「死神の来ない村」(2019)
- 監督:レザ・ジャマリ
- 脚本:レザ・ジャマリ
- 製作:レザ・ジャマリ
- 出演:ナデル・マーディル 他
第32回東京国際映画祭のアジアの未来部門で上映されたイランの作品。
なぜか人が死なず、老人で溢れかえる村を描く物語。監督は今作が長編デビューとなるレザ・ジャマリ。
映画祭の中ではその題材が面白そうなことで鑑賞しました。お休みの日の回だったからか、人気か、満員だったように思います。
ユーモアあふれる作品で、笑いがけっこう起きていましたね。
作品上映後には、監督を招いてのQ&Aセッションがありました。
あらすじ
45年もの間、誰一人として死ぬ者のいない村。そこに暮らす100歳のアスランは、周囲の高齢者と共に、もはや自殺するしか死を迎える術はないと考える。
たびたび自殺を図っては、軍より派遣された警備員に制止されるアスラン達。
そして、アスラン達誰も死なない村の噂は広まり、ついに病気の人間などが回復祈願で引っ越してくる始末。
アスランは「死神がわしを忘れている」と嘆き、どうにか死神に迎えに来てもらえないかと奮闘する。
舞台設定としてはとてもブラックコメディというか、不謹慎ながら笑いに包まれるプロットになっていました。
よぼよぼの爺さん連中がもうヨタヨタしながら必死に死のうと頑張るんですが、死のうという努力に途中で疲れてバテテしまったり、なんだかんだで軍人に止められて、余計なお世話と愚痴を垂れたり。
お爺さんたちの死への毎日の奮闘を見ているだけでおかしく笑ってみていける作品です。
監督のお話によれば、アスランを演じたナデル・マーディル以外は全くの素人の方たちで、ともすれば設定だけ与えて普通にお爺さんたちに会話してもらうような感じだったとか。
そこは監督の指導や全体のマネジメントがうまいのか、ほのぼのとしながらもとてもいい雰囲気が出ていて、アンサンブルとしても気持ちいいものでした。
病人が出ると、ついに来たとばかりに家に押し掛ける。そして回復して出てくれば、期待させやがって!と悔しがりながら帰っていく。
不謹慎ながらクスッと笑ってしまうお爺さんたちですが、その中心にいるアスランには実は逃れえない過去があります。
アスランはイラン革命に関わったようで、彼は死ぬべき存在であると、自分で思っている。しかし死が一向に訪れない。
アスランの場合には、他の老人たちとは違い、人生に退屈したとか、老々介護につかれたとかではなく、これは死という赦しを乞うものなのです。
撮影が本当に素晴らしいと思う、村と山々の風景。絶景は荘厳であり、アスランが何度か上り空を見上げていたあの山の先端が印象的です。
霧がちょうどいい感じに降りてくるんですが、空に一番近いことも含めて、神への問いかけ、会話の試みに思えます。
罪びとである自分を、死をもって許してほしいという切な願いというか。
死にたいという人はそれだけ生を考えているのだと思います。生を見つめ考える先に、生きる意味があり、そこで死が天秤にかけられる。
最後の最後で、がらりとホラーくらい恐ろしくなる転調も良かったです。
全体において女性の位置が気になりますがあれはお国柄でしょうか。そもそもお爺さんばっかりであり、おばあさんがいないのも謎です。女性に限っては長生きできないのでしょうかね。
映画祭の中ではずっしりとくるタイプではなかったですが、楽しめた作品でした。
感想はあっさりめですがここまでです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた次の記事で。
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