「奪還者」(2014)
- 監督:デヴィッド・ミショッド
- 脚本:デヴィッド・ミショッド
- 製作:リズ・ワッツ、デヴィッド・リンド、デヴィッド・ミショッド
- 製作総指揮:トリー・メッツガー、アダム・ライマー、ビンセント・シーハン、アニタ・シーハン、ニーナ・スティーブンソン、グレン・バスナー、アリソン・コーエン
- 原案:デヴィッド・ミショッド、ジョエル・エドガートン
- 音楽:アントニー・パートス
- 撮影:ナターシャ・ブライエ
- 編集:ピーター・シベラス
- 美術:ジョー・フォード
- 出演:ガイ・ピアース、ロバート・パティンソン、スクート・マクネイリー 他
オーストラリア監督のデヴィッド・ミショッド監督によるポストアポカリプス映画。
監督の作品としては「アニマル・キングダム」(2010)に続いての長編2作目となりますね。主演にはガイ・ピアース、そして劇中では知能障がいを抱える青年をロバート・パティンソンが演じています。
世紀末ものでありながらもアートハウスタイプの作品で、公開規模はそこまで大きくなかったかと思います。私も観に行けず、今回は海外版ブルーレイで鑑賞。まあ日本版もでていますが、安かったのでw
荒廃したオーストラリアを一人移動する男。
彼は車を停め、廃墟にしか見えない飲み屋へと入る。
その後、1台のトラックが派手にクラッシュし、中から出てきたギャングが、男の車に乗り込んで走り去ってしまう。
男はトラックをなんとか動かし、自分の車を追うのだが、ギャングたちは「車を返せ」という男を気絶させ道に捨てていった。
その後、男は怪我をした青年を見つけるのだが、青年は男から車を奪っていったギャングの一人の弟だという。
車を取り戻すため、男はこの青年から兄の行き先を聞き出そうとする。
オーストラリアでポスト・アポカリプスといえば、まあジョージ・ミラー監督の「マッドマックス」を想像しますよね。舞台設定は確かににているものの、今作は静かに、抑えられたトーンの作品で、全く異なる雰囲気を持っています。
派手なアクションや、世紀末な残酷描写を期待するならば、ガッカリしてしまうかもしれないです。
私としては今作が持っている雰囲気は、それはそれでスゴく気に入りました。
色が廃され、モノトーンに見える乾ききった世界で、それを映し出す撮影がすごく良かった。こちら「ネオン・デーモン」(2016)でも私は素晴らしい撮影をしたと思っている、ナターシャ・ブライエによる撮影は、人物と後ろに広がる広大な土地を対比的に撮り、人がなんとも小さく寂しく映ります。
放り出されて無防備な、生の状態でさらされている感覚。人物のショットには安心する家のようなものもなく、車が走るバックショットでは、その先には終りも見えない道がずっと続いているだけです。
世界の描写もスゴく静かなもので、背景は行動やデザイン、台詞から拾える程度になっています。経済的なものが襲ったということで、どうやらオーストラリアドルには価値がないようですし、レイと兄のヘンリーが炭鉱の仕事を求めていたというように、資源もないようです。
何よりも、人物たちが好きです。
今作はガイ・ピアースが、あるシーンでの告白そしてラストにおける心を打つ場面を除けば、完全なる狂気に覆われたような男を演じています。一応エリックという役名らしいですが、劇中で呼ばれることはなかったですかね。
もちろん後半で明かされてはいきますが、しゃべらないし彼を知っている人間なども出てこず、謎すぎる上に執着が怖い。
序盤に口を開いたと思えば、「死など感じない。」ですからね。
しかし今作で最も輝いていたのは、間違いなく知的障がいを抱えた青年レイを演じたロバート・パティンソンでしょう。
クリステン・スチュワート同様「トワイライト」の人くらいの認識でしたが、今作は紛れもない名演。
知能面で劣っているようで、しかし生存本能はスゴいです。案内役をする限りは殺せないと知っていて話し行動するような、いや純粋にちょっと足りてないだけなのか、明確に判断させずおもしろい人物でした。
ポスト・アポカリプスの世界においては、さながら聖なる愚者の役目を示し、倫理の新だ人間世界に最後に残った無垢なものを体現するような青年です。
そんな二人が移動のなかですこしだけ友情めいた、いややはり脅迫のような絶妙な関係を見せていきます。
別に義兄弟とか、擬似家族とかウェットな感動話へとはシフトしていかないです。どちらかと言えば、さ迷う男からの一方的な目線で語られる関係性には、既に失った、失われたものを少しだけの間取り戻している感覚があったように感じました。
戒厳令でもしかれているのか、巡回する兵士に捕らえられたエリックの話。
経済危機や暴力の蔓延、人心の乱れ。世紀末が来たことがきっかけではないのです。
エリックはそんなものよりもずっと前に、今私たちが生きているような”まともな世界”で既に人間に絶望していたのでした。
家族という人間にとってこれ以上ない関係における裏切り。そして訪れなかった贖罪。
これはまんまミショッド監督が「アニマル・キングダム」(2010)で描いたことですが、今作はその後の人間を描き出しました。
エリックはしきりに、押し付けるようにレイは兄に捨てられたと言います。
家族の裏切りにあった身として共通要素を見いだしたかったのか、世界の腐敗について自分は正しいと証明したいのか。
唯一みせる彼の心は、途中にも檻の中で見た犬への想い。
人間という家族に裏切られ失望した男は、犬という家族にだけ愛を持っていたのか。
非常に地味で渇いていてるというのはミショッド監督らしいタッチだなと思いました。
そして根底には人間が最後の砦として、そして生まれながらに保証されているはずの家族という共同体が異常な破綻をした時の、人間の絶望を描いてたと感じます。
ガイ・ピアースのまさに”The Rover”(放浪者)な、どこにももう拠り所がない男は素敵な演技です。「自分がどこにいるのかわからなければ、行先もわからない。」
ただただ放浪するしかない男は、卓越した演技を見せるロバート・パティンソンのレイにほんの少しの無垢さを見出したように思えました。
マッドマックス的な派手さとか、バイオレンスとかを期待すると、非常に地味です。
ですが、抑えたトーンが私にはハマりました。
こんなところで感想を終わります。ミショッド監督作品もしっかり追っていきたいものです。
それでは、また。
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