「アウトポスト」(2020)
- 監督:ロッド・ルーリー
- 脚本:エリック・ジョンソン、ポール・タマシー
- 原作:ジェイク・タッパー『The Outpost: An Untold Story of American Valor』
- 製作:ポール・タマシー、マーク・フライドマン、ジェフリー・グリーンスタイン、ポール・メリーマン、ジョナサン・ヤンガー、レス・ウェルドン
- 製作総指揮:ジェイク・タッパー、アンドリュー・ゲオルギエフ、ジョアンナ・カラファティス、ジョン・カラファティス、アヴィ・ラーナー、トレヴァー・ショート、マーク・ライノ・スミス、ロバート・ヴァン・ノーデン、トミー・ヴラホプロス
- 音楽:ラリー・グループ
- 撮影:ロレンツォ・セナトーレ
- 編集:マイケル・J・ドゥーシー
- 出演:スコット・イーストウッド、ケイレブ・ランドリー=ジョーンズ、オーランド・ブルーム、マイロ・ギブソン、ジェイコブ・スキピオ 他
「わらの犬」リメイク版で知られるロッド・ルーリー監督が、2006年のアフガニスタン紛争で、防御力の脆弱性から最悪の前哨基地であったキーティング基地でのタリバン兵とアメリカ軍の戦闘、カムデシュの戦いを映画化した作品。
ジェイク・タッパーによるノンフィクション小説を原作としており、やや脚色はされているようです。
主演は「ワイルド・スピード アイス・ブレイク」などのスコット・イーストウッド。
また「スリー・ビルボード」などのケイレブ・ランドリー=ジョーンズ、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのオーランド・ブルームが出演しています。
実際カムデシュの戦いのこととか全然知らなかったですし、作品のこともほとんど無知識でしたが、映画館での予告と出演にケイレブ・ランドリー=ジョーンズがいることで鑑賞することに。
最近はスコット・イーストウッドもいろいろと出てきて、彼自身のキャリアを積んでいるようでうれしいですね。
ちなみに全然本編と関係ないですが、ちょうど前週公開となっていた「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」、もともとセバスチャン・スタンの役はスコット・イーストウッドに行っていたらしいんですよ。
ただスケジュール関連で断念したらしいんですが、名誉勲章をめぐる映画を降りて、名誉勲章を得た兵士を演じることになり、日本ではそれが連続公開ですからちょっとおもしろい。
2009年、アフガニスタン紛争の中、ロメシャ率いる部隊は前哨基地へ配備され、夜の闇に紛れて降り立った。
明朝基地内を案内されるが、この前哨基地(アウトポスト)は周囲一体を高い山に囲まれた地形となっており、全方位からの格好の的であった。
毎日タリバンの兵士たちが山の陰から現れ、短い戦闘が起こる。
周辺のパトロールでは罠が仕掛けられていることもあった。
幸い毎回の戦闘は迫撃砲と長距離巡回用の武装車の砲撃もあり勝利している。
しかし、タリバンの兵士たちは毎回の攻撃から米軍の動きとこの基地の弱点を探っていたのだ。
そして10月3日朝、タリバンの猛攻が始まる。
ロッド・ルーリー監督の戦争映画であり、伝記映画でもある今作は、必要な部分を技術的な面も駆使してしっかりとおさえて演出したスリリングな作品です。
サム・メンデスの「1917 命をかけた伝令」のような昨今の技術的な進化を取り入れ、その長回しを多用する臨場感を最大限に生かしたものになっています。
多くの戦闘シーンでは、ドローンも使っていると思われるものもあり、役者にくっついたままで基地内を走り回り、そして爆撃の中でカットを割りません。
なので見ていると観客も兵士たちと共に戦闘に参加するような臨場感に包まれています。
戦闘シーンではそこまでカメラをぶれさせずに一連のアクションを見やすくしています。誰がどう動きどういった状況に置かれているのか。
これをしっかりと見せるのです。
だからこそ、混乱はありません。カオスな状況を描く戦争映画ではなくて、逆に分かっているけれど動けないという悔しさもこちらに感じさせてくる。
これはその時できることをした実在の兵士たちの行動を認め、伝える試みであり、また彼らのその場での感情を、戦闘に参加していない観客に共有する仕組みがあります。
英雄的な行動をとった彼らを覚えておいて欲しい、そして称賛を送る姿勢があります。
決してカムデシュの戦いを題材にして派手な戦争映画を撮りたいわけではないのです。
ただこの戦闘において布石がしっかりとしているのもまた効果的に感じ、今作の特徴であると思います。
OPすぐにロメシャたちが赴任してきて基地内を案内されるや否や、タリバンによる攻撃があります。
この案内自体も説明になっていますが、ここで迫撃砲の重要性が見えるんです。
山岳の途中に攻撃ができる迫撃砲。武装の配置説明と同時に、この迫撃砲潰された場合の不安を持たせます。
また、不安は他にもあります。
それはこの攻撃のあまりの突然さ。
特に演出はありません。ただ始まります。
それにすぐさま応戦し対応できる米兵部隊の優秀さも光りますが、この唐突さが頭から離れず以後付きまとうのです。
死角はない。どこからでも攻撃されるということは、つまり映画の中でここなら安全と気を休めて観ていられる瞬間がないということ。
ポーチでタバコをふかしていても、シャワーだろうが祖国への電話だろうが関係ない。
いつでも撃たれるかも知れない。
夜に外でたむろっているとき、兵士がタリバンの潜む周囲の山に向かって「くそったれ」と中指を立てるシーンがありますが、あの闇の深いこと。
スクリーンがただの黒に塗りつぶされます。
あれを相手にしているのです。ただ闇から銃撃があれば反応して撃ち返す。
そんな不安の中で基地からほとんど出ずに観客も過ごしていく。だから戦闘がなくても憔悴します。
そして戦闘が始まれば、そこには残酷なあっけなさがあります。
今作は実話をもとにしたノンフィクション小説を脚色した作品です。映画です。
だからやろうと思えばもっと感情的な演出を取り入れることもできたはずです。
しかしロッド・ルーリー監督はあえて現実を選びます。
別れも散り様もない死。唐突でドラマ性も排除された死がそこにあるのです。
実録的な臨場感はここでも効いています。カットの中でただ唐突に銃弾に倒れてしまう。それで終わり。
ただそれだからこそ、残酷なまでに淡々としているからこそ、余計に兵士たちの生も輝いていると思います。
両親や妻町恋人たちに電話している20~30の若者たちが、それだけのものを互いに預けあい命をかけている。
その精神に感服します。
映画のなかでは軍法や厳しい規律が見えます。攻撃に関しての完全確認の必要性や、ボトルにつまった小便まで、兵士たちの現実。
色々と削ぎおとして、剥き出しで兵士の現実をみせ、そのために撮影技術をフルに活用した今作。
ロッド・ルーリー監督の手腕が光る作品だと思います。
体感映画でもあるので是非劇場へ。
今回の感想は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
それではまた次の感想で。
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