「ザ・メニュー」(2022)
作品概要
- 監督:マーク・マイロッド
- 脚本:セス・リース、ウィル・トレイシー
- 製作:アダム・マッケイ、ベッツィー・コック、ウィル・フェレル
- 製作総指揮 マイケル・スレッド、セス・リース、ウィル・トレイシー
- 音楽:コリン・ステットソン
- 撮影:ピーター・デミング
- 編集:クリストファー・テレフセン
- 出演:アニヤ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト、レイフ・ファインズ、ホン・チャウ、ジャネット・マクティア、ジョン・レグイザモ 他
「運命の元カレ」などのマーク・マイロッド監督が、とある高級レストランでふるまわれる衝撃のフルコースと、そこに巻き込まれた客を描くスリラー映画。
主演は「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」などのアニャ・テイラー=ジョイ。また高名なシェフの役を「キングスマン:ファースト・エージェント」などのレイフ・ファインズが演じます。
その他にシェフの右腕として働くスタッフにはホン・チャウ。客側にはニコラス・ホルト、ジョン・レグイザモ、ジャネット・マクティアらが出演しています。
もともとこの話、脚本家のセス・リースが実際にノルウェーのあるレストランを訪れて着想を得たそうです。プライベートアイランドにあるため、食事がおわるまでは島から出れなかったそうです。
一つの舞台をもって展開するミステリーホラーということで古風な設定もありますが、やはり豪華な出演陣に期待していたので公開を楽しみにしていました。
10月末~の東京国際映画祭でも先んじてプレミアがありましたが、正直数週間後に一般公開もあるのでそっちはスルー。
実際に公開された週末に早速観に行ってきました。
まあ人の入りはそこそこって感じでした。
~あらすじ~
孤島にある高級レストラン。
高名なシェフ、ジュリアン・スローヴィクが、選ばれた顧客にだけフルコースを振るまい、決してそこ以外では食事ができないプレミアムな場所。
マーゴはスローヴィクの熱狂的なファンであるタイラーに誘われ、この孤島のディナーにやってくる。
他の客は映画スターや資産家、実業家、さらに有名な料理評論家。
スローヴィク本人から料理とコースの説明がなされるなか、島をコンセプトにした洒落た料理、パンのないパンプレートなど奇抜で皮肉な料理が出てくる。
タイラーはシェフの料理に感激しているが、マーゴは冗談がきつすぎるコース料理に違和感といら立ちを覚えていた。
そして新しい料理の説明で、衝撃的な展開が用意されていた。
感想/レビュー
贅沢な見た目のジャンクフード
上品な見た目に豪華な俳優陣を集めているため、パッと見た印象では格式高いような感覚を受けますが、系譜としては割りとB級ホラー映画のそれです。
むしろ荒唐無稽なデスゲームを、非常にきれいに飾り付けていると言ったほうがいいでしょう。
最初のうちに、「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」に似ているテイストと分かれば、あとは下品さやど畜生具合も合わせて楽しめました。
結構ブラックユーモアに溢れているというか、笑えるタイプのホラーです。
戦慄の・・・というわけでもなくて、結構楽しんでライドしていくホラーであり、アホらしい登場人物たちもあって、予告などの情報を遮断して鑑賞に臨むのが良いと思います。
基本的な設定は、殺人鬼によってある共通点から集められた標的が次々にゲームのような仕掛けで毒牙にかかっていくようなもの。
映画のほとんどは孤島、いやむしろレストランの中で展開されていく。
そう見ていくとコナンとか金田一少年を見ている気がします。
しかしもちろん、異物というものの混入によって舞台は狂っていく点があるわけで、それが主人公のマーゴなのです。
マーゴだけがこの作品において、庶民であり与えるような奪われるような存在であり、そして根底にある創造”への理解を示していきます。
奇怪で最高なレイフ・ファインズ
さて、この地獄の晩餐会を主宰するのはスローヴィク。レイフ・ファインズがヴォルデモート卿以来の気味の悪い圧力で魅了していくれます。
最初の島のツアーで彼の家が映し出されたときから、若干のノーマン・ベイツ感があったのですが、母親をこのフルコースに招待していたり、若干衝撃を受けたら母の方に頭を垂れたりと、やはり「サイコ」の意識はあるのかもしれません。
ファインズは基本的にマッチョな暴力も振るわず、身体的な意味での脅威はないのですが、その言動の地味な丁寧さと口調が変に気味悪いんです。
創造を題材にした復讐劇
スローヴィクが象徴するのはクリエイターでしょうか。
彼は異常なこだわりをもって料理を作ります。
しかもそれをビジネス商売として展開しているのではなく、むしろ展示や展覧会のようにかなり限定的にしか人に見せない。提供しない。
今作のフルコースは全員を殺していくためのカウントダウンですが、これは創造を職業とする者による、その創造を邪魔したり汚す者たちへの復讐劇だと思えます。
スローヴィクは徹底した芸術家であり、彼の芸術家としての立ち位置をダメにした人間をターゲットにしています。
作品を批評するだけの辛口評論家、そして金さえあれば作品を享受できると万人から機会を奪う金持ちたち。
創造する楽しさを奪い、創造は一切しない者たち。
これは映画そのものに置き換えれば、批評家や製作陣、スタジオなどの会社側に向けての皮肉かもしれませんね。
さらにタイラーは熱狂的な映画ファンとも言えます。ウンチクを並べて映画の撮影秘話などをひけらかす。
映像の魔法が宿った映画について、ああだこうだと裏側を見せられ過ぎると辟易するやつですね。
料理もそうですが、摩訶不思議でミステリアスなままが美しいこともあるのです。
そうしてみるとマイロッド監督の想いなのか皮肉なのか、違った点での毒が感じられておもしろい。
何かをするなら楽しくするべき
その中で異物混入であるマーゴですが、彼女だけが指揮をとるあの手合わせをスローヴィクに対抗して行い、場の支配権を争います。
そして彼女だけが唯一、スローヴィクに創造する=料理する楽しさを純粋に思い出させることで脱出する。
誰かの利益のためとか、制約の中でとかではなく、無理強いでもない。
「私は自分が食べたいときに食べる」と同じく、作りたいときに作りたいものを作る、それが創造の基本。
マーゴの奉仕の件についても、それ自体を否定せずむしろ、楽しくなくなってもやらなければいけない点を批判する。
タバコは吸いたいときに吸うんですよ。
良質なルックを持ちつつやってることがB級で、でも根底のテーマが共感できるホラーでした。
めちゃくちゃ怖いってわけでもなく、コメディ調のブラックユーモアがあるので見やすいのも良いところ。
アニャはしかしこう、いつもホラーで輝き、なんだかんだ血まみれになりますね。
というところであっさり目ですが、感想は以上。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
コメント