「エミリー・ザ・クリミナル」(2022)
作品解説
- 監督:ジョン・パットン・フォード
- 製作:タイラー・デビッドソン、オーブリー・プラザ、ドリュー・サイクス
- 製作総指揮:デクスター・ブラフ、ケビン・フラニガン、アンガス・ウォール、ケント・クベナ、ローウェル・シャピロ、マイク・ディル
- 脚本:ジョン・パットン・フォード
- 撮影:ジェフ・ビアマン
- 美術:リズ・トゥーンケル
- 編集:ハリソン・アトキンス
- 音楽:ネイサン・ハルパー
- 出演:オーブリー・プラザ、テオ・ロッシ 他
多額の学生ローンをかかえ、前科を持っていることから就職もうまくいかない女性が、ダミー・ショッパーの闇バイトの世界に足を踏み入れていくクライム・スリラー。
ジョン・パットン・フォード監督が長編デビューを果たす作品です。主演は「マイ・オールド・アス 2人のワタシ」などのオーブリー・プラザ。
さらにその闇バイトのあっせんをしている男役には「セキュリティ・チェック」などのテオ・ロッシ。
今作は劇場公開はされていませんが、日本では配信公開されている作品。NETFLIXで見つけたので鑑賞して観ました。なんかオーブリー・プラザの主演作の中でも高い評価を得ているとか、彼女の出演作で観るべきリストとかに入っていた作品の気がします。
~あらすじ~
ロサンゼルスで暮らすエミリーは、学生ローンの返済に追われながら個人事業主の配達員として働いていた。前科があるために安定した仕事に就けず、夢だった芸術家への道も遠のくばかり。
そんなある日、知人から時給200ドルの仕事を紹介されるが、それはクレジットカード詐欺だった。迷いながらも金の必要性に駆られ、次第に危険な世界へとのめり込んでいくエミリー。
やがて、犯罪組織のリーダー、ヨーセフの魅力にも引き寄せられ、彼女は後戻りできない道を進んでいく。
感想レビュー/考察
オーブリー・プラザのハマり役
オーブリー・プラザって美人で面白くて、なんでもできる俳優だと思います。今作でもそれを証明している。
今回は学生ローンに苦しめられ、犯罪に手を染めていく女性を演じていますが、すごくハマっていると感じました。
全編を20日でLAロケにより撮影されたこの犯罪ドラマにおいて、力強いリアリティをくれる演技。彼女が主演として高く評価されているのも納得。
後述しますが、彼女は環境に対して適応して、攻撃されれば強く反撃するサバイバーなのです。
弱者から搾取していいと定義されるアメリカ社会
主人公のエミリーは、就職のための面接をするシーンでOPに登場。
そこで「君のことを調べていないから、いろいろと質問したい。」と言われ、あれこれと聞かれていく。そのうち犯罪歴に関しての質問が出てきます。
実はエミリーは前科を持っており、それが原因でこの面接は破談になりますが、しかしそのプロセスは今作の社会批判的な側面をうまく表現しています。
はじめに何も知らないと言いながら、実はエミリーの身辺調査はしており前科を持っていることは知っている。それでもだまし討ちのように尋問し、エミリーが自己申告していないかのように批判していく。システムは支援すべきところ、人を追い詰める。
学生、労働者。何もしなければ喰い尽くされるまま
機能不全のシステムはそこかしこに描かれる。
エミリーが働くフードデリバリーのオーナーは「労働組合に相談しろ。」と言います。それは労働組合が機能していないことを知って、相手がどうしようもないから出てくる発現。
エミリーが面接を受けた会社の女性は「ここで働くならまずは見習い。見習いは半年間無給よ。」と言い放つ。どうしても仕事が必要な人間は、こんなふざけた条件でも飲むと知っているから。
搾取はできる強いものが、されるしかない弱いものに対して行う。それが弱肉強食の世界であり、当然の摂理。アメリカ社会なのです。
エミリーが金銭的に困窮する原因である学生ローンは、おそらく日本でも奨学金制度が給付ではなくローンタイプなことでも話題になります。しかし、アメリカではもっと厳しい。
そもそもアメリカでの学費は高騰の一途をたどっていて、ある程度の私大では年間で500万円ほどかかる。
アメリカは卒業も難しく留年もあり得るので、卒業までの学費単体でもかなりかかる。もちろん、ここに生活費や教材費他がかかるので、金持ちの子どもしか大学に行けないのも自然です。
気を抜けばむさぼり尽くされるアメリカ社会において、エミリーはサバイバーなのです。
舐められたら叩きのめす
前科のもとになったのは、元カレへの暴行。すこしでも舐められたら彼女は攻撃を持ってでも自分の地位を守ろうとする。
そんな彼女が足を突っ込んだのが、ダミー・ショッパーの仕事です。これは現実にある詐欺の一つで、盗まれたクレジットカードを利用して高額商品を買う行為です。
買った後はそのまま保有しても良いですし、転売することで金銭を得てもいいわけですね。
エミリーは弱い立場にいて搾取される側でしたが、チャンスさえあれば、搾取する側になるのです。これは彼女自身が悪いと言い切れない。このようなシステムがもともと欠陥だらけなのです。
テレビを買ってきてから、男たちに売るシーン。制限なしのクレカを使って車を買うシーン。
いずれも、エミリーに対して、相手は優位に立とうとする。
男たちはテレビを約束よりももっと低い値段で買おうとするし、車を売る男もエミリーを怪しんだ挙句殴りつけてくる。そこでエミリーは負けない。
終幕で報復を遂行したのもエミリーで、最終シーンでは彼女がダミー・ショッパーのあっせん元として労働者たちに語り掛ける。
彼女は食われる側から食う側に回ったのです。
スリリングで緊張感があり、むき出しのこの世界をあらわに。そこには学生ローンや労働者への搾取構造も込められている。主演で輝くオーブリー・プラザも素晴らしく、とても見ごたえのある作品でした。
今回の感想はここまで。ではまた。
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