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「タクシー運転手 約束は海を越えて」”택시운전사” aka “A Taxi Driver”(2017)

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「タクシー運転手 約束は海を越えて」(2017)

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作品解説

  • 監督:チャン・フン
  • 脚本:オム・ユナ
  • 製作:パク・ウンキョン、チェ・ キソプ
  • 音楽:チョ・ヨンウク
  • 撮影:ゴ・ナクソン
  • 編集:キム・サンボム、キム・ジェボム
  • 出演:ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジョンユル 他

1980年の光州事件時の実話を基に作られた映画。

光州の実情を取材するために来た外光人記者と、彼を案内することになったあるタクシー運転手のドラマを描きます。

監督は「映画は映画だ」や「義兄弟 SECRET REVOLUTION」などで大衆的な人気を得るチャン・フン。

主演は「義兄弟」で監督と組んでいる「パラサイト 半地下の家族」などのソン・ガンホ、また「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」でストラッカーを演じたトーマス・クレッチマンが外国人記者を演じています。

アカデミー賞の韓国代表作品として出品されていますね。

日本でも公開はされていたのですが当時は見逃し。

今回はAmazonプライムビデオでの鑑賞となりました。

タイトルやポスターからはなんだかのんびりした雰囲気が見てとれますが、実際は韓国民主化のきっかけになる光州での事件を描く結構重たい作品になっていますね。

~あらすじ~

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1980年の5月。韓国ソウルでタクシー運転手をしているキム・マンソプは、一人娘の世話をしながらも稼ぎも少なく家賃を滞納していた。

ある日昼飯を食べているところ、ほかのタクシー運転手がソウルから光州まで客を乗せていくだけで10万ウォンという仕事の話を耳にした。

キムはその運転手の話から海外からくるという客を捕まえに空港へ走り、自分こそ迎えというフリをしてその外国人を乗せ、広州へと出発した。

光州への道はどこも軍に封鎖されていたが、どうしても10万ウォンが欲しいキムは、地元のものだけが知る田舎道を利用して光州へ入る。

するとそこで目にしたのは、「戒厳令を取り下げろ」と書かれた看板が至る所にあり、学生たちが自由のためにデモをする様子だった。

乗せてきたのはドイツからの外国人記者ピーターで、彼は学生と合流し取材を始める。

キムは自分には関係ないため前金だけ受け取って帰ろうとするが、デモを行う市民に対し暴虐を働く軍を見て愕然とし、彼らをただ見捨てることに後ろ髪をひかれるのだった。

感想レビュー/考察

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なんていうかつくづく、ソン・ガンホはいい顔をしているなと思う作品でした。

お調子者でちょっと軽薄、それでも人情とか優しさとかを含む顔。いろいろできますね。

実は彼のその振れ幅というか、バラエティに富みながらどんなジャンルにも適応してしまう存在感とテイストは、作品自体ともリンクしていると思います。

この作品もジャンルを切り替えていくものです。

序盤はキムに主軸を置くことで、コミカルさがかなり強調されていますがもちろん後半に進んでいくにつれて光州の実情が浮き彫りになり、シリアスで政治的なドラマが展開されていきます。

そこで、別人になることはなく、どちらのトーンにも馴染んでしまうソン・ガンホ。

一人娘を想う父であることはやめずに、ピーターと奇妙な友情関係を見せていき、人として正しいことをしようという姿にも違和感がないです。

すごい調子いいやつで、でもそこがチャーミングな部分でもあり決して悪人ではない。途中でおばあちゃんを見捨てられず乗せちゃうとか、人情もしっかりと見せていくことで、後半に行動することにもつながりを持たせています。

いずれにしても、ソン・ガンホは全体のまとめ、集約点として素晴らしい存在感でした。

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そんなキムが無知な状態でタクシーに乗せ光州に連れていくことになるのは、トーマス・クレッチマン演じるドイツの記者ピーター。

実はこの作品は軍部圧政による人民弾圧の現場を描く作品でありながらも、このような非常事態における全く出自の異なる二人の男の友情ドラマもあります。

現地において事件に興味のなかったキムと、外国から来た者でありながらもこの現状を取材するピーター。

まず二人には言葉の壁というものがあり、それ自体がそれぞれの行き違いとかミスコミュニケーションを強め、ときにコメディとして作用します。

そこには確かに壁があるんですよね。言葉もそうですが、そもそも二人は志が全く異なる人間なんです。

でも、それが心通わせていくのは、人としての痛みへの共感です。

たとえ相手が何を言っているのかわからなくても、虐げられる様を見て心を痛めないことはありません。

悲しい顔をして何かを語るその背中を見るだけで、たとえ言葉がわからなくても、ピーターはキムの悲しさを感じ取ったでしょうし、またキムもソウルの自分と関係ないと思っていても、軍による凄惨な弾圧を目の当たりにして心が痛むのです。

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ただの契約で、金銭でのタクシー運転だった。名前もよく知らないもの同士で、その場で出会った人たち。

それでも誰かが傷つくときに、自分の中に感情が沸き起こる。助けたい。このことを知らせたい。

序盤のあっさりとしたUターンにはなかった、タクシーの背後にフォーカスするショット。あの煙の中、残してきた者たちへの申し訳なさ、くやしさ、無力感と悲しさ。

互いに「触るな」と言っていたキムの手にそっとピーターの手が重なる瞬間がなんとも感動的です。

この時のほんの2日ほどの時間でも、人の根源にある優しさとか共感する心でつながった二人。

この光州での事件が世界に知られ、韓国の民主化への大きな貢献を果たしたことは事実として、こうしたことが何か組織だったものや大きな存在によるものでないのです。

ただ、タクシー運転手と外国人記者が成し遂げた。市民が、しかもここまで全くかかわっていない人間が、その現状を目の当たりにして行動を起こす。

そんな小さな存在でも人の痛みさえ感じることができれば、成せないことはない。

暖かな交流にすさまじい臨場感の軍による弾圧、終盤のカーチェイスとかジャンル切り替えもうまくエンタメとしても素敵な作品でした。

今回の感想はこのくらいになります。こちらおすすめの作品ですので機会があればぜひ。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

それではまた次の記事で。

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