「スイート17モンスター」(2016)
- 監督:ケリー・フレモン・クレイグ
- 脚本:ケリー・フレモン・クレイグ
- 製作:ジェームズ・L・ブルックス、リチャード・サカイ、ジュリー・アンセル
- 製作総指揮:キャシー・シュルマン、ワン・チョンジュン、ワン・チョンレイ、ジェリー・イエ、ドナルド・タン、ロバート・シモンズ、アダム・フォーゲルソン、オーレン・アビブ
- 音楽:アトリ・オーバーソン
- 撮影:ダグ・エメット
- 編集:トレイシー・ワドモア=スミス
- 美術:ウィリアム・アーノルド
- 衣装:カーラ・ヘットランド
- 出演:ヘイリー・スタインフェルド、ウディ・ハレルソン、キーラ・セジウィック、ブレイク・ジェナー、ヘイリー・ルー・リチャードソン 他
これまでにも色々とあった、ティーンネイジャーを主役に置いた青春もとい思春期映画。
今回はこれが初の長編作品となる、ケリー・フレモン・・クレイグ監督によるものです。主演にはコーエン兄弟の「トゥルー・グリッド」(2010)で数々の賞に輝いた、ヘイリー・スタインフェルド。また、学校の先生にはウディ・ハレルソンが出演。
作品の評判自体は北米公開時から聞いてはいたものの、公開はやはり遅かったですね。そして結構邦題がダサいとの声がありました。まあ邦題が良いことなんてないですし・・・
公開日に観たのですが、以外にもそんなに人が入っていた感じでは無かったかも。ある程度観客はいたのですが、邦画、そして「美女と野獣」に流れているようでした。
幼いころから、自分にコンプレックスのあるナディーン。唯一自分を理解してくれていた父が他界して数年、17歳の彼女にはたった一人の友達、クリスタしかいなかった。
しかしある時、ナディーンとは正反対にハンサムで人気者の兄ダリアンと、そのクリスタが交際を始めたのだ。
ただでさえ勝ち組の兄に、親友まで奪われたと憤るナディーン。世界にたった一人になったような彼女は、暴走を始めるのだった。
まずリードとなるヘイリー・スタインフェルドがすごく魅力的でした。
魅力的というのはかわいいとかそういう事ではなくて、ナディーンのキャラクターが絶妙に惹かれるという事です。
正直言ってこのキャラクターの行動も言葉も、まあ結構酷いというか。
ナディーンは「JUNO/ジュノ」(2007)のエレン・ペイジのようなスマートな女の子です。頭の回転が速く、口達者。しかし今作ではその的確な批評と辛辣さ、不満の吐きだしが押し出され、もちろんそういった面だけを観ていると、とても仲良くなりたいタイプの女の子ではありません。
先生にしょっぱな授業の間違いを指摘し、禿げをつついたり。弱点を突くのが得意すぎるw
それでも嫌悪感を感じはしませんでした。やはりヘイリーの時たま見せる純粋なかわいさもありますが、自己嫌悪や猛烈な反省と後悔もあるからです。とにかくやり場のない、空回りの苦悩が、しっかりとナディーンへの共感を引き出すのではないかと思います。
共感というのはこの作品では私としては非常に重要な部分に感じました。
表面的にはすごく笑えて、迷える17歳のドタバタドラマですが、根底には青春映画どころか、人生のあらゆる側面が詰まったものと感じました。
ナディーンの視点から多くが語られる前半~終盤まで、確かに彼女の苦しさとか切なさを周りが理解していないという状況は描かれます。しかしその中に着実に、ナディーン以外の人間のちょっとした部分も置かれているのです。
典型的なタイプとナディーンに描写される兄も、学校でクリスタと会うところでは純粋に恋愛模様として描かれますし、ナディーンに想いを寄せるアーウィンの一喜一憂もかわいく描かれます。
兄ばかりかわいがる母は夫の喪失を抱え込めずにいて、そのはけ口となる兄が背負っていた物をついにもらす。
「お前だけが不幸だと思うな。」
兄貴がどうしてあそこまで怒ったのか、それが後々に痛烈に伝わりますね。
自分のコントロールもできないのに、娘を制御できるわけはない。それでも母であるために責任だけは感じてしまう。
不安定な家族の中、自分だけで支えなくてはと、私用も投げて必ず駆けつける兄。
ふとしたところに、両親の不在という孤独を見せているアーウィン。
身勝手なことを言われつつ、終始ナディーンを悪く言わず、それどころか心配し仲直りしたそうなクリスタ。
本当に誰しも苦しんでいる。
この映画のどの人物のどの感情にも、やはりどこかしらに自分の欠片を感じます。だから鏡のようで恥ずかしい部分もありますが、絶対切り捨てられないし、応援したくなる。
先生はナディーンに一番似ていて、もしかすると一番自分を変わってくれると思うから、彼女は何かと行ってしまうのかも。そして自分と同種と思った彼に、家族がいる姿をみて、ナディーンはすこしムッとしますが、裏切りとは思っていないように思えました。
むしろ、非常に嫌悪していた自分のような人間でも、幸せになれる可能性を見せてもらっていると感じました。
どうしてもそうなってしまうんですよね。ナディーンにもそしてその他の人物にもすごく自分を感じる。
すごく笑えてすごく恥ずかしい作品ですが、リードの素晴らしい個性も楽しめ、そして青春映画としてはもちろん、それだけにとどまらずに人生が詰まった作品。
輪に入れなかったのは、自分から人を遠ざけていたから。
人にやさしい言葉をかけて、そうしてその人によって輪に招かれるナディーンが、とにかく嬉しくて。
17歳のトゲ(エッジ)は見事に描かれ、そしてそれは欠片という意味でも観客が共有できるものでした。青春映画としてもそして人生映画としても素敵な作品。おススメです。
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