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「アンテベラム」”Antebellum”(2020)

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antebellum-movie-2020 映画レビュー
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「アンテベラム」(2020)

  • 監督:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
  • ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
  • 製作:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ、ゼヴ・フォアマン、レイモンド・マンスフィールド、ショーン・マッキトリック、レズリー・ウィルス
  • 製作総指揮:エドワード・H・ハム・Jr、ケニー・マック、アレックス・G・スコット
  • 音楽:ネイト・ワンダー、ローマン・ジアンアーサー
  • 撮影:ペドロ・ルケ
  • 編集:ジョン・アクセルラッド
  • 出演:ジャネール・モネイ、ジェナ・マローン、エリック・ラング、ジャック・ヒューストン、カーシー・クレモンズ、ガボレイ・シディベ、リリー・カウルズ 他

作品概要

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ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツの二人が長編映画監督デビューを果たす作品。

南北戦争下の綿花農園と現代の二つを舞台に、二つの世界に存在するある女性の謎を描くミステリースリラー。

主演は「ドリーム」などに出演し、また歌手としても活躍するジャネール・モネイ。彼女にアプローチする謎の女性を「ネオン・デーモン」などのジェナ・マローンが演じます。

その他「ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた」のカーシー・クレモンズ、「ウィンド・リバー」などのエリック・ラング、ジャック・ヒューストンなどが出演しています。

監督の二人はブッシュ+レンツという形でブランディングしているようで、これまでにも今作のようにアメリカにおける人種差別特に黒人コミュニティに対するものをアートに取り上げています。

警官の暴力に対する広告や、短編映像作品などを手掛け、今回「ゲット・アウト」、「アス」の製作を務めたショーン・マッキトリックと組んで長編デビューを飾りました。

タイトルの”Antebellum”とはラテン語で、「南北戦争前の」という意味合いになっており、今作の根幹をなしている仕掛けを示しています。

以前からタイトルは聞いていて、映画館でも予告を見てはいましたが、実はそこまで注目はしていなかった作品です。

単純に時間があったからという理由で鑑賞してきました。地元の小さな映画館でやっていて、客足もそこそこって感じでしたね。

「アンテベラム」公式サイトはこちら

~あらすじ~

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アメリカ南部の綿花農園。南北戦争の迫る中で、黒人奴隷たちは白人の農園主に酷使され、逃亡を図るもは容赦なく殺され、さらに計画者は生きたまま焼却される。

地獄のような農園で脱走計画を企てたエデンは、しつけと称し焼き印を押されてしまう。

次の日にはさらに奴隷たちが連れてこられ、白人の許可なくしゃべることすら許されずに働かされ始めた。

その中の何人かは、エデンに脱走を手伝ってほしいと懇願するも、時期を待つように言われる。ただ悪夢の中で生きるエデンは、あきらめてはいない。

一方の現代アメリカ。

社会学において人種差別を研究するヴェロニカは、自身の新作の本出版を記念したイベントに出席するため、夫と子どもと離れて出かけていた。

久しぶりに会う友人と楽しい夜を過ごしていたヴェロニカだったが、彼女を予想もしない事態が襲う。

感想/レビュー

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人種差別社会サタイアとして目指しながらもフォロワーに至らない

製作者が同じという点での宣伝もありますが、この作品が間違いなくジョーダン・ピール監督の「ゲット・アウト」、「アス」に続く現代アメリカ社会サタイアを目指したのは確実でしょう。

今なお変わらぬ人種差別。

そこにファンタジックな要素を織り交ぜてミステリーとスリラーを両立させる。

しかし私としてはその2作に続こうという意図こそ理解できても、到底そのレベルには及ばずに、リップオフで終わってしまった作品でした。

一番の失敗が実は予告編にありました。実は予告で全て割れてしまっているのですよね。特に農園で見上げた空に旅客機がみえるショットとか。

その仕掛けを分からせた上で観にこさせているのかと思えば、その仕掛けについて勿体ぶって描いていく。

映画は3部構成になっていますが、はじめにやたらと長い旧時代における黒人の不当な扱いを描き続けます。

そこ自体に違和感を含んでいません。あるのは脱出計画に関してだけです。

そして切り離されて現代アメリカを舞台にしたヴェロニカのパート。

ヴェロニカのパートには確かにホテルフロントからの差別的な、差別が根底にあるからこその対応の違いがありました。

しかし肝心なのは、いまそこにある居心地の悪さや違和感ではないでしょうか。それがミステリー繋がるわけですから。

ここをジョーダン・ピール監督は見事にこなしているんです。

黒人への差別と暴力は南北戦争あたりでは残念ながら違和感ではないです。

ホテルの件もミステリーに貢献していない。

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ミステリーとして弱く、2つの舞台が隔離されてしまい効果も薄い

「ゲット・アウト」の何が素晴らしかったかといえば、やたらと褒めてすり寄ってくる白人が、実際には黒人を器として利用するためだったこと。

そしてそれ自体が黒人から搾取するために地位向上をさせながら、根底ではやはり白人より下だという意識に基づいているという社会に呼応していたこちで。

今作はただミストリートメントを永遠と描き続け、妙な違和感もなく。

ミステリーとしてもあまりに単純すぎるせいで最大の仕掛けすら荒唐無稽さばかりが目立ちます。

頑張っている点として、現代のほうで行われている選挙活動がありますが、薄い。あれこそ初めに提示すべきです。

はじめは、ただの選挙という意味しか持たなかったものが、後に違う意味になる、それが伏線の回収であり驚かす仕組みになりえます。

もう一つ細かいところですが、綿花農園パートで「クラッカー(貧乏白人)」という言葉が出てきます。

この言い回しが例えば完全に南北戦争時代には存在しない言葉であると言うのなら、ここに違和感を持たせられたかもしれません。

しかし明かすほどにタネがバレやすい仕掛けを根底にしているから、諸刃の刃になりえますが。

何にしてもミステリーとして弱くタネが分かりやすいために、観ていて(なんでこんなに時間かけてるの?)としか思えませんでした。

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スリラーとしての弱さ

もう一つ良くないのが怖くないこと。

スリラーを冠するにもいたらないかもしれません。

不気味さ気味悪さも弱いですし、サバイバル的な要素も微妙です。

丁寧に見せていく奴隷制の凄惨さについてもスティーブ・マックイーン監督「それでも夜は明ける」のようなものにはなっていません。

対位法のような、農園の風景を背景に全面もしくは枠を隔てた中で絶望が描かれるショットはあります。

はじめのロングショットも、美しい庭と屋敷、少女と母から始まりどんどんと奥へ進むほど惨たらしい現実が見えてくる作りに。

しかし考えて見ると、南北戦争時代と現代という2つの舞台装置を持たせた上でさらに南北戦争時代に多層的なレイヤーなんて必要でしょうか?

時間を区分けしていないと仕掛けが機能しませんが、区分けして語りすぎてシンクロに至らない。

今作のジェナ・マローンは至高

私にとっての今作の希望は、重要人物であるエリザベスを演じたジェナ・マローンの存在です。

彼女の謎めいた怪しさとか危険な香りはホントに素敵でした。

抜群の存在感があります。

ヴェロニカとオンライン面談してるときによそ見してるのが失礼すぎて最高。

コンセプトに対して手法が追いつかず、ちょっとアホらしさすら感じてしまう作品でした。

よく分かったのは、人種差別を根底にしたアメリカ社会サタイアを描く上で、いかにジョーダン・ピール監督が秀でていたのかです。

合わなかったため酷評になっていますが、ジェナ・マローンは最高なので彼女のファンは観てみてください。

今回の感想はここまで。

最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。

ではまた。

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