「ウィズアウト・リモース」(2021)
- 監督:ステファノ・ソリマ
- 脚本:テイラー・シェリダン
- 原作:トム・クランシー『容赦なく』
- 製作:アキヴァ・ゴールズマン、マイケル・B・ジョーダン、ジョシュ・アペルバウム、アンドレ・ネメック
- 音楽:ヨンシー
- 撮影:フィリップ・ルースロ
- 編集:マシュー・ニューマン
- 出演:マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・ベル、ジョディ・ターナー=スミス、ガイ・ピアース 他
トム・クランシーのベストセラー小説をもとに、ジャック・ライアンのオリジンを描く作品。
監督は「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」のステファノ・ソリマ、また同作でも脚本を手掛けたテイラー・シェリダンがこちらでも脚本を担当しています。
主人公を演じるのは「ブラックパンサー」などのマイケル・B・ジョーダン。
また「クイーン&スリム」のジョディ・ターナー=スミス、その他「ファンタスティック・フォー」のジェイミー・ベルや「アイアンマン3」などのガイ・ピアースが出演しています。
どうやらこの作品の実現までは長い道のりだったようですね。そもそもの原作は1993年に発行されていますが、すぐにキアヌ・リーヴスを主演に映画化をしようとしていたようです。
一時は「MI:フォールアウト」などのクリストファー・マッカリー×トム・ハーディの構想もあったらしいですが、流れ流れてやっと今回の監督キャストで製作開始。ただ公開自体が新型コロナウイルス拡大によって頓挫し、最終的には劇場公開なし、Amazonプライムビデオでの独占配信という形になりました。
予告編が上がったあたりから、監督、脚本担当、そしてマイケル・B・ジョーダン主演新作ということで期待値が上がっていた作品です。
配信直後にGWということもあって鑑賞しました。
シールズの隊長としてシリアにて救出任務に就いたジョン・ケリー。
CIAからの任務監督官からの情報に食い違いがあり、なぜかシリアでは元ロシア兵たちが待ち構えていた。
救出任務自体は犠牲を伴ったが成功し、6か月後ジョンは除隊を迎えていた。それは妻が妊娠したことが大きな理由だった。
これから父として新たなスタートを切る矢先、ジョンを悲劇が襲う。シリアでの任務に参加した隊員たちが次々に殺害され、ジョンの家も襲撃を受け妻が殺されてしまったのだ。
侵入者を撃退する中で相打ちとなり一人を取り逃がしてしまったジョン。家族を守れなかった悔しさと復讐心だけがジョンを生かし、彼は単独でロシア高官を襲い逃げた襲撃者の身元を調べる。
私個人としてはトム・クランシーの小説は読んだこともなく、ジャック・ライアンシリーズにも特段思い入れはありません。クリス・パイン主演で「エージェント・ライアン」という作品も観ましたがあまり記憶が・・・
というかジャック・ライアンの映画化群であるうち、「トータル・フィアー」以外は観てるんですが、とにかくそこまでファンというわけではありません。
そこで今作、推しのマイケル・B・ジョーダン主演だったり、テイラー・シェリダンが脚本だったりで期待していたのですが、残念な結果というのが率直な意見。
「ボーダーライン」のようなひりついたスリラーや混沌の恐怖もなく、また「ウインド・リバー」のような凄惨ながらも濃厚なドラマを感じることもありません。
正直言ってこの小説発行の1990年代によくあったマッチョ軍人アクションものだなと感じます。
だからこそあまりに時代遅れですね。
超デキるクールでマッチョで強い主人公が一匹狼的に奮闘し、ヒロイックな活躍で敵を倒し黒幕まで突き止める。筋書きはかなり古臭い感じです。
今時これは(見せ方次第かもですが)単調と思えます。
センターにて輝くジョーダンの演技をもってしても、これを救い出すことはできていないと思いました。
彼自身はそのフィジカルの使い方がフルに発揮されている感じ。
今作では特にジョン自身が後に引けないところに追い込まれる場面も多く、その修羅のような目つきと態度、またケガをすることが多いので身のこなしや所作も素晴らしい演技を見せています。
各キャラクターの描写や役回りもすごくオールドファッションです。そして扱いも大味で雑。
ミスリードとしてジェイミー・ベル演じるリターを出しておいたはずでしょうけれど、ガイ・ピアースを並べたらもうね。
キャスティングから悪人がわかるという点もなんか昔の映画って感じでしょうか。
配役役回りもそうでしょうけれど、ドラマの描きこみが足りていないからこそ、それぞれの人物が、”信頼できる上司”、”怪しいけど実は良いやつ”、”支援してくれているようで黒幕”といった人物が物語に対して持つ機能だけが目立ってしまうのだと思います。
そもそもの始まりである妻と子どもの死ですら、そこまでの悲痛さが感じられませんでした。
スクリーンにおける時間というわけではなくて、思い出すタイミングでもいいでしょうけれど、都度ジョンを突き動かす動機としてもっと演出できたと思います。
そしてジョン以外の人物についても個人として根差せるドラマなり描きこみがあればよかったと思います。薄すぎてあまり気にもかけなかったというのが正直なところです。
ドラマ性に欠如しながらも、ではロジックが良いかといえばそうでもないですね。ジョンのクライマックスの黒幕への道のりについては丸々のカットといっていい扱いです。
真相解明に関して彼が能動的に動く部分がない。いつも受動的であり、またサバイバルもその理由が見えません。あるのはただ、彼が”主人公”ということぐらい。
オープニングのシリアのシーンについてはまるで「ゼロ・ダーク・サーティ」の一部のような気味の悪い感じがあってよかったと思いますし、ジョンのロシア高官襲撃に関しても炎を上げる中でというシチュエーションは彼の覚悟をのぞかせます。
そしておそらく、終盤近くのロシアでの戦闘は四方八方からの敵の襲来と長回しなど「ボーダーライン」的な混沌とした戦場を想起させるものと思います。
そういった点は現代的なアップデートをしていますし、主役のマイケル・B・ジョーダンは確実に圧倒する演技と存在感を見せています。
しかしそれだけでは、定型化していて古くなったマッチョアクション映画を更新するには至っていませんでした。
そもそもの小説はベトナム戦争あたりが舞台らしく、今回はうっすらとトランプ政権下で進んだアメリカ国内の分断を入れ込んでいますが、何にしても薄いのです。
重くシリアスで行きたいようで、大味な昔のマッチョアクションの流れになりちぐはぐ。
その製作陣にかなり期待をしていた分、落胆が大きかったということもありますが、残念な結果に終わった作品でした。
今回はあまり好評ではないですが、アマプラで見放題なので気になる方はチェックを。
感想は以上。最後までありがとうございました。
それではまた次の映画の感想で。
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