「フェアリーテイル」(2022)
作品概要
- 監督:アレクサンドル・ソクーロフ
- 脚本:アレクサンドル・ソクーロフ
- 出演:イゴール・グロモフ、ヴァフタング・ クチャヴァ
ロシアの映画監督アレクサンドル・ソクーロフが、黄泉の国に集まって話す歴史上の独裁者たちの模様を、叙事詩的な映像美をもって作り出したファンタジー映画。
東京国際映画祭のガラ・セレクションにて上映されました。
詳しいことは分からなかったですが、いくつかのスチルから見える幻想的な画、またその題材にも興味が惹かれましたので鑑賞してみました。
実際の独裁者たちの映像に関して、さまざまなフッテージを交えながら、最新の技術であるディープフェイクも使ってしゃべらせているみたいですね。
~あらすじ~
死後の世界、黄泉の国。
そこではかつて地上で独裁政治を敷いた権力者たちの亡霊が、神の国への扉の付近でうろつき続けている。
彼らは自分の審判の日の順番が来ることを待ちながら、互いに生前の思想を垂れ流し会話をする。
アドルフ・ヒトラー、ウィンストン・チャーチル、ヨシフ・スターリンらが集いそれぞれの思いのたけを垂れ流し、民衆の陰に意気揚々とする。
感想/レビュー
クローソフ監督の過去作も観たことがなく、作家性などについては不明ですが、過去にもこうして歴史上の人物たちを主軸にした作品を手掛けているようです。
「モレク神」(’99)ではヒトラー、「牡牛座 レーニンの肖像」(’01)ではレーニンを描いていて、外から見たというよりはその人物を一人の個人としてとらえていく監督とのこと。
かみ合わない会話から見える個々の人物たち
ただ鑑賞時はあまりその辺知らなかったもので、率直に言うと人物たちのミスコミュニケーションが肝なのかなと思いました。
とにかくみんなが勝手にしゃべっています。
それこそアンサンブルもなく、会話すら成り立っているのかもわからないほどに。
ディープフェイクも交え、フッテージから様々に登場しヌルヌル動く独裁者たちを眺めていく映像の妙な力がありながら、本人たちはまあ自由ですね。
ヒトラーもスターリンも言葉数こそ多いのに、ドッジボールかというくらいに好きなことをただ言っているだけでした。
つまり、こうした思想の強いというか偏った人物たちは、死んでも治らないということかもしれません。
多くの人間を死に追いやってなお、生前の思考をそのまま持っている。
そして誰と対話しようとも決してそれに変化はないのです。
どうみてもお前たち地獄行きだろうというような道でも、なぜか王道のように意気揚々としていますし、亡者の群れで怖いと思うような群衆を前にしても、自分の信奉者だといって疑わない。
どうしようもないというのが適切な言葉でしょう。
観客との会話
それだけで観るとまあ面白い試みであると感じてはいたのですけれど、私としては途中からあまりおもしろみを感じづらくなりました。
理由はその会話のなさ、対話のなさが観客との面でもない気がしたからです。
会話にならない会話劇と、神話的ななんとも形容しがたい、恐ろしくも美しくもある映像。
それらをもって観客に語りかけていることが分かりませんでした。
ちょっと笑いを誘う点などもあって、感情的な共有も感じられはしたんですが、実験的過ぎるような気がします。
劇場公開は未定でしょうけれど、短いながらも眠くなりやすいタイプなのでその辺注意かもしれません。
今回はあっさりとした感想です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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