「ナイブズ・アウト: グラスオニオン」(2022)
作品概要
- 監督:ライアン・ジョンソン
- 脚本:ライアン・ジョンソン
- 製作:ラム・バーグマン、ライアン・ジョンソン
- 音楽:ネイサン・ジョンソン
- 撮影:スティーヴ・イェドリン
- 編集:ボブ・ダクセイ
- 出演:ダニエル・クレイグ、ジャネール・モネイ、エドワード・ノートン、デイヴ・バウティスタ、キャスリン・ハーン、ケイト・ハドソン、ジェシカ・ヘンウィック 他
ライアン・ジョンソン監督によって生み出された、クラシックでありながらも現代的なミステリー「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」。
その名探偵である登場人物ブノワ・ブランを主人公に、第2作品目となるのが今作。
ブランを演じるのは引き続き、「007」シリーズのダニエル・クレイグ。
新たな事件は大富豪のプライベートアイランドを舞台とし、旧友たちが集まるのですが、中心には「マザーレス・ブルックリン」で監督デビューもしたエドワード・ノートン、ドラックスでお馴染みのデイヴ・バウティスタ。
その他歌手でありまた「アンテベラム」などのジャネール・モネイ、「10日間で男を上手にフル方法」で共演していたキャスリン・ハーンとケイト・ハドソン、「マトリックス:レザレクションズ」など活躍中のジェシカ・ヘンウィックらが出演。
多くの豪華俳優に加えて、カメオ出演にもイーサン・ホーク、ジョセフ・ゴードン・レヴィットらがいますし、ちょっとしたところであのセリーナ・ウィリアムズも顔を出していたり。
前作は個人的には年間ベストにも入れるほど好きな作品であったため、今作もすごく楽しみにしていました。
NETFLIX製作になっているので基本的には配信公開ですが、アメリカでは劇場公開もされていたようです。残念ながら日本は配信のみ。
クリスマスに合わせての公開だったので配信で早速鑑賞しました。
「ナイブズ・アウト: グラスオニオン」のNETFLIX配信ページはこちら
~あらすじ~
パンデミックに見舞われて自粛の続いている世界で、大富豪のマイルズ・ブロンは旧友たちを自分の所有する島に集めてバカンスパーティを開く。
謎解き付きの招待状には、この島でマイルズが殺害される事件を用意しており、そのミステリーに挑戦するというゲームが書かれていた。
そんなわけでマイルズの仲間たちは島に集合するが、その中には高名な探偵であるブノワ・ブロンも含まれていた。
招待したはずのない彼の存在にマイルズは混乱するが、もっと彼を緊張させたのは、彼が大富豪になった切っ掛けである会社アルファの設立パートナー、アンディの存在だった。
アンディはマイルズの新プロジェクトの危険性を指摘し、突き進むのであればと袂を分かっていたのだ。
アンディと他のメンバーもなにかしこりを抱えている様子で、ブロンはそれぞれを注視し始めた。
感想/レビュー
王道ミステリーの脱構築
ライアン・ジョンソン監督はまたやってくれました。
前作を観たときに、私はこういった作品があるからこそ、ミステリー映画というジャンルを観ることをやめないし、そしてこのジャンルは不滅であると感じました。
前作はまさにミステリー、謎解きというものの楽しさを思い起こさせてくれた素晴らしい作品でした。
そし手今作でもまた、ライアン・ジョンソン監督は王道な殺人ミステリーの舞台を使いつつも、また新鮮な視点や構造をもって脱構築をしてのけました。
ある富豪が所有する島、訳ありの友人たちの集い。
この隔絶された舞台において起こる殺人事件、暗転やシルエットで作る殺人現場など、敷かれているのはもう誰しもが見慣れたようなものです。
ただそこで、非常に挑戦的な仕掛けを用いて、ライアン・ジョンソン監督はまさに”破壊者”となっています。
探偵側がリードするというぶっ壊し
元来、主人公になる探偵というのは洞察力は優れているとしても、得ていく情報も持っている情報も観客と共有しているものです。
情報の先を行っているのは他の登場人物たちであり、そしてもっともリードするのが事件の犯人。
しかし今作ではまさか探偵の方が情報におけるリードを持ったまま話が展開しました。
中盤までは普通のミステリーの構造を持ちながら、そこから急に視点を変えて、これまでの全ての意味合いが解き明かされていく。
そういう意味で、半ばで一度謎解きがあると言っていいのでしょう。
伏線という要素の正しい使い方
序盤のマイルズのミステリー舞台をものすごい速さでぶち壊してしまうブロンにはコメディのユーモアもありますが、一方で彼の才能の提示でもありました。
しかしそれがさらに、彼の本来の目的へのスピードアップであったと理解できます。
一つの出来事自体に意味がしっかりあり、そのままで完結している。
しかしそれが別の情報を持ってから見直す、思い返すと、また別の意味合いが見えてくる。
これこそが、”伏線”であり紐解かれたときの、その観客自身の知識理解で”分かる”瞬間のエクスタシーであり、それは格別です。
伏線というのが意味の分からない、次への布石(広告)になってしまっている昨今の創作物世界を見るに、これほどまでに見事な扱いをしていることには感謝しかないです。
軽快なコメディトーンに社会性をブレンド
そんなジャンルの王道を自分で歩きながら壊していく今作。
全体のトーンは引き続きコメディ交じりになっていますのでそこもまた見やすいところ。
マイルズ含めてみんな頭の弱い人間ばかりなのですが、落ち目の元モデルにマチズモまっしぐらの配信者などキャストも楽しんで演じています。
前作もあの屋敷の中に小さなアメリカを再現していましたが、今作でもそのような社会的な設計が感じ取れます。
マイルズはイーロン・マスクではないかなんて声がアメリカでは上がっているようですが、巨大なテック企業の社長でありつつも、ほとんどオリジナリティのあるアイディアもなくまた幼稚で稚拙。
デイヴ・バウティスタ演じるデュークも序盤の配信シーンからイカれた家父長制主義者であるとわかりますが、チンポコあたりにその象徴たる銃を装備している徹底的なアホさに笑えます。
こんな感じのバカタレどもぞろいなので、前作と同じく何がどうなっても「ざまあ」と笑えるのもストレートに心地よいです。
全員が成功者とされているものの、実際には・・・というのはアメリカにおけるセレブリティや富豪、上位1%の真の姿というところでしょうか。
虐げられた者の逆襲
破壊者気取りの泥棒の家城において、お望み通りの破壊を行うラスト。
前作と同じく、虐げられた女性こそブロンが助ける相手。
誰も気にしない小さなものから破壊し、そして徐々に大きなものを、グラス・オニオンを、最後には誰も破壊してほしいとは思わないものまで・・・
最終的にブロン自身が何かするのではなくて、あくまでも自分の手でケリをつける展開も、現代版の物語として素晴らしい判断だと思います。
前作に比べて、圧倒的善意とかなにか熱くなるようなものではなかったですが、今回のストーリーも好きでした。
謎解きを映画でやる答え
観て、聴いて。一度過ぎたシーンが別のシーンを挟めば異なる意味合いになって。
まさに映像、音、その編集が織りなしていく映画だからできる謎解き展開。
ダニエル・クレイグの絶妙な訛りが耳に残り、バカ者たちのすったもんだも見つつ、謎が説かれていき1つの事象が複数の顔をのぞかせる楽しさに溢れる。
まさに今作はホリデーシーズンに家族そろって、みんなで楽しむにふさわしい素敵な作品でした。
今後3作目も予定されており、NETFLIXはライアン・ジョンソン監督×ダニエル・クレイグコンビのこのミステリーシリーズにさらにお金をかけていくようですね。
もらった予算を駆使して規模ばかり大きくせず今のテイストで楽しいミステリー映画の道をこのまま切り開いてほしいものです。
映画館で観たかったという思いもありますが、配信でお家映画でみるのに最適とも言えます。ぜひこの年末年始でどうぞ。
というところで感想はここまでになります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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