的な描写から割と容赦のない世界。
特に海の怪物に挿絵があったのですが、結構怖くて覚えていますね。
背景的なところはこのくらいにして、ではマッテオ・ガローネ監督はこの1883年から愛されるピノッキオにどうアプローチしたのかをみてみましょう。
単純な話ですが何もしていません。
彼は素晴らしい原典に記されたこと、読み解かれるところをそのままに、それを観せる映像と美術、つまりビジュアライズするところに愛と敬意を注ぎ込んでいます。
予告やポスター、そしてタイトルなどからちょっとデル・トロっぽいダークファンタジーを想像されるかもしれませんが、そんなことはなく。
変な現代的なアップデートとか語り口の変更もありません。
しかし私にはこれこそがこの「ピノッキオの冒険」を映画化するのにあたっての正解だったのではと感じました。
そもそもマッテオ・ガローネ監督は現代を舞台にしながら寓話的な映画を撮っている方です。
寓話、童話はそのままでいいのでしょう。直接的な語であれば、あとは見せ方。
現代の寓話は舞台が現代なので、説得力はいりません。
CGと特殊メイクの究極の融合により作り出される世界
むしろ今作のようなファンタジーこそ、完成された世界観がないと途端にほころびが生じてしまい、入り込めなかったり、現実に引き戻されてしまう恐れがあります。
そこで今作は話をいじくりまわさない代わり、そのビジュアル、美術に全力を注ぎこんでいます。
CGと特殊メイクを非常にうまく融合させ表現する各キャラクターの造形。
木の人形たるピノッキオのメイクはじめ、他の人形たちについても見事でした。
自分には少なくとも、俳優が仮装しているという感覚はなかったですし、またCGでできたキャラだなと思うこともありませんでした。
物言うコオロギだったり、ネコとキツネ、魚もなんですが、人面を持っていながらにキャラクターで、しらけることのない完成された世界が素晴らしい。
音の作りこみについても繊細にできていて、ピノッキオと人形たちのハグシーンとかカチャカチャすごい音。
カタツムリさんの歩く音とか、人物について回る音も現実味があると感じさせてくれます。
そして世界。
私たちの住む世界とは異なるファンタジーワールドではありますが、決して寓話、童話として別世界の他人事ではない距離感です。
アニメーションであれば入りやすいこのビジュアルを、実在感をもってしっかりと実写に落とし込むレベルの高さがありますね。
個人的に最高なポイントは、海の怪物の造形です。もろに大きなサメ、大きなクジラではなくて、大きな魚の化け物。
小学生の時原作を読み、その挿絵が怖かったことを今でも覚えています。
あの海の怪物がモンスターと言えばそうですし、しかしファンタジック過ぎないバランスを持っているのがとても気に入りました。
優れた原典の証明
1883年にこの世界に登場し、実に130年以上経って今なおこうして実写映画がつくられ、語りなおされるピノッキオの冒険。
そこには純真ゆえの正義の揺れ動きや好奇心とその代償、優しさと暖かさに理不尽な運命や暴力など、人間として成長していくための大切なお話が詰まっています。
木の人形が人間になるように、この物語を通して子どもたちは少しづつ成長していく。人間を形成していくお話。
ピノッキオがそうであるように、この作品もマッテオ・ガローネ監督も純真です。
今作の、下手に手を加えないアプローチにより、いかにこの原作が優れた物語であり時代を超越した存在なのかが証明されたと思います。
もちろんそこには、すさまじい完成度の映像という大きな要素がありますが。
原典への愛情と経緯が詰まった作品ですので、原作が大好きな方であればあるほどに楽しめるのではないでしょうか。
これは非常にお勧めの1本でした。
ということで感想はこのくらいになります。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
ではまた次の映画の感想で。
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