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「太陽と桃の歌」”Alcarràs”(2022)

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Alcarràs-movie-2022-Carla-Simón 映画レビュー
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「太陽と桃の歌」(2022)

Alcarràs-movie-2022-Carla-Simón

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作品解説

  • 監督:カルラ・シモン
  • 製作:マリア・サモラ、ステファン・シュミッツ、トノ・フォルゲラ、セルジ・モレノ
  • 脚本:カルラ・シモン
  • 撮影:ダニエラ・カヒアス
  • 美術:モニカ・ベルヌイ
  • 衣装:アンナ・アギラ
  • 編集:アナ・プファ
  • 音楽:アンドレア・コッチ

初の長編監督作「悲しみに、こんにちは」でベルリン国際映画祭の最優秀新人作品賞とジェネレーション部門グランプリを受賞したカルラ・シモン監督。

長編第2作となる本作は、スペインのカタルーニャを舞台に、伝統的な家族経営の桃農園がソーラーパネルの導入によって失われる危機に直面する様子を描き、自然と人間の関係を問いかけるヒューマンドラマ。

ベルリン国際映画祭で見事金熊賞を受賞し、世界中の映画祭やアワードで合計56もの受賞・ノミネートを果たした作品です。

出演している方たちはみな地元の方であり俳優ではないとのことです。それでも見事な演出や演技によって、映画祭では俳優賞のノミネートなども多いようです。

昨年のうちに公開されたものの、なかなか見に行けずにいました。どんどん上映回数が減ってしまい、結局年末滑り込みで鑑賞。

「太陽と桃の歌」の公式サイトはこちら

~あらすじ~

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カタルーニャの大地で三世代にわたって桃農園を営むソレ家。いつものように収穫の季節を迎えようとした矢先、地主から夏の終わりまでに土地を明け渡すよう求められる。桃の木を伐採し、その代わりにソーラーパネルを設置する計画だという。

父親は猛反対するものの、妻や妹夫婦は「ソーラーパネルの管理をすれば楽に収入を得られる」との提案に心を動かされ始める。

家族それぞれが問題を抱えたまま、農園の存続に向けた行動を起こしていく。賭け事でお金を得ようとする祖父、怒ってばかりで頑固な父、畑の片隅で密かに大麻を栽培する長男など、思いはばらばら。

ついには家族全員が大げんかを繰り広げ、一家の絆に大きなひびが入ってしまう。そんな中、最後の収穫の時が迫り、ソレ家は運命の選択を迫られる。

感想レビュー/考察

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大きな背景も目の前の人間も、すべてにピントを合わせて描き出す

カルラ・シモン監督が描き出すのは、大きな物語としては、現代における農業の危機です。しかし、そこに歴史や地域の文化、そして家族の物語が描きこまれています。

様々な要素が展開されているために、散漫になりそうなところ、すごいと感心してしまうのは、そのフォーカスの合わせ方です。ぴったりと背景にも目の前の対象物にもピントが合っていて、どこもぼやけていないという驚きの物語です。

桃の収穫の季節。緑の中で桃を獲り始めるOP。

収穫の時期なので家族が皆集まってくるところに、衝撃が走る。夏の終わりにこの地を退去すること。

人が信頼で繋がっていた過去と数字と書類の原題

契約書を交わしたかどうかというような話が出てきますが、祖父の世代は基本的には口約束で成り立っており、正式な契約書などない。

この時点で、いつしか私たちは人を信用するのではなく、法や書類で縛ったうえでなくては何も事を進められなくなっている点に切り込んでいるのが良いなと思います。

もちろん、だからこそ騙されてしまうようなこともあるでしょう。しかし、ソレ家の祖父の時代には、互いに人としての信頼関係があった。

このような関係性の喪失は、今作が歴史、過去と現在を繋ぐような物語だからこそ、結構重要な要素だと思います。

単純に昔は適当だったね。なんて演出ではないのです。

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人間の歴史の最古の労働である農業、その危機

桃の菜園と家、土地をめぐる物語は複雑です。扱っているのは農業。それは古来からある労働であり人類の歴史の根幹でもある。

そんな遺産のような農業に対して、今は大規模開発と太陽光発電向けソーラーパネルの設置が押し寄せている。

過去と現代の衝突が象徴的に詰められています。そして、それだけではなく、土地買収に絡んでマーケットが出てきます。大手卸や大企業側のいいようにマーケットが操作され、適正な価格が保証されない中で赤字垂れ流しになるしかない農家たち。

父は組合に参加しているようで、抗議集会が開かれています。祖父の昔からの知り合いに会えば、経営が成り立たないからこそ土地を売ってしまうしかなく、そしてそんな状況につけこんで土地は買いたたかれてしまっている。

歴史ある農業を一族で続けてきた人々に対して、非情ともいえる現実が突き付けられている。それは搾取であり虐待であるように思います。

間違いなく監督はこの農家の皆さんの側に立って、この作品を撮っていますね。

食べること、つまり生きること。そのための農業ですら、資本主義や効率化の影響を受けている。労働者が搾取され虐げられている。

社会的な問題が大きな背景として置かれています。

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そのうえでカルラ・シモン監督は、家族ドラマを素晴らしい解像度で示していきます。

家族それぞれにかわるがわるにバトンが渡され、それぞれの視点からこの農園の終わりという危機を捉える。

桃の農園は稼ぎ口でもありますが、家族の思い出の詰まった財産でもある。簡単に受け渡せるものではない。

人物に寄り添い、感情を見つめる撮影

カメラはそのシーンの主人公にフォーカスしながら、中心になっている、人物の意識の向く先をフレームに入れ続ける。だから人物の表情や所作と共に、何に対しての感情なのか、その対象も見れるようになっています。

また、今作では結構な長回しが多用されていました。それは観客も実際にそこにいるような感覚を創り出すことになっていると感じました。

大人たちにはそれぞれの生活もある。子ども側にも彼らなりに力になりたい意志や、うまくいかないことへのいらだちもある。家族それぞれにある苦しさを誠実に描き出していました。

長男の父に認められたい思いとか、長女が家族の悪口にも近い会話を祖父に効かせないようにするために、そっと扉を閉めてあげるところとか、細やかなところで”大人にならなくてはいけない子ども”が描かれていてすごく心が痛い。

演技経験はないが、自分の人生と重なる人々を俳優に起用

カルラ・シモン監督は今作でも俳優は起用せず、実際にその土地出身の素人の方たちを登場人物に採用しています。

父を演じたジョルディ・ プジョル・ ドルセさんは、実際にこの土地の農家の方だそうです。映画の中でもあったような、適正価格を求める抗議デモにも参加しているとか。しかし、映画と異なり、彼は農家を止めてのうちを手放さなくてはいけなくなったようで、今は市役所で働いているそうです。

本当にどの演者も素晴らしい演技をしていますが、それはこのように、作品の物語と個人の人生につながりがあるからだと感じました。

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個人的な物語とのつながりは、監督も例外ではなく彼女自身の義母も農家を営んでいる家系だそうで、今作では自身の家族にまつわるルーツをめぐることにもなったようです。

繰り返される居場所の破壊

映画が始まってすぐ、子どもたちがふざけて遊んでいた廃車。

OPではそこで無邪気に遊ぶ3人が映し出され、そのあと、カメラには映らないながらも背景では大きな機械音が鳴り響く。そして大きな建機によって車が撤去されてしまう。

居場所を撤去されてしまうというのは、実はエンディングでも呼応する。家族が集まる庭。そこに響き渡る大きな音。

一人一人とどこかを見つめはじめ、そこには複雑な表情が覗く。ほとんど同じ角度からの俯瞰のショットが序盤にもあった、家と桃農園を映すショット。

呼応するように、エンディングでも同じような角度から映されるのは、家の周りの桃の木が全て撤去され掘り起こされ更地となった光景。

まずは家族みんなの顔を見せ、溜めてからこのショットを突きつける。心が引き裂かれるようでした。

見事なキャスティングと演出で、農業とそこにかかわる家族が迎える危機を語った作品で非常に力強く見事。祖父と孫が謡う歌。

一番離れた世代同士でも、ちゃんと受け継がれているこの歌は、友との友情や故郷への愛を歌ったもの。魂のようなもの。

エンドロールでもその曲を流す演出には泣けます。

年末ぎりぎりに駆け込んで観た作品でしたが、見れて良かったです。今回の感想はここまで。ではまた。

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