「世界はリズムで満ちている」(2018)
- 監督:ラージーヴ・メーナン
- 脚本:ラージーヴ・メーナン
- 製作:ラター、フランク・プリオット
- 音楽:A・R・ラフマーン
- 撮影:ラヴィ・ヤダーブ
- 編集:アンソニー
- 出演:G・V・プラカーシュ・クマール、ネドゥムディ・ヴェーヌ、アパルナー・バーラムラリ
第31回東京国際映画祭、ワールドフォーカス部門出品のインドからの音楽映画。
監督はマニ・ラトナム監督の下でキャリアを歩んできたラージーヴ・メーナンで、脚本も手掛けています。また主演は俳優でありまた歌手や作曲など音楽の才能にも長けるG・V・プラカーシュ・クマール。
今回の映画祭ではQA付きで、監督のラージーヴ・メーナンさんと製作を務めたラターさんが登壇しお話してくれました。
インドの伝統的な打楽器職人の家に生まれたピーターは、若くして音楽の才能を開花しており、その打楽器の巨匠の下に弟子入りを果たし、修行に励んでいた。しかし、不可触民という彼の出自が道を阻み、陰謀もあって彼は音楽と家族どちらからも見放されてしまった。
かくして放浪の旅へと出るピーターであるが、その中での出会いと、世界中どこにでも見つけることのリズムを感じ取り、彼はドラムを打ち鳴らし続ける。
インド映画はあまり観たことがなく、今年公開された「ダンガル きっと強くなる」がとても良かったというだけの理由で鑑賞しました。
実際、インドのポップカルチャー事情が登場し、大人気のアーティストの派閥争いとそれによるコメディが織り込まれてはいました。
しかし、だからといって今作がインドに詳しくないと理解しにくいかといえば、決してそんなことはありません。
出てくるのは確かにインドの伝統音楽で、私は観た翌日にはあの太鼓みたいな楽器の名前すら忘れていますけども、それでも重要なのはそういった隔絶を越えて人が繋がりまた一つの集合になるということかと思いました。
映画は全編にわたってコメディが強く、主人公ピーターやライバルとなっているキャラに、悪役キャラまでどこかかわいらしい感じがあります。
ピーターはどこかボンクラで幼いような無垢さや純粋さを感じる好意的なキャラで、対峙することになる元先輩は完全ヴィランになるんですが、昔の漫画の悪役みたいに悔しがったり怒ったりの表現がオーバーで、笑って見ていました。
ただ、コメディを通しながらも随所で隔絶が丁寧に入れ込まれ語られていたのも事実です。
まずピーターの所属する階級。
これがとても障害になっているようで、そもそも楽器の演奏や、例え上手だとしても演奏会に出ることができる階級ではないようです。触れることが汚らわしいような扱いも受けていて、やはり不当で理不尽な格差が感じられます。
ピーターが悪い部分だけではなからこその、後のカタルシスが生まれていましたね。
他にも、労働階級(楽器作りの職人)であるために、芸術(楽器を演奏する側)への参加ができないことは、一度ピーターが里帰りをした際の歌で大きく語られます。
いつになれば太鼓作りの私たちの時代が来るのか。
また、先生からの破門を言い渡されるきっかけであるのも、現代的なテレビの音楽ショーです。
伝統とポップカルチャー、新旧、芸術と娯楽の隔絶にも触れています。
そうした隔絶に対してピーターが革命を起こして新たな時代を示す作品であると思いました。
ラストの圧巻の演奏対決シーン。
音楽の経験のある方び演技の指導をした方が多いとQAではお答えしていましたが、レベルが高くてスゴいです。音響も打楽器の打ちならしを振動で伝えてくるほど迫力がありました。
あそこでは本当に一切の台詞がなくなって、ピーターの奏でるリズムと、それに重なるインドの様々な地方の情景が映し出されます。
ピーターがインドのすべてのリズムを纏ってぎとつにまとめあげ、先生のリズムを受け継ぎながら自分自身のリズムとしている瞬間です。
伝統音楽とポップミュージックの世界、カースト、インド国内のさまざまな地方文化。それら全て含めてインドであり、隔絶されるべきではないのです。
ピーターは全部を肯定して見せ、そのリズムはこの映画を観ている観客すら巻き込みます。誰でも、どこの国の人でも文化を背景としていても、リズムは普遍的です。
リズムとは、シンプルです。
だから誰でもアクセスできてかつ直接的なんです。
QAでも監督から話があったのですが、リズムを選んだのはそこが大事だったからとのこと。クラシックや歌では、瞬時には人をまとめられず、どうしても一連の全てを聴かなくてはいけないし、やはり言語の壁が出てきてしまう。
それに対してリズムであれば体が反応し、ライブ感があるんですよね。
魂に響き渡るリズムは世界に溢れている。どんなものでも人でもリズムは絶え間なく続く。私たちもピーターのように自分のリズムを見つけて奏でていかねば!
コメディ調で楽しくも、インドの抱える壁とそれを越えていく音楽の普遍性を強く感じる作品でした。日本公開は実際難しいのか分かりませんが、劇場で体感するための作品だと思います。一般公開を願います。
今回はこのくらいで感想はおしまいです。それではまた次の記事で。
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