「アス」(2019)
- 監督:ジョーダン・ピール
- 脚本:ジョーダン・ピール
- 製作:ジョーダン・ピール、イアン・クーパー、ジェイソン・ブラム、ショーン・マッキトリック
- 製作総指揮:ダニエル・ルピ、ベアトリス・セケイラ
- 音楽: マイケル・エイブルズ
- 撮影:マイケル・ジオラキス
- 編集:ニコラス・モンスール
- 出演:ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク、エヴァン・アレックス、シャハディ・ライト=ジョセフ、エリザベス・モス 他
「ゲット・アウト」で鮮烈なデビューを果たしたジョーダン・ピール監督の長編第2作目。
自分たちと全く同じ見た目の人間が現れ、世界を脅かしていくホラーミステリーとなります。
主演には「それでも夜は明ける」のルピタ・ニョンゴ、また「ブラックパンサー」のウィンストン・デュークも出演。
また二人の子どもとしてエヴァン・アレックス、シャハディ・ライト=ジョセフ。そしてエリザベス・モスも出ています。
予告が出たあたりから、注目監督の第2作品目ともあってかなりの注目を集め、批評面観客面両方でとても高い評価を受けました。
日本公開は半年くらい遅れましたが、話題にはなっていたかな。
私は海外に行ったりしていた関係で、公開3週目にしてみてきたのですが、すでに朝1回のみ・・・でも人は結構入っていましたね。
アデレードは幼いころ、両親に連れられて行ったサンタクルーズの遊園地で、迷子になってしまう。
そして迷い込んだアトラクションで、彼女は自分にそっくりな少女と出会う。
時は流れ、アデレードは夫と二人の子どもと共に久しぶりにサンタクルーズへとやってきた。過去のことはアデレードにとってぬぐい切れないトラウマではあったが、家族のため彼女は我慢することに。
しかし、楽しかったビーチから帰った夜、一家の玄関先に人影が現れる。
彼らは家へ押し入ってくるのだが、まるで子供のころのアデレードが出会ったのと同じく、一家4人それぞれと瓜二つの人間たちだったのだ。
ジョーダン・ピール監督は知性の中にどこか当事者ではなく一歩引いた視点を持ち、アメリカにおける人種やクラスの問題を描きます。
それ自体はデビュー作「ゲット・アウト」でも同じでしたが、監督は一定の客観視を今作でもしっかりと保ちながら、さらに押し広げて広くアメリカを映し出します。
その落ち着いた分析はよそよそしく冷徹にも感じますが、あまりに的確なのもまた事実です。
どこまでも細やかにメタファーや意味のある要素、印を入れ込み、映像と画の作りにこだわりぬかれたこの「アス」はおそらく色々と考えて振り返ると面白いでしょう。
あそこの意味って?そういえばここで。
結末まで抜けてから再度鑑賞すればどんどんとその周到な舞台設計に感心すると思います。
もちろん、プロットの落ちでのなんとも恐ろしく気味の悪い感じもありますが、この世界を隅々まで見るのが楽しいですね。
この作品はドッペルゲンガーにより自分たちの生活を脅かされるホラーですが、常に二項対立の作りになっていると思います。私たちと”私たち”は常に向き合わされ、鏡の存在です。
シンメトリックな画作りも絶えず現れ、二つのサイドが常に存在。
”私たち”は黒人も白人も(差はありますが)含め豊かな私たちに対するカウンターです。
表世界でその恩恵に、知らずにあやかる者のため、裏の世界で苦痛にさらされるものたち。
これが全く同じ姿であるというのは、同じ人間であることの強調に思います。実際に、レッドは自らを「私たちはアメリカ人だ。」と言いますし。
そしてそもそもタイトル自体が「US(私たち)」であり「U.S.(United States=アメリカ合衆国)」になっていますしね。
前作は白人と黒人の構造でしたが、今回は枠を大きく広げ、本当にアメリカすべてを舞台としています。
そこで”私たち”が凶器として使うのはハサミ。
二つの要素が組み合わさることで機能するものであり、何よりも物を断ち切り分断する道具です。
冒頭にてTVに映るのは手を取り合って人がつながろうというエイド活動。
しかし最後にテザードたちによって出来上がったそれは、むしろ今現在のアメリカそのもののような、分断を示す赤い境界線です。
なんとも皮肉なものですが、これがアメリカです。
一方が搾取し、しかもそれに気づくこともなく過ごす。そしてそれは日本も同じことです。
多くの先進国がそうでしょう。その暮らしが普通であり恵まれているとすら気づかないものです。
私たちの今の生活を想像すらできない人々が、この地球上には多くいる。それは目を背けてはいけない、今作が示す事実です。
ただ、正直言って私はこの作品があまり好きではありません。
細やかな要素に込められた意味や役者の演技、周到さに監督の知性など間違いなくいい映画ではあるのですが、好きにはなれませんでした。
理由のひとつ目は、いろいろと考えるとおもしろい一方で、考える部分によっては歪みが大きくなること。
テザードがどうやって生きてきたか、彼らの生活、また劣悪な環境下で表の人間とほぼ同じ容姿でいられること。
いわゆるSF部分、ほんとは飲み込めばいいところ、細かい部分がしっかり作りこまれている分、疑問も付きまとう形に。
そしてもうひとつが大きな理由です。
それは今作が示し考えさせるだけであること。正直言ってこのアメリカの分断や対立、欺瞞なんてすでに明らかなことです。
それをホラージャンルに上手く落とし込むのはさすがですが、それ以上であるとは思えませんでした。
ピール監督はこのアメリカを冷静に見ているのはわかります。
で、監督はそれにどんな意見を持っているのか、それを見たかったです。
事実だけではあまりに悲観的ですし。
正直アメリカを考えるならラウル・ペック監督の「私はあなたのニグロではない」を観たほうが良いんじゃないかと。
あくまで個人の感想ではありますが、ジョーダン・ピール監督のよそよそしさがちょっと悪い感じに思えてしまったということです。
非常に考え抜かれた作品であり、細部までディテールに目をやることでたのしいとは思います。
感想としてはこのくらいです。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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