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「スプリット」”Split”‘(2016)

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映画レビュー
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「スプリット」(2016)

  • 監督:M・ナイト・シャマラン
  • 脚本:M・ナイト・シャマラン
  • 製作:M・ナイト・シャマラン、ジェイソン・ブラム、マルク・ビエンストク
  • 音楽:ウェスト・ディラン・ソードソン
  • 撮影:マイク・ギオウラキス
  • 編集:ルーク・フランコ・シアロキ
  • プロダクションデザイン:マーラ・レパー・シュループ
  • 美術:ジェシー・ローゼンサル
  • 衣装:パコ・デルガド
  • 出演:アニヤ・テイラー=ジョイ、ジェームズ・マカヴォイ、ジェシカ・スーラ、ヘイリー・ルー・リチャードソン 他

一時は迷走しまくりで、どんどん悪くなるなんて言われていました、M・ナイト・シャマラン監督の最新作。2015年の「ヴィジット」では低予算のこじんまり映画に戻ってきた彼の今作は、今どき珍しい多重人格もの。

多重人格者を演じるのは「X-MEN」の新シリーズ出演のジェームズ・マカヴォイ。

そして今作の主人公には、”VVitch”(2015)や”Morgan”(2016)などホラー作品で活躍中のアニヤ・テイラー=ジョイ。彼女はこの先のX-men新シリーズの出演が決まっていますね。

また、「スイート17モンスター」(2016)のヘイリー・ルー・リチャードソンも出ていました。

公開の次の週に観たのですけども、結構混んでいまして。層としては若い人が多く来ていました。

友人の誕生日パーティの帰り道、ケイシー、クレア、マルシアの3人は、見知らぬ男によって誘拐されてしまう。

目覚めるとそこはどこか地下室のような場所で、先ほどの男が神経質そうにこちらを見ていた。その男は何かの儀式に3人が必要だと言い、鍵をかけて部屋を出て行った。

その後なんとか脱出方法を考えていると、ドアの向こうから先ほどの男と、もう一人の女性の会話が聞こえてきた。そして女性が部屋に入ってきたのだが、なんとそれは女の格好をし、女のように話す先ほどの男だった。

ケイシーたちが状況を飲み込めない間に、今度はその男が子供のような話し方でやってきた。

M・ナイト・シャマラン監督の作品としては結構好きな部類かもしれません。

舞台も役者もこじんまりとしていまして、スケールの大きさなんかはないです。それはホラーやスリラーでは良く働く要素ですが、今作は実際そういった部分が重要なものではないですね。

宣伝や予告の感じでは、監禁脱出ものに思えましたが、この作品が描いているのってそういうものではないですね。

そういう面では、最初のリード部分である誘拐のまでは非常に巧く、あのバックショットが実は主観ショットだった不気味さも含めタイトで見事でした。

そしてその一方で、3人を個別に収容するまでの運びがかなりもたついているというか、そもそも逃走シーンも不必要だったりもしています。

あのロッカーとか、後半でも出てくるから必要なのかと思ったら、全然活かせてないじゃん!(笑)

まあそんな作りの歪さもありますが、ここはW主演と言っていいマカヴォイとテイラーをたっぷりと楽しむことがおススメ。

テイラーは顔立ちがすごくホラー映画向けなのかな。どことない神秘的な部分とか、表情をあまり変えずに眼だけで繊細に演じてみせたり、声の出せない状況などですごく光る女優でしたね。

そしてマカヴォイは、さすがに23人とは言わないものの、それでも複数の人格を、巧みに演じていました。ただ一人○役というならば、そこまで感心しないのですけども、今作でマカヴォイがやっていることは、これまた私の好物である、”○○を演じている△△を演じる”という多層的な演技なのです。

中盤でリーダー格の人格を演じている、どことない違和感を漂わせる上手さ。そしてバレたときにあっさりとそのベールを脱ぐという演技。

さらにはリアルタイムに人格が入れ替わり、ワンカット内でちゃんと、変化したことが、しゃべる前に分かるという素晴らしいショーを見せています。お見事。

シフトしていく命題の、その切り替えに関しては良いのですけども、やはり組み上げる部分で無駄があったかなと思いました。

そしてやはりシャマラン監督はサイコスリラーのように繊細な中でも軽々とファンタジーへの一線を越えていきます。

テイスト的にはユーモアが入る部分もあり、決して心底恐ろしいホラーではないです。そして何かエクストリームシネマな描写があるかと言えば、そうでもないです。マカヴォイがヘイリーをむさぼり喰らう様をしっかり映すとかしてほしかったかもw

で、何を描いていたかと言えば、この作品、傷付いた魂の共鳴だったのです。

ノーマン・ベイツなマカボイ演じる多重人格者は、その環境に適応し自分を守るために数多の人格を生み出してきました。そしてケイシーの方も、サバイバルを通し自分の傷と向き合います。

彼女の輪の外にいる姿も、最後には理解できますね。もはや人を信用していないのでしょう。残酷な人間、環境に囲まれた人が、ただ生き残るために強くなる。

そして生まれたのが、ただ守るだけでなく、虐げてきた者をひねり潰し、二度と誰にも手を触れさせない圧倒的な存在。

この分裂(スプリット)にはすごく切なく哀しい物語が横たわっていました。

最後のケイシーの表情を見るに、彼女は今回の件で強くなったと思います。彼女は生きて帰って、親に抱きしめてもらうようなことはできない。

しかし、彼女もまたどこかでスプリットし、より強くなったケイシーがいると思いました。そのケイシーはもう、好きに弄ばれるようなことはないでしょう。

シャマラン監督はちょっと序盤にはもたつきがあるのですが、プロットのシフトの意外さは楽しかったですし、込められた優しさにはちょっと感動してしまいました。

役者の演技を堪能することも見どころですし、結構おススメの作品でした。

思っていたものと違う方向に転がっていく、それが面白い映画って良いですよね。「こういう話だったのか・・・」というところにある感動は、個人的にすごく貴重な体験で好きなのです。

そんなところで、感想は終わり。それでは、また。

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