「ビバリウム」(2019)
- 監督:ローキャン・フィネガン
- 脚本:ローキャン・フィネガン、ギャレット・シャンリー
- 製作:ブレンダン・マッカーシー、ジョン・マクドネル
- 音楽:クリスティアン・エイドネス・アナスン
- 撮影:マクレガー
- 編集:トニー・クランストン
- 出演:イモージェン・プーツ、ジェシー・アイゼンバーグ、セナン・ジェニングス、アイナ・ハードウィック 他
「Without Name」などのローキャン・フィネガン監督が、自身で脚本執筆にも参加して描くホラーミステリー作品。
逃げられない郊外の街に閉じ込められたカップルが、一軒家で子どもを育てさせられるというもの。
カップルを演じるのはイモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグ。
コロナ下での公開になっているので実際のところ北米や製作の欧州での劇場公開はどうか分かりませんが、日本での公開は現時点(2020/11/1)では決まっていないようです。
今回は海外版ソフトでの鑑賞です。
ちなみにタイトルVivariumは動植物飼育施設という意味で、作品そのままであり実に不快なものになっています。
ジェマは学校の教師で、恋人で庭師のトムと、いつかマイホームを持ち主、子どもをもうけたいと願っている。
ある時物件探しで不動産屋を訪れる二人は、マーティンというエージェントに迎えられる。
しかし、家の模型はどれも瓜二つですのっぺりとして綺麗すぎる上に、マーティンもどこか奇妙な雰囲気の男だった。
トムは嫌々だったが、ジェマはマーティンの誘導に従い実際に”ヨンダー”と呼ばれるモデルハウスを見に行くことに。
しかし、行った先でマーティンは二人を残して忽然と消え、さらにどう車を走らせても、このヨンダーから出られなくなってしまったのだ。
胸くそ悪い話ではありますが、しかしシュールな笑いにも思え、全体には非常にフラットかつ無菌状態の気味の悪いコメディです。
真面目に考えて、何というか異界に囚われてしまったり、外部から飼われてしまう非常に凄惨な状況ではあるんです。
しかしローキャン監督はどこまでも平坦さを持って、抑揚をつけないことにより、ユニークさやシュールさを押し出し、笑ってしまうものに変えています。
そこまで廃するのかというほどにフラットな演出は、トムとジェマの間のドラマすら多く語りません。
だからこそ色々起こることに対する胸くそ具合は、個人的なところへいかず平坦。
トムとジェマを気にかけるというよりも、少し引いた視点から少年のうっとうしさやノイローゼ感、異物としての気色悪さを感じ取っていきます。
で、その距離があるから笑ってしまうんです。
郊外における悪夢とか、異世界、地獄への旅は色々なところで語られてきたプロットですが、この作品は挑戦的かつ実験的に見えました。
ヨンダー自体がラボラトリーっぽいのもあるでしょうけれど、人物のドラマを描く物語よりも、サンプルであるカップルを新手の禍々しい環境に放り込む実験に見えます。
郊外の一軒家、夫婦で子どもを育てる。
アメリカンドリームを悪夢に変えてみようという試みは、模造感を押し出したことでかなり効いてくる気色悪さをたたえています。
ヨンダーのもろにCGI感が出た背景の作りも、ここでは人工物特有の不自然な完璧さや居心地の悪さを強めていますね。
さらに音響についても閉鎖的な舞台におけるパラノイアを強めます。
OPでのけっこうおぞましいカッコウのこども。
あれがそのまま展開されるのですが、やたら残酷だったりグロかったりはせずに、シュールさを保っているから余計に、その抑揚のなさが効いてきます。
少し引いた視点からあぶり出されるのは、人間の家庭だと感じます。
トムとジェマの二人は、このヨンダーにおいて静かに互いを責め合いはじめますが、それはつがいが願望と違う環境に陥った際のメカニズム。
また少年を育てる(?)にあたっても、子どもを持つ理想が砕け散る様を象徴します。
自分の思っていた存在ではなく、全く異質の化け物。
子どもは自分から生まれていてもコントロール不能で、いつの間にか「お前は何なんだ?」という理解不能な存在になることもあるものですから。
それらをかなり意地悪な形で投影した実験映画。
こちらから離れていくアイゼンバーグ、反対に近づきやすいプーツ。二人の演技も素敵です。
嫌な想いをしますしイラつくこともあるので万人見易い作品ではないですが、1つのアイディアから広げた試みは一見の価値ありと思います。
最後に、実は社会情勢もこの作品の鑑賞に影響した気もします。新型コロナウイルスの感染拡大での、自粛。必要以上に家族と一緒にいるという閉塞。(さすがに嫌になって庭に穴掘ってそこで寝てる方はないですが)
ただ、コロナでの自宅待機のストレスが、この作品と重なる部分はあるかも?
感想は以上。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
それではまた次の記事で。
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