「水の中のつぼみ」(2007)
作品概要
- 監督:セリーヌ・シアマ
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脚本:セリーヌ・シアマ
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製作:ベネディクト・クーヴルール、ジェローム・ドプフェール
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音楽:パラ・ワン
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撮影:クリステル・フルニエール
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編集:ジュリアン・ラスレー
- 出演:アデル・エネル、ポーリーヌ・アキュアール、ルイーズ・ブラシェール、ワレン・ジャッカン 他
「燃ゆる女の肖像」、「秘密の森の、その向こう」などのフランスの映画監督セリーヌ・シアマ監督による2007年の青春映画。
シンクロナイズドスイミングのキャプテンと彼女に恋心を抱く少女、その友人らを通して、性や身体、自己に悩む姿を描き出します。
主演はポーリーヌ・アキュアール、またシアマ監督とはこの後も組んでいくアデル・エネル。
もともとの公開時には、日本ではフランス映画際での上映だったようで一般公開ではなかったみたいですね。
セリーヌ・シアマ監督の過去作は以前から見たかったのですが、逃し続け。この作品も有名なのでアマプラでの配信も見つけてついに鑑賞できました。
~あらすじ~
シンクロナイズドスイミングの大会を見に行ったマリーは、そこでチームのキャプテンであるフロリアーヌに一目惚れする。
彼女に近づきたい気持ちからマリーはスクールに入会してなんとかフロリアーヌの近くにいようとする。
しかしマリーはフロリアーヌが同じスクールのフランソワとキスをしているところを見てしまい、さらにチームメンバーはみなフロリアーヌが誰とでも寝るような女だと言う。
一方マリーの友人のアンヌはフランソワが好きで、自分の身体にコンプレックスを持ちながらもアプローチ方法を考えている。
マリーは次第にフロリアーヌと親しくなり、彼女が抱えていたある想いを打ち明けられることに。
しかしフロリアーヌの噂を信じるアンヌは、マリーが彼女と仲良くなっていくことをよく思っていなかった。
感想/レビュー
少女が大人になっていく、女性になっていくような青春の難しい時期。セックスへの興味と同性愛や友情、自分の身体のこと。
これらをすごく直感的に切り取っていて、主観的にも感じる作品でした。
難しいと思うのが大人が描く思春期になってしまいそうなことですが、監督はまるで当事者がそれを語るような生々しくもいやらしさのない目線を向けています。
シンクロの中での異物
しかしセリーヌ・シアマ監督の目線、そこには底知れない孤独感も横たわっていると思います。
シンクロナイズドスイミングという集団競技、皆が同じ格好で同じメイクと髪型で、すべてが同一化されたものを舞台に選んでいるのも、カウンターとして孤独を強めるためと思います。
フロリアーヌはキャプテンですが、チームのみんなから慕われてはいません。
むしろ”尻軽”、”娼婦”といったうわさの対象であり蔑視すらされている。
マリーもはじめ、その外部的な意見をもとに一瞬でもフロリアーヌに怒りを感じてしまいました。
フロリアーヌは見分のままになってやろうと、若干自暴自棄な、そして周囲から思われるようなステータスを満たそうともがいています。
群れとして動くこのシンクロ女子集団の中で、事実とは異なりながら異物扱いされるフロリアーヌはすごく寂しいでしょう。
ルックスの呪い
周囲から築き上げられた虚像に対し、現実の自分を合わせようとする。
独りで座り、みんなで歌うときにもバスの座席で後ろもみない。孤独なフロリアーヌの切り取りにはマリーが寄り添います。
自己の同一性について、悩む青春。ルックでいえばフロリアーヌは女性的な魅力にあふれている。
しかしそれが呪いのように、彼女自身が語るような性的な加害を招くこともある。誰しもに性的な目で見られてしまう辛さを伝えます。
そして心を見てくれる存在を求める。
フロリアーヌをみたマリーは女として性的魅力が高いとされる肉体に興味を持ちます。アンヌと後半で口論になる原因も明らかにそこにある。
フロリアーヌは大人びていて、そして男性(またマリーにとって)にとって魅力的なルックスだから。それに反しているアンヌにいら立つ。
しかしマリーのその傾倒は、同時にフロリアーヌにとっては裏切りにも近づいてしまうのです。
失望からの別れと励まし
フロリアーヌは結局、マリーが彼女を性的な、恋愛的な目線で見ていたとわかる。
それを感じ取ってシスターフッドが曖昧になった時、言い出せない踏み出せないマリーに自らキスをする。
それは別れのキスでもあり、一つの関係の終わりなのでしょう。フロリアーヌにとっては失望も。
でもすこし希望も感じられます。
「簡単でしょ?」というフロリアーヌの言葉、それは同性愛のカミングアウト、一歩踏み出すことに対して向けられているのかもしれないのです。
その意味では最後の別れとしてフロリアーヌからの励ましにも感じました。
抜けた可能性を見上げて
天井を見ながら死んでいく人の話が出てきます。そして今作はプールの上で漂いながら夜空を見つめるマリーとアンヌで締めくくられる。
はじめはなんだかふさぎ込んだ印象があり、それは事故を実現することもなく終わりを迎えることにも捉えられます。
だからこそ最後は、ふさがれることのない可能性を夜空に見ているのかな。
思春期にある悩み、嫉妬や恋そして孤独。それらを凛々しく描き出していて素敵な作品でした。
配信でい観れたりしますので、興味のある方は是非。
今回の感想はここまでです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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